法の下に生きる人間〈第64日〉

昨日の記事で登場した「民法」は、その歴史が明治時代から続くだけでなく、条文の数も他の法令に比べて突出して多いことで知られている。

民法は、全10章から成るが、条文は第1050条まである。気が遠くなるような膨大な分量であるが、それだけ私たちの人生のさまざまな出来事に密接に関わっているということである。

この民法の第709条に、こんなことが書かれている。

【第七百九条】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

「故意又は過失によって」というのは、殺人事件でもよくポイントになるが、「過失致死」という言葉があるように、故意ではなくても過失によって人を死に至らしめると罪に問われる。

では、過失がなかったらどうなるのか。

例えば、アイスを製造する企業は、それをお客さんに売ってくれるお店(または卸業者)と契約関係がある。

だが、製造業者と消費者個人には、契約関係がない。

もしアイスの製造過程で何らかの異物が紛れ込んで、実際に購入した客が、まさにアイスにスプーンをザクッと差し込んだときに異物混入に気づいたとする。

よほどのことでない限り、製造する企業のスタッフが故意に異物を入れることはない。(過去にはアクリフーズの工場でまさかの事件があって、社長が引責辞任するほどの大騒ぎになったが)

そうすると、製造過程のどこかで何らかの隙があって、たまたま異物混入があったと考えられるが、製造企業側に過失があったことを証明するのはなかなか難しい。

それだと消費者の安全を守れないということで、1990年代にPL法が成立し、無過失責任をも企業側は負うことになったのである。

さて、このタイミングと言ってはなんだが(複雑な気持ちにはなるが)、仙台市内の小学校などで提供された給食に、基準値を超える「赤カビ」を含む小麦が使われていたというニュースが出ている。

影響は、宮城県全体に広がっており、少なくとも県内10自治体で報告が上がっている。

この場合、誰が責任を負うことになるのだろう。

小麦のカビは、イネの病気と同じようなもので、その年その年の気象条件にも影響される。

いくら衛生管理を徹底していても、どうしても防げないことは起きる。

それでも、被害者への法的補償は必要である。

それと同時に、私たち自身もなるべく低リスクで済むような消費生活を送ることを考えなければならない。

味も見た目もおいしそうな「映える」スイーツを食べるとき、食品添加物に何が使われているかということまで気にする人は少ない。

そこに注意を払うことも健康被害を未然に防ぐ意味では大切なのだ。











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