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『引き出しの奥』(『さがしもの』より)

『引き出しの奥』(『さがしもの』より)
角田光代著


主人公(しの)は誰とでも寝る。そのため、「やりまん」だとか、「公衆便所」などの陰口を叩かれる。
(しの)は、男性に対して、特別な好意を持っているわけでもなく、ご飯をおごってくれたり家まで送ってくれることへのお礼として寝るというだけで、それ以上の意味はない。ある日、古本にまつわる都市伝説のような話を聞く。古本の裏表紙にたくさんの書き込みがしてあるという本が、出回っていいて、その本を手にした者は、何らかのメッセージを書き込むと言う。(しの)は、その本を見てみたいと思った。人々は、何をメッセージとして残すのか?何か心を揺り動かされるものなのか?自分が、その本を手にした時、どんな書き込みを残すことが出来るのだろうか?

そんな頃、サカイテツヤと出逢う。
彼は、「ドイツ観念論」の授業で一緒らしいのだけど、(しの)はほとんど意識したことがなかった。

キーワードとしては、
「ドイツ観念論」
理性や意識、精神など、人間の「内面的」な側面に重点を置く哲学。この哲学の中心的なテーマは、人間が現実を理解し、それについて考える方法。これらの哲学者たちは、経験だけではなく理性を用いて物事を理解し、そこから普遍的な真理を導き出すことを試みた。そして、これらの哲学者たちの思考は、哲学だけでなく政治、芸術、科学など、多岐にわたる分野に深い影響を与えた。特に、カントの「純粋理性批判」は、西洋哲学における重要な転換点となり、その後の哲学的思考に大きな影響を与えた。

理性は、直感や感覚だけではなく、論理的思考や概念の形成なども含んでいます。経験に基づく感覚情報だけでなく、理性を用いて経験を分析し、それについて考えることが重要だとした。

ドイツ観念論では、思考の引き出しや情報処理の手段としての役割を果たすのが理性であり、それを通じて我々は物事を理解し、考えることができるとされている。

本書にもどると、(しの)は、ドイツ観念論の授業をとるサカイテツヤとの出逢いを通して、無駄にセックスをする意味がないことに気づいて理性を取り戻していく。

ある日、背後から走ってくるサカイテツヤが、(しの)の手をとって、ドイツ観念論の授業に向う、その時、(しの)のこころが動かされる、と言う話。

主題は何か?
自分は、何を考えているのか?とか、何を感じているのか?意識をこころに向けて見て初めて、理性的に物事を理解することが出来るものだということ。そして、そのきっかけになるのは、思いを文章にするということなのだと思った。

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