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神田町百景 scene.2 『姐さんと赤いバラ』


名古屋には開店祝いで貰うスタンド花を外に置くと
花が抜かれ、すっからかんになる風習がある。
花が無くなるのは繁盛を意味するのだという。
よくケンミンショーなどで取り上げられる文化だ。

うちも開店の際に何基かいただき
自粛ムードの中気後れしつつも外に出したりもした。
あれほど人通りが少なかったのに
ふと外に出ると、残されたのは萎れた花ばかり。
どこからそんな人が……

だいたい皆無言で持っていくのだが
そんな中、1人だけ声をかけてくれた人がいた。

『花もらっていい?』

そう声を掛けてきたのは
金髪のくるくるロングヘアーに細い眉毛
しっかりめに引かれたアイライン、真っ赤な唇の女性。
ママチャリに乗って右手にはタバコ
着ているTシャツには勤めているであろう居酒屋の名前が。

これが今池の民か…!と圧倒された私は
『あ、どうぞ』と一言。

その女性は数ある花の中から
真っ赤なバラだけを引き抜いて
またママチャリに跨り
『ありがとう!』と咥えタバコで今池の街へ消えて行った。
なんだか赤いバラが、よく似合っていた。
バラというより薔薇か。

店の前の道は通勤経路らしく
そこからよく見かけるようになった。
私たちは彼女を " 姐さん " と呼んでいる。

お酒が飲めないので、姐さんの働く居酒屋には
行けていないのだが
そのお店の前を通ると、姐さんいるかなといつも思う。

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