見出し画像

kono星noHIKARI 第12話


GEMINI & ORIGINAL Ⅳ   2020.03.30


 ソファーに横たわるノアに膝枕しているリオと、足元に座るダニーのふたりがFILMを発生させている。FILMはひとつの大きな水滴となって3人を覆っている。ノアのMIND(思念)は今ここにないが、気持ちよくただ眠っているようにも見える。

ダニ「重くないか?疲れてない?」
 リオを気遣う。3人の髪や服がFILMの中に漂う。

リオ「大丈夫。FILMのお陰で軽く感じる。こうやっていることで、ノアが助かるならいつまでも膝枕しててやるよ」
 ぶっきらぼうな言い方をしているが白い指先はノアの頭を優しく撫でている。

ダニ「リオが疲れたら代わるから」

リオ「ありがと。てか、二人きりで話すのさ、久しぶりだよね。気付いてる?」

ダニ「そうだな。さっきのMUGENのデータの話、びっくりしたでしょ?まだ、全然はっきりしてないけど、はっきりさせたくて、頑張ってたんだ。話する暇もなくて悪かったね」

リオ「いや、僕も出かけたりしたし。星の話はまだ、理解できていない」
 お互いに何か言いだそうとして、止める。日が傾いて、ビルの影が他のビルに幾何学模様を落としている。


 しばらくしてリオが口を開いた。
リオ「originalってさ、お母さんから産まれるじゃない?すごく、危険なのにさ。好きな人の子供って、かわいくてさ、すごく大事に思うんだろうね」

ダニ「そうだろうね。さっき、ニコがノアの両親の話をした時、俺も考えてた。産みたいの?」

リオ「お、いきなりっ!いや、そっちはまだ考えたこともない。僕が産まれた時はどうだった?まあ言ってみれば、機械から出てきたわけじゃん」

ダニ「すごくうれしかったよ」

リオ「親みたいな感じ?」

ダニ「いや、何かいろいろごちゃ混ぜの気持ちだったけど、すごいうれしかった。機械からだろうとひとつの生命が始まったんだから」

リオ「恋人の復活だ」

ダニ「リオ──。俺から早く言えばよかったよね。リオは俺の恋人のgemini(クローン)だ」

リオ「知ってたよ。なんか、彼女は同じ職場だったんだね。仕事し始めたら職場に変な空気感があって、知らない人に呼び止められたり。ここにきたら、ジェフの意識からポロポロ情報がこぼれてたよ。ダニーより先にジェフから知らされるとはね」

ダニ「やっぱりなぁ〜ジェフさ、あれで役人よ?」

リオ「最初、ジェフもとっつき難くて、僕はこれからどうしようって、途方に暮れた。ダニーやジェフを見ると、大人ぶっててさ、仕事の方が凄く大事で、僕のことなんか何にも考えてないんだって思ってさ。誰も何も言ってくれない。これから僕はどうなっていけばいい?なんで、僕を作った?僕が進む先はどこ?こんな悩む僕の未来のこと考えた?苦しんだよ。もう、ダニーの顔も見たくないやって。でもね。地球の歴史やアートに触れている時は、夢中になってて、辛い気持ちが和らいだんだ。海外に出たのは正解だった。僕の知識をはるかに超えてすごかった」

 遠い異国を思い出すように窓の外を眺めながら続ける。
リオ「僕、海外で迷子になったでしょ?ジェフに電話すると、ダニーがジェフに指図してる声がするんだ。その声が聞きたくて、どうしても寂しい時は何度か、迷子なったって噓ついちゃった」

ダニ「俺の声、聞いてたの?」

リオ「そう。変だよね僕。会いたくないのに。声聞きたいなんて。それで、海外から戻った時に思い切ってジェフに詳しく聞こうと思ってたんだよね。ダニーと恋人のこと。そしたらそこはダニーと話せって。教えてくれなかった」

ダニ「日本語変だけど、結構、考えてくれてるよ?」

リオ「最初は、ムカついたけどね。意識解放してさ。もう、ボロボロ溢れててさ。日本を旅してるうちに少し落ち着いてきて、でも、わざとジェフはばら蒔いたのかなって思った」

ダニ「ジェフがそこまで考えるかな?どうだろう」

リオ「あー、そうだ。帰ってくるたびにジェフが垢抜けてて、おかしかったよね。自分の意見言ったりしてるし、ダニーにご飯食べさせてるし、おやおやどうしたって感じで、びっくりした。ダニーが彼を変えたんだよね?」

