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アカデミー賞候補鑑賞

便利になったもので、アカデミー賞候補の映画がいくつかオンラインでみれた。

先週、足の肉離れをやってしまい運動ができないので、寝っ転がってNetflixで The Power of the Dog と、この The Lost Daughter を観た。Don't Look Up は先月Netfilixでみたし、ドライブ・マイ・カーは12月に帰国のANAフライトで見れた。ウェスト・サイド・ストーリーだけ映画館でみたということになる。

今週観た2作、けっこう重厚な芸術作品。どっちも女性の監督。

正直、どちらも自分が素直に感情移入できる登場人物がでてこないので、自分とは「他者」である人たちの生き様をしみじみ垣間見させてくれたというような映画だった。

パワーのほうが、1920年くらいの牧場のカウボーイのゲイの主人公、ドーターのほうが2人の娘の子育てを終えた48才の大学教授の女性。それぞれ、重苦しい過去を抱え込んでいる。

逆に、ドライブ・マイ・カーは主人公が日本人の男性だし、多言語が飛び交うドラマの演出をしていたりして、自分だったらどう感じるかなというような感情移入の余地が多々あった。

最後までみた感想としては、そうした悩む魂の救済劇としては、意外にドーターが一番よかった。感情移入はそんなにできなかったが。パワーのドラマの仕掛けはちょっと不気味。死が救済のようで、鑑賞後味が重たかった。ドーターもそうなるかと心配したが、主人公のおばさんは自分からドラマを仕掛けて回収した感じ。それを以下、ネタバレ避けながら。

ドライブ・マイ・カーもとてもいいんですが、最後のほうのロードムービー展開になったあたりから、あれれ。あれとは違う感じのエンディングでこちらの意表をつくような救済ドラマであってもよかったかなあ。

パワーもドーターも、ある意味、「多様性」を丁寧に描いている感じがした。

パワーにでてくる、一昔まえのカミングアウトできないゲイの苦悩とか、逆にそれが無理なマチズムで暴力的になったりするのは、性の多様性の表現して今どき珍しくない。

ドーターのほうは、子育てする母親と1人の女性としての人生の葛藤を描きながら、「母性の在り方の多様性」みたいなことが問いかけられていたような気がした。

48才の主人公はたぶん離婚してて、2人の娘はもう20代で自立している。主人公は米大学教授でイタリア文学の専門家で、自力で貧しい?家庭から這い上がって学位を取得して、のし上がるために必死に努力して、その過程で不倫して2年ほど家族を捨てて家を出てしまったようだが、その後は娘2人とは和解しているようす。

ギリシャのひなびた避暑地の島で、主人公は1人でのんびり仕事をしながら長期休暇を過ごすのだが、ビーチでちょっと柄が悪いが羽振りのいいNYクイーンズ出身の一家に出くわす。

この一家の幼い娘がいる20代の女性との交流でちょっとしたドラマがあり、そこに、観ている観客からするとなぜ?と思うことを主人公がする。

なぜそうしたかは、結局よくわからないのだが、彼女の複雑な母としての回想を見せられると、なんとなくそこに彼女が感じている子育てというか母性そのものについての違和感や葛藤の答えが秘められているような気もしてくる。

そんな過去をかかえている48才を演じていたのが主演女優賞候補のオリビア・コールマン、その若い頃の子育てに奮戦するのを演じたのが助演女優賞候補のジェシー・バックリー。ふたりともとてもいい。ジェシーのほうはなんかみたことあるなと思ったら、去年観た、「もう終わりにしよう」でもいい味だしていた女優だった。たしか脚本賞もノミネート。

おそらく、言わんとしていたことのひとつは、母性の在り方にもいろいろあって、紋切り型の理想の母親像だけでなくて、多様な在り方があるんですよということかなあ。

主人公は過去の娘が小さかった頃の出来事を振り返って、自分は母親失格だったんじゃないかと思ったりする。ギリシャで出会った一家の女性が幼い娘に手こずっているのをみて、主人公はまたいろいろ考える。シンボリックに登場させた人形とかが、そうした母性の大変さや辛さみたいな部分を描いているようにみえる。

ここらへん、正直、父親しかやったことがない僕にはよくわからない。こういうことを書くと今の御時世だと多様性への理解を欠くことになってしまうが、自分で腑に落ちることと、他者の人生を垣間見てへえと思うことは別だと思う。なので、へえ、母親は大変なんだなとは思った。

やっぱり、子供って、12才くらいまで四六時中みてあげないといけない大変な存在で、仕事とか社会が複雑になってきている現代だと、そういう社会生活と家庭の両立は常にフラストレーション。そしてティーンエイジになると、加護を与えてくれてきた親に反発することで自我を確立していくのでそれなりの親子の戦いがあって、それで巣立っていく。

毒親みたいなこともそりゃあるが、大概、一般的には、親は一生懸命だし、振り返ると子育てはいろいろ人生を彩るドラマだったりする。

親の在り方はいろいろ在り得て、それぞれがやっかいなドラマを抱えてて、それでいて、なかなか生きることに深みを与えてくれてる。この映画では、そんな母性の辛いところや、時にダークなところが垣間見れて、それでいて、最後は、性の在り方にも多様性があるように、いろいろと母性にも多様性があっていいんじゃないのと締めくくっていたようにお見受けした。もう大きくなった娘と主人公の関係は良さげだし、オープニングが示唆するような悲劇に終わらなかったし。

こりゃ、なんか賞を受賞するでしょう。よかった。■







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