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あなたを思い出す

いつまで経っても、忘れられないものがある。

大事に思っていたはずなのに、かけらも思い出せないような物事もあるけれど、ちょっとしたことが心にずっと残っていたりする。

例えば、高校時代に1回ライブを観ただけの、地元のインディーズバンド。

当時、友達に誘われて、先輩がやっているバンドのライブをよく観に行っていた。
夜の外食にすらも出かけないような家庭で育った私にとって、アングラな雰囲気のあるライブハウスというのは、とても刺激的でときめく場所だった。
そのライブハウスで、先輩のバンドの解散ライブの対バンをしていたとあるバンド。
たった1回観ただけなのに、そのサウンドは私の脳裏にこびりついた。

あなたを思い出す
僕は誰かの背中、ふとした匂いに
あなたを恋しがる
僕は誰かのぬくもり、ふとした仕草に

その日物販で売っていたCDを買わなかったことを、(正確にはお財布が空っぽで買えなかった)未だに後悔する夜がある。

私が覚えているのは、そのあとに繰り返し聴いたYouTubeの音源であって、もうそのときのパフォーマンスそれ自体なんて覚えてない。

それに関する記憶も、そのときの感情も残ってなんていなくて、ただ私が持っているのは、そのような出来事があったという記録と、えも言われぬ執着心だけだ。

どうしようもない、心の奥にはりついた気持ちを、剥がそうとはせずそのまま大切にする。曖昧なものを曖昧なままにすることが、私には必要だったりする。

失恋したあの人への気持ちも、今持っているのはただのその残穢。その人の顔も声も匂いも、全部落としてきてしまった。そんなものどこまでも連れて行くことはできない。し、いらない。

そうやって体内に残ったかすが、私の栄養分になって、人生を彩っている。

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