靴ひも

 靴ひもが異様に解けやすい時期が、1年に何回かやってくる。極端な日だと、徒歩15分の道のりなのに、左足のために1回、右足のために2回も道端にしゃがむこともある。また、人の流れが速くてなかなか立ち止まれない場合のElephant in the room的靴ひもは、文字通り足手纏いなものである。転ばないように、慎重に歩く必要がある状態なのに、あまりにスムーズに進む流れについていく必要にも追われるのは、盲目的な恋をしていない限り居心地の良いものではない。(※)こんな風に過ごさねばならない時期は、過ぎていたことに忘れてから気づくものだが、一定期間、些細だが断続的にやってくる恥ずかしさと、それを上回る煩わしさに耐えねばならないのが大変疎ましい。

 私としては、年中同じやり方で靴ひもを結んでいるつもりである。しかし、この時期に入ってしまうと、それが全く通じなくなる。この原因が私には本当に分からないのだ。原因が分からないことには対処のしようがない。その結果、これまでは必要のなかった苛立ちに頭を支配される日が続き、果ては自分の手に猜疑の念を向けるようになり、これまた余計なストレスを貯め続けることになる。

 失敗例を自分自身によって次々に示されたところで、それらについて深く考えられていないからそのうち同じようなことを繰り返してしまう、というのは靴ひもに限った話ではないだろうが、こうやって言葉にしてみると、なんとも情けない人間のように思われる。しかしながら、私が靴ひもを結び直すことをやめることはない。考えに考え抜く時間がないのなら、応急処置をし続けるしかない、と今は思う。そうして、忘れた頃になってようやく、どうすれば良かったかが明かされるのかもしれない、と都合のいいことを言い聞かせる。

※ 靴ひも/Mr.Children
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