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kono星noHIKARI 第4話

MUGEN     2020.03.26 


 ビルの自室に戻ったルカは、書斎のパソコンにPASSコードを入れ部屋を出た。エレベーターに向かう。今まで存在しなかった3階下のボタンを押すと、ドアが開き、またエレベーターと同じくらいの小さな部屋が現れる。その壁に設置された顔認証とPASSコードの入力はせず、開閉のスイッチを押す。ドアが開く。

 モニターを見ていたダニーがびっくりした表情で椅子を回転させ振り返る。
ダニ「へー。やっぱり設計者だな。NEXTルームの入力は要らないんだ」

 この部屋の存在を知るのはルカ以外に多国籍企業の「MUGEN」製作チームのリーダーだけのはずだが。
ルカ「やっぱり、君か。ここに来ていると思った。お久しぶり。さすがT160(ティゼロ)だ」

ダニ「ダニーと言います。お久しぶりっ」

ルカ「ぶふっっダニーなの?名前」

ダニ「そう。Daniel。M267(エムセブン)は?」

ルカ「Lucas。ルカでいいよ」

ダニ「ふーんんんふっ」

ルカ「笑うなよダ二ー」

ダニ「んふふふふっ。俺の方は、あとね、Top(中央省)のJ255(ジェイファイブ)とK384(ケイフォー)」

ルカ「J255って何言っても融通の効かない役人の?」
 ダニーの右隣の椅子に腰掛け、覗き込む。

ダニ「ジェフねー。だいぶ丸くなったの。ルカに会えるかもって言ったら、喜んでたよ」

ルカ「へー。あんな堅物も角が取れるんだー。覚えてくれてるんだー。へえー。あ、K384って、プログラムで一緒だった彼女?」

ダニ「の《gemini》だよ」

ルカ「え?」

ダニ「事故で死んだんだ。で、彼女のスペックを利用して、Topに申請した。ま、そこで対応してくれたのが、まさかのジェフでね。いろいろ助かったのよ」

ルカ「そうなのか。大変だったね。──彼女にインプットは?」

ダニ「していない。以前の話もしていない」

ルカ「まぁ、うん。なんか、わかる気がする。悩むよな。スペックのインプットと記憶のインプットは違うし、不安だよな。混乱しそうで。彼女にそんな思いをさせたくないんだろ?」

ダニ「そうなんだよね。あ、リオって言うのよ。リオはまだ、彼女でも彼でもないけどね」

ルカ「まだ、どっちになるか決めてないんだ?」

ダニ「楽しんでる節がある。もーう、わがままで奔放すぎて手に負えない時がある」

ルカ「あーそう。その割に嬉しそうに言ってるよ?こっちはK143(ケイスリー)と《original》のワンセット。K143もプログラムにいたから分かるだろ?」

ダニ「ど真面目遺伝子研究者のK143」

ルカ「そうそう。彼には日本語が合うねー。ど真面目遺伝子研究者いつもニコニコのニコルと、M456(エムシックス)のノア」

ダニ「知ってるよ。ノアって言うのね。生物の知識がヤバい《original》でしょ」

ルカ「とても、素直で元気ないい子だよ。不思議なところもあるけど。意識の解放ができないけど、この星なら開放する必要ないし、この空中成分なら近距離での意思疎通(テレパシー)は可能だ。2人ともまだ、調整中だからもう2日くらいは眠っていると思う」

ダニ「そうか。会えるのはもう少し先か......こっちに来てから、この部屋に気付いて。万が一、何かあった時の為の部屋を作ってたってことだよね。実際、びっくりしたけどね。諜報機関まで把握してるんだね。あーこれは見てはいけない部分だと思って慌てたけどね」

ルカ「ダニーなら気付くと思ってたよ。ビルのてっぺんが吹っ飛びそうなときは、ここに来ればいい。地下にもシェルターがある」

ダニ「地下までは気付かなかった」

 30㎡程の小さな部屋。目の前が大画面のモニターとなっている。天井の灯りは無いがモニターと手元のタッチパネルだけで十分明るい。
 楕円形のタッチパネルをルカが操作し始めた。途端、目の前の壁一面のモニターは、無数の光の点滅から始まり、記号や数字の羅列が終わると、幾何学的な模様がいく通りも作り出されては消えた。
 無言でタッチパネルを動かすルカと補佐をするダニー。

 約1時間後。
ルカ「俺が呼ばれた理由はこれ?」

 モニターには [Unknown error] の文字。

ダニ「ルカ、俺の力ではここまでなんだ」

ルカ「2034年から先がいきなり消えた?MUGENのシステムエラーの可能性は?」

ダニ「その可能性は無い。ジェフと確認した。KP系のデータだけでなく、太陽系のデータも158年後から消えてる。最近まで存在してた。あったんだ。自分らの星では解決の糸口も見つけられなくて。MUGENに解答を求めに来た。でも、答えがない。答えがないことが答えだとすれば──」

ルカ「──惑星が消える?」

 2人の間に沈黙が流れた。


ダニ「MUGENの限界を超えたところだとしたらルカの力が必要だ」

ルカ「まだ、分からない。ダニーの方は?惑星の消滅と仮定して天文学的に何か可能性のあるものは?」

ダニ「ひとつ気になることがある。MUGENの中でやっと見つけた。 天の川銀河系の中心のブラックホールに向っている彗星が存在しているようなんだ。過去の記録が全然ない。ブラックホールの真後ろで、気付かないんだ。まだこの星の出現に誰も気付いていないんだ。偶然かもしれない」

ルカ「ブラックホールに向けて真っ直ぐ進んでいるんだ?銀河の中心のブラックホールの膨大な質量は周辺の星に超高速回転をかけるから、その星たちがあらゆる軌道を作り周回をしているんだよね?直線に近い長く大きな楕円の軌道を描いているのか?その計算が成り立つとすると、天の川銀河系を超えて周回してるということか。そんな彗星聞いたことがないぞ。ブラックホールがのみ込む確率は?」

ダニ「その彗星に僅かな角度がある。ブラックホールギリギリに躱しそうだ。吸い込まれる可能性は少ないと思う。いっそブラックホールに行ってくれたほうが―。彗星の組成と質量が分からない現時点ではなんとも。この軌道の計算を既にMUGENがどこかで行っていて、KP系や太陽系に影響があるとした結果だったら──」

ルカ「まだ、この彗星のせいとは言えない。600光年離れているKP系と太陽系がそんな短い間に影響を受けることはないはずだが」

ダニ「んー。そうだよね。MUGENが計算を行った痕跡も、まだ見つけられないんだ」

ルカ「よし、じっくり調べていこう」

ダニ「はあぁぁぁー、良かったぁ。ひとりでね、つらかったのよ。まだ、ジェフには言えないし。ルカが来なかったら、どうしようかと思ってて」

ルカ「ひとりで苦しまなくていいよ」

ダニ「ありがとう!ほんとありがと!」
 顔をクシャクシャにして喜んだ。

 しかし、 笑顔の2人の意識が、事の重大さにビリビリと緊張しているのがお互いに伝わっている。

ルカ「ダニー。上に戻って、朝ごはんを食べよう。痩せすぎだ」




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