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映画"Holdovers" Inflight movie critic

先週観た映画、5 out of 5 peanuts.

主演の Paul Giamatti は絵にかいたような性格俳優で、いくつかのTVドラマで見たことがあった。漫画のシンプソンズの親父みたいに、ぎょろりとした目玉が特徴的な、一癖も二癖もある役が多かった。

実在のヘッジファンドのSteve CohenとNY検事との抗争?をモデルにした Billions でも、実際はインド系のNY検事総長をねちっこく怪演していた。日本で言ったら誰だろう、竹中直人みたいな存在そのものが濃いキャラクターといった感じ。

結論、とてもいい映画だった。お勧め。

自分にとっては、映画「スリービルボード」、「ノマドランド」と、米国の没落した?ミドルクラスのトランプ支持とか米国の分断とか、大好きなアメリカが現在陥っている社会問題を理解するのにヒントをあたえてくれた、3番目の作品という位置づけに。

そういえば、その2作はアカデミー賞たくさんとってるので、たしかこのホールドオーバーズもノミネートされてたので、取るんじゃね?と密かに思った次第。

前述の2つの映画についての拙筆リンクはこちら:


別にこの3つの映画はシリーズだったりなくてまったく関係ないのだが、今回も、主人公の古代文明を高校で教えている教師と、荒れているミスフィッツの高校生男子を、米国社会の象徴みたいに捉えてみてしまう。

スリービルボードがトランプ当選の頃、ノマドランドがバイデン当選の頃だったか、そして、今、2024年の大統領選。

スリービルボードが、没落したミドルクラスの怒りについて説明してくれたとすると、ノマドランドは彼らの癒しだったと勝手に理解。そして今度は、トランプ再選機運についてどうこちらの頭の整理をしておくべきかの手がかり。

古代文明が専門の、ボーディングスクールの癖あり教師は、生徒にも同僚教師にも嫌われている。それが冬休みの、実家に帰れない寄宿生生徒の面倒をみる役に。いろいろハプニングがあって、結局、この教師と、問題児生徒と、黒人の給仕担当のおばさんの3人が居残りに。3人の気があうはずはなく、とげとげしい、息詰まる雰囲気に。唯一、恰幅がよくでどしっとした黒人おばさんのネアカの喋りが救い。この3人が、ボストンへと泊りの旅にでることに。

お、ロードムービー、好物のやつだと僕はほくそ笑む。

旅先でだんだん3人のいろいろなことが分かってくる。以下、ネタバレ。


教師は、じつはハーバード大で期待された研究者だったが、論文盗作疑惑で追放になってボーディングスクールに拾われたと。生徒は、実の父が精神病でボストンの病院にずっといて父親をクリスマスに訪ねたかった。黒人おばはんは、一人息子がこのボーディングスクール卒だったがベトナム戦争で戦死。

それぞれ傷を抱えた3人のロードツリップ。

思春期で揺れ動く生徒にとって、だんだん、疑似的な家族みたいな、いやな教師がいい父親みたいに、おばはんはいるだけで場を和やかにする母親みたいな存在に、そして、それぞれがそうなっていく過程でそれぞれも癒されていく。教師は、荒れる生徒に自分の若かったころを重ねる。同じうつ病の薬を飲んでいるのを知る。

そしてエンディングは、こちらのネタバレはしません。教師がある行動を起こす。息子を思う父親のような、凛々しい決断。

そして、やはりアメリカがまだまだ若くて底力がある国だなあと笑ってしまうちょっとしたことをエンディングにする。権威に対して中指たてて、笑い飛ばすような。

爽快感の残る映画でした。

あ、そうだ、どの役が米国ミドルクラスを象徴していたか。まあ、生徒ですかね。人生うまくいかずもう黄昏をむかえつつある教師は、アメリカのリベラルを。それを暖かく見守っているのが息子を亡くした黒人のおばはんだが、彼女はなんの象徴だろう。根強くデモクラット支持の、南部とかのマイノリティなのか。

みかけによらぬ、捨て身の大決断をして、はははと豪快に笑いながら学校を去っていく教師がリベラル・デモクラットだとしたら、それに救われてこれから世に出ていく生徒は、揺れ動く米国ミドルクラスなのか、米国そのものなのか。

まあ、アカデミー賞結果とか、11月の選挙結果とか、気になりますねえ。

最後に、ちょっと気になったのは、主人公が、古代ローマ皇帝マルクス・アウレリウスの「自省録」を生徒へのクリスマス・プレゼントとして贈っていること。なにやら、「神」という言葉をいっさい使わずにいろんなことを語ってるからすごいんだとかいいながら。この本、受験勉強で存在はしっていたが読んだことはないし読もうと思わない類の本だが、ちょっと気になったので、キンドルでみてみようかな。なにか、分断の米国を救う知恵でも書いてあるのだろうか。 ■

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