見出し画像

高周波回路はなぜ難しいのか

 高周波回路(RF回路とも呼ばれます)がアナログ回路の中で難しいと言われる理由はいくつかあります。今回は高周波回路がなぜ難しいのかについてお話をしたいと思います。

1.高周波とはどこからなのか

 まず高周波とはどういったものか説明するところから始めましょう。高周波回路では波長という概念が非常に重要になってきます。波長というのは波が伝搬するときの空間方向の周期のことで、以下の図のλに対応します。

01_波

 空間方向に広がる波というのは、下の図のような水面にできた波紋(波)をイメージしてもらえれば良いでしょう。

画像4

 ちなみに、ある場所x_0をずっと見ていた時にその地点での時間変化も同じように正弦波で振動するため、横軸tにした同じようなグラフもよく見ると思いますが、意味するところは別ものです。一般の波の方程式は以下のように書くことができます。

画像10

 波の波長λと周波数fの間には信号の伝搬速度c(電気信号の場合光の速度、真空中で2.99792458×10^8 m/s)を使って以下の式のような関係が成立します。

画像1

 この結果、周波数が高くなっていくと波長がどんどんと短くなります。我々の身の回りの電波の周波数と波長の関係を以下に示します(頑張って自作しました)。これは回路上の電気信号ではないですが、電気信号の波という意味で参考になるものです。ちなみに、日本の電波法で3THzまでを電波と呼ぶことになっていて、それより上は電波とは呼びません(電波法では記載がありませんが赤外線と呼ばれます)。赤外線のさらに上の周波数に私たちが目で見ることができる可視光があり、さらに高い周波数に紫外線やX線といったものがあります。

01_電波の周波数と波長

 この中で波長が10mを下回る(30MHzを上回る)くらいの電気信号がマイクロ波と呼ばれ、高周波回路としての難しさが顔を出すようになってきます。

 これを踏まえたうえで高周波回路がどうして難しいのかについて見ていきましょう。

2.寄生素子の影響

 以前話した通り、抵抗器やコンデンサ・コイルなどの受動素子やトランジスタなどの非線形素子には目に見えないコンデンサやコイルのようや寄生素子があり、とくに高い周波数で期待通りの動作をしなくなります。このため、高周波回路では使える素子に制限ができたりと設計難度が高くなります。
 他にも、低周波回路の場合は考えてもいなかったスルーホールが高周波回路では立派なインダクタンスのように見えたり、コネクタやオシロスコープのプローブがインダクタンスやキャパシタンス成分を持っていたりと、今まで考えなくてよかったところを考える必要が出てきます。

01_TH等価回路

 これだけでも設計めんどくさいと思うのですが、実は寄生素子が高周波回路の難しさの本質ではないのです。

3.波長の影響

 高周波回路が難しいのは波長が短いことが本質です。例えば音声信号の周波数である10kHzという低周波では波長が10km以上と長いため、10cm程度の基板に作られた線路上ではどこで測定しても同じ電圧になります。しかし、30GHzといった高周波信号では同じ時刻でも数mmずれるとまったく違う電圧が測定されてしまいます。下の図はx方向に伸びた唯の線路上の電圧を、4つの異なる時刻で観測したときのイメージをグラフにしたものです。高周波回路では少しずれると信号の位相がすぐに変わる結果、電圧の瞬時値が場所によって大きく変わっていることがわかります。

01_高周波回路と低周波回路の差

 この結果、ある抵抗(たとえば100Ω)で終端したとしたとしても、抵抗までの線路の長さのせいで入力インピーダンスが100Ωに見えなくなったり、GNDにつないだ線すらGNDに見えなかったりといったことが起こります。

01_入力インピーダンス

 このため、低周波回路では基本測定器であるオシロスコープが今までのように気軽に使えません。プローブの先端とオシロスコープの本体(検波部)の間には1m程度の長さのケーブルがあり、この長さによって回路の電圧とオシロスコープで測定した電圧が違う信号になってしまいます(正確に言うとオシロで測定する方法はありますが、低周波回路と同じように測定することはできません。)

01_オシロスコープ

 このような理由で高周波回路では電圧・電流を測定することが難しいため、電力を測定する機器が充実しています。高周波回路の基本測定と言えばスペアナとネットワークアナライザですが、これらはどちらも電力を測定しています。もちろん、物理現象としては電圧と電流が存在し、理屈を考える上では電圧と電流を考えることも重要です。

 ちなみに、波長の影響は信号が伝送する距離によって左右されるため、たとえ50Hzのような低周波だとしても100km以上の送電線のようなものを考える場合は高周波回路的な取り扱いが必要になってくるのではないかと思います(送電線網についてまじめに考えたことがないので実際はわかりませんが、そんな話を聞いたことがあります。実際をご存じの方教えてください。)

4.電磁放射の影響

 さらに困ったことに、高い周波数になればなるほど信号が空中に電波として飛び出しやすくなります。そのため、ちょっとした配線についても注意深くならないと信号が放射して伝えたいところ(負荷)にうまく伝わらなくなってしまったり、ノイズとしてほかの回路に混じりこんだりといったことが発生します。
 逆に、この性質を積極的に利用したものがアンテナで、遠く離れたところに音声や映像を送ったり携帯電話などの通信に使用したりもされています。
01_信号の放射

 ちなみに電磁放射まで考える場合、回路理論だけでなくマクスウェル方程式などの電磁気学が必要になってきます(回路理論だけで放射を考えることはできません)。
 アンテナについても言及したいのですが、マクスウェル方程式ごりごりになりそうなのでちょっとためらっています。noteに書けるかしら…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?