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精神保健福祉におけるピアサポート考《1》「ピア」及び「ピアサポーター」とは


はじめに

今回の記事では、前提として「ピア」、「ピアサポーター」という言葉の定義を中心に、先行研究の文献より紐解いていきます。
しばらくはピアサポートの現状やこれまでの歴史についてまとめていく予定です。その上で私が行ったインタビュー調査(たどり着くまで結構時間がかかりそうです。私も早く書きたいんですけどね…申し訳ない…。)の結果を読んで頂くと、より理解が進みやすいかと思います。
長くて面倒くさーい!という方は、ひとまず流し読みして頂いて、後ほどお時間のございます時にまた読み返して頂けると嬉しいです。

「ピア」という言葉について

宇田川(2013)は、「ピア」という言葉の語源について「精神保健分野に限らず、アメリカの公民権運動やマイノリティーが力を得るために行われてきた運動において、その集団のお互い同士を表すために使われてきた言葉である」と述べています(宇田川2013:17)。
日本における「ピア」とは、「仲間」「対等」という意味の言葉で、「ピアサポート」とは、「仲間同士の支えあい」ということを指します。
「ピア」には子育てをしている親のピア、大学における学生同士のピアなどがありますが、精神保健福祉分野においては、「同じ問題や環境を体験した人が、対等な関係性の仲間として相互に支援を提供、受ける活動であり、多様且つ字柔軟で利便性があって、サービスの不備な点を補充、検証、是正、改革する地域生活支援システムの一つである」(坂本2008:76)と定義されています。
また、「仲間」という言葉に「同様な経験、同様な境遇、同様な環境に置かれた者同士」として、現在では、「同様の障がいや病気を経験している人=当事者」という意味を含むようになってきています(相川2013:6)。

ピアサポート活動の種類

ピアサポート活動は大きく二つに分類することができます。
一つは当事者団体による日常的な支援活動。たとえば札幌の「すみれ会」(1990年設立)、東京の「こらーるたいとう」(1998設立)が代表例としてあり、また、最近では「島根県支援する会ふあっと」(2001年設立)「ぴあ・さぽ千葉」(2008年設立)など、全国各地でピア同士の支援を前面に打ち出した当事者団体が立ち上がっています。
もう一つは、精神障害者の地域移行支援事業でいうピアサポートであり、社会的入院患者の退院の過程における「地域で暮らす精神障害者の活用」を指します(松本・上野2013:60-61)。

セルフヘルプとピアサポート

ピアサポートと類似した言葉に「セルフヘルプ(もしくは自助)」というものがあります。
セルフヘルプはもっとも古いピアサポートの形であるとされ、セルフヘルプの定義について、相川(2013)はKatz & Benderによる以下を紹介しています。「相互扶助並びに特殊な目的達成のためのボランタリーな小集団構造である。通常は、共通のニーズを満たし、共通のハンディキャップや生活を崩壊させる目的を克服し、望ましい社会的・個人的変化を生じさせたりするときの相互扶助のために集まった集団(peer)によって形成される」(相川2013:8)。
また、半澤(2001)はセルフヘルプグループを「精神障害者という疾病と障害を併せ持つゆえに共通する生活上の課題を持つメンバー同士が、主体的に仲間同士で支え合う活動を実践するグループであり、専ら専門職が運営するグループを除くもの」としています(半澤2001:148)。
セルフヘルプもピアサポートも、当事者同士が同じ悩みを持つ者としてお互いを支援することを意味していますが、グループで活動していたセルフヘルプが発展し、ピアサポートが広がりを見せるようになりました。

「ピアサポーター」とは

ピアサポートを行う「ピアサポーター」について、相川(2013)は次のように定義しています。

「疾患や障がいがあり保健福祉サービスの受け手(利用者)であり、かつ保健福祉サービスの送り手(職員)となっている人で、かつそれを仕事として報酬を得ている人」

相川章子『精神障がいピアサポーター 活動の実際と効果的な養成・育成プログラム』

ピアサポーターにしかない特徴として、サービスの受け手であり、且つ送り手であるという点があります。
それまでの支援システムでは「サービスを提供する人(支援者)」と「サービスを受ける人(被支援者)」の2つしかなかったところに、「どちらでもある」ということをオープンにしていることが、ピアサポーターの存在意義であると考えられます。
ピアサポーターは自らの人生経験を活かし、時にそれを利用者に語ることを通して、利用者のリカバリーに寄与する専門職であるといえます。
上で挙げたようにピアサポーターはサービスの受け手であり、かつ送り手であるため、セルフヘルプグループ以上にサービス提供の側面が強くなっています。