ダニ「違うよ。あ、きっかけにはなったかな?彼は自分で自分を変えてる最中。毎日、この星に順応しようと努力してるし、俺も助けて貰ってる。良いやつだよ」

リオ「うん。分かってる。あ、うふふふっ。言ってるそばから、ジェフだ」

ダニ「?」

 ジェフがバタバタと駆けこんできた。
ジェ「A105(エーファイブ)、ルカ見つけた。で、どっかに行っちゃった」

ダニ・リオ「はい?どうゆうこと?」
 ふたりの声がかぶる。話がよく分からない。

ジェ「で、待っててってて。じゃ、行く。あ、drink。あ、Have a good talk!ちゃんと話すのよ!ダニーとリオ」
 と人差し指を口の横で天井に向け、言うだけ言って戻っていった。

ダニ「ドリンクボトルしっかり3本置いてった。んふふ。あ、なんでジェフ来るって分かったの?」

リオ「意識でもなんでもないんだよね。その人のことを思うと、何となく行動が浮かぶの。だから、ダニーが、話したくないんだなってことも分かってさ、辛かったよ」

ダニ「あ、俺、全部、ジェフの意識のせいにしてた」

リオ「それは、酷いわ。ダニーのせいなのに」

ダニ「俺ね、なんか、リオに顔を合わせられなくなって。最初は、苦しい自分を、救うためだった。ただただ、自分の為。死んだK384(ケイフォー)に会いたくて、会いたくて。気が狂いそうで。Request(クローン申請)しちゃったんだ。その時は、それしか考えられなくて。K384が再び自分の元に戻って来ることだけを夢見てた。生まれた子を見たら可愛くてさ、小さい時のK384はこんな感じだったんだなーって。どんどん愛した人に似ていくお前の成長が楽しみで。毎日、Centerに見に行ったよ。そしたら、何もインプットされてないのに美術や歴史に興味を持って、確かに彼女もそんな仕事をしてたけど、それ以上に、お前は色んな知識を求めて行動し始めて、これはK384じゃない、一個人のお前なんだって気付いたの。だからスペックと記憶のインプットをしろとは言えなくなった。勝手な事をしてしまったと思って」

リオ「でも、ダニーのRequestで僕は作り出された。そのお陰で、僕はいろんな事を、いろんな経験をさせてもらってる。だから、ダニーの為に生きたいと思ってるよ」

ダニ「俺に感謝することはないし、俺はお前を束縛する気はない。そんな資格はないよ」

リオ「違う違う。そんなこと言わないで。僕の気持ち知ってるでしょ?──僕は、ダニーが好きだ。ずっとそばにいたいんだ、僕が。でも、女としての愛情なのか、男としての友情なのか、分からないんだ。──大好きだから、ダニーが凄く愛した人の記憶を、受け入れようと考えた時もあった。多分、愛し愛されて幸せになれると思うよ。だけど。だけど、今、ここにある僕の心はどっかに行っちゃうの?僕は違う人になっちゃうの?──違う。ダニーの愛した人に嫉妬しているんだ。本当は──」
 リオは泣きだしそうになるのを堪えて唇を噛む。

ダニ「俺ね、自分のエゴイズムに気付いてから、いつか、死んだK384にちゃんとお別れしようと思ってたの。今回のTRANSがいいチャンスだなと思ってたら、まさか、ひとりだけの枠にリオが選ばれちゃって。ずっと、どうしようって思ってた。本当に、つい最近だよ。リオが国内の旅行に出た間に、K384とちゃんと決別したのは」

リオ「何故?すごく愛してたんでしょ?苦しいでしょ?」

ダニ「決別する日まではすごく辛かった。──もう、済んだんだ」

リオ「そんな、そんなに苦しい思いしなくていいよ、ダニー」

ダニ「いい?リオ。彼女は死んでしまったから、俺が愛した人は死んでしまったから──彼女への愛情を決別と共に消したんだ。あれは彼女に向けての愛情だったんだ。生まれてから俺が見てきたお前は彼女とは別の人間だ。ずっと見てきたお前は、身代わりではなくてリオなんだと自分に言い聞かせて、俺の記憶を入れ替えたんだ」

リオ「でも、彼女にならない僕はそばにいていいの?僕を嫌いにならない?」

ダニ「リオはリオだ。好きだし、愛してる。ひとりの人間として尊敬もしている。作り出した責任も俺にはある。どんなお前でも俺はずっと見守って行くと決めてる。性別もリオが決めていいんだよ。好きにしていい。苦しませて、ごめん」

リオ「──ダニー」

 ダニーが、うつむいて肩を震わすリオを見つめて言った。
ダニ「愛の形とか種類なんて決めつけなくていいと思うんだ」

リオ「うん。うん。ありがと。僕が僕でいていいんだね。良かった。話せて。──ノア、早く戻ってこないかな」

ダニ「ジェフもルカもニコも、頑張ってるし、親に丈夫に育てられてるから、戻って、目を覚ますよ」

 ダニーとリオのFILMが溶け合っている。小さい時に手を繋いで歩いてくれたダニーの大きな手と安心感を久しぶりにリオは思い出していた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?