以上の先行研究から、セルフヘルプとピアサポートの違いとしては、セルフヘルプは主にグループで行われていることに対し、ピアサポートは専門職による訪問に同行するなど、一対一の個人的な関係を築くことができることが特徴であると考えられます。
また、ピアサポートはセルフヘルプが「専門職の運営するグループを除く」ということを特徴するのに対し、専門職との協働を重視しています。
従来サービスの送り手である専門職しかいなかったところにピアサポーターが加わることで、より当事者の気持ちを理解することができるようになったと考えられます。

ピアサポーターには他に様々な名称がつけられており、事業所によって呼び方が違う場合があります。
「ピアスタッフ」「当事者スタッフ」「メンバースタッフ」「コンシューマースタッフ」「ピアヘルパー」「ピアカウンセラー」などがその例に挙げられますが、登場の背景は違えど、どれも当事者の支援を行う当事者という意味であことには変わりありません。
各都道府県の地域移行支援事業関係や厚生労働省から出された公的なプロジェクト等では「ピアサポーター」という呼称が使われています。

しかし、橋本(2013)は、日本におけるピアサポートのとらえ方については、同じ用語を使っていても、役割や目的が異なるなど、協働する専門職の中に理解の違いがみられていると指摘しています。
さらに、長期入院者の退院促進の事業を通じて同じ役割を担っているように見えても、研修等でのピアサポーターの発言や関係者の発言などから見解の相違もみられ、その実態は明らかになっていないともされています。
このような現場でのピアサポートという言葉の受け止め方の相違は、少なからず当事者でもあるピアサポーターの活動に影響を与えていると考えられており、その立場を考える際にも、支援者としての役割を前面に出すのか、ピアサポーター自身のリカバリーを前面に出すのか、あるいは両方の立場を求めるのかということが明確になっていないのが現状です。(橋本2013:6)

ピアサポーターの資格化への動き

アメリカでは2000年頃に「認定ピアスペシャリスト」が制度化されています。
認定ピアスペシャリストとは、自らの人生経験を生かし、リカバリーの途上にある人々に対してフォーマルなピアサポートを提供するための新たな資格です。

日本では、アメリカのピアスペシャリストにならい、2013年度からピアサポート専門員を養成するため、「精神障がい者ピアサポート専門員養成研修」を全国5か所(※コロナ禍ではオンライン)で行っています。
研修においては、アメリカの「ピアスペシャリストトレーニングマニュアル」を元にした「精神障がい者ピアサポート専門員養成のためのテキストガイド」を用いています。
2015年には精神障がい者ピアサポート専門員養成研修の運営主体であった「精神障がい者ピアサポート専門員研修企画委員会」が「一般社団法人日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構」を設立し、「ピアサポート専門員」の制度化を目指しています。
ピアサポート専門員の活用により見込まれる支援効果につきましては「日本メンタルヘルス ピアサポート専門員研修機構」のHP内にあります、「ピアサポート専門員とは」に詳しく書かれておりますので割愛させて頂きます。

おわりに

ここまではピアサポートについての研究を行うにあたり、そもそもピアサポートとは何であるかということを定義、セルフヘルプとの違い、呼ばれている名称をもとに整理してきました。
これらを踏まえ、次の記事ではピアサポートを歴史の側面からさらに詳しく考察していきます。

今回の記事での参考文献リスト

相川章子(2013)『精神障がいピアサポーター 活動の実際と効果的な養成・育成プログラム』中央法規
橋本達志(2013)「当事者による支援活動(ピアサポート)の現状と課題」『精神保健福祉』44(1)
半澤節子(2001)「当事者に学ぶ精神障害者のセルフヘルプ-グループと専門職の支援」やどかり出版
松本真由美・上野武治(2013)「精神障害者地域移行支援事業におけるピアサポートの効果」『精神障害とリハビリテーション』17(1)
坂本智代枝(2008)「精神障害者のピアサポートにおける実践課題―日本と欧米の文献検討を通して―」『高知女子大学紀要』
宇田川健(2013)「当事者が望むピアサポート活動とパートナーシップのあり方」『精神科臨床サービス』13(1)

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