るるりら

大学院で固体物理の理論を修めた後、何の因果か電子工学系(高周波系の回路設計者系)の仕事…

るるりら

大学院で固体物理の理論を修めた後、何の因果か電子工学系(高周波系の回路設計者系)の仕事に就いてしまったところ、電子回路なんにもわからんになったので知識の備忘録として。1級陸上無線技術士資格あり。それ以外にも趣味のこととかも書く予定です。

マガジン

  • アンテナや伝搬に関する備忘録

  • 電子回路に関する測定器

  • 物理屋さんのための高周波回路入門

  • 物理屋さんのためのアナログ回路入門

    物理屋さんが仕事でアナログ回路屋さんになったときに学んだことの備忘録。教科書見たほうが良いかもだけれど、工学屋さんでない自分がつまずいたところや、物理屋さんらしく数式をベースに考えたりとか、意義はあるはず?

最近の記事

なぜアンテナから電波が放射するのか(仮説編)

はじめに 私がアンテナ設計を始めたときに、アンテナを設計してみて教科書通りに設計することはできましたが、アンテナから電波が放射するメカニズムがわからず、応用が利きませんでした。経験でカバーしたりもしましたが、このままでは面白くないなと思って少しまじめに考察したことがあります。今回は備忘録も兼ねてその考察の結果をメモします。 まず結論から いきなり結論から言うと、そこに電流があれば電波が放射されるのは普通なことです。ベクトルポテンシャル$${\bm{A}}$$やスカラーポテン

    • アンテナの利得とは

       携帯電話のアンテナやTV用アンテナ、船舶用レーダーのアンテナ、はたまた衛星通信用のアンテナなど、現代にはアンテナが身近にあふれています。アンテナは電子回路上で電圧と電流という形になっている信号を、空間を飛ぶ電波に変換する(もしくはその逆)ための装置になります。このアンテナ、たとえば屋根の上にあるTV用のアンテナをイメージしてもらえばわかるんですが、基本的に金属や誘電体だけでできていて、信号を増幅するような機能は持ち合わせておりません。しかし、性能にはしっかりと利得と呼ばれる

      • 高周波回路の測定器

         ゲームやってたり、仕事忙しかったりでずっとさぼっていた記事をまたぼちぼちと再開です。  高周波回路ではプローブを当てても正しい電圧を測定することができないため、回路の信号を測定することが気軽に行えません。しかし勿論高周波回路でも試作した回路を検証する際には信号の測定が必要になってきます。今回は高周波回路で使われる測定器と、それらが何を測定することができるのかという点をまとめてみたいと思います。 1.スペクトラムアナライザ スペクトラムアナライザ(略してスペアナ)は実際に

        • LC周波数フィルタの設計パラメータ

           今回も完全自分用備忘録用記事です。  高周波回路用の周波数フィルタを設計するためのメモにつなげるためにLCフィルタを中心にまとめました。そのためRCフィルタは扱わず、またOP AMPなどを使わないパッシブフィルタのみを考えます。  1回ですべてをまとめることは難しいので今回はフィルタの設計をする際の指針をまずはまとめています。 1.フィルタの種類  まずはどのような周波数の信号を通したいかを決めてあげる必要があります。主に4種類のフィルタがあり、場面に応じて使い分けます

        なぜアンテナから電波が放射するのか(仮説編)

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        • アンテナや伝搬に関する備忘録
          3本
        • 電子回路に関する測定器
          1本
        • 物理屋さんのための高周波回路入門
          4本
        • 物理屋さんのためのアナログ回路入門
          14本

        記事

          Sパラメータとは何か、進行波と反射波から考える

           今回は高周波回路を議論するときに必ずと言っていいほど出てくるSパラメータについて説明します。とくに、Sパラメータの基底であるaとbがどのような意味を持つのか、という点から説明したいと思います。 1.進行波の表現 前回、高周波回路では波長が短いため、長さという概念によって瞬時電圧(位相)が変わることを説明しました。これを数式で表すために、+x方向に伝搬する信号の表現として以下の式があることを紹介しました。ここで、2πfは省略して角周波数ω[rad/s]とし、2π/λは波数k

          Sパラメータとは何か、進行波と反射波から考える

          特性インピーダンスとは何なのか

           高周波回路について議論する際、特性インピーダンスという言葉がよく現れます。今回はこの特性インピーダンスが何なのか、について議論したいと思います。 1.電子回路にかかる電圧と流れる電流の関係 下の図のように出力インピーダンスZ_outを持つ電源(スイッチ付き)と入力インピーダンスZ_inの負荷の間を、とある長さLの電線でつないだときを考えてみましょう。ここで、議論を単純にするために電線は損失が無視できるほど小さい(たとえば超伝導体でできている)ということにしておいてください

          特性インピーダンスとは何なのか

          高周波回路はなぜ難しいのか

           高周波回路(RF回路とも呼ばれます)がアナログ回路の中で難しいと言われる理由はいくつかあります。今回は高周波回路がなぜ難しいのかについてお話をしたいと思います。 1.高周波とはどこからなのか まず高周波とはどういったものか説明するところから始めましょう。高周波回路では波長という概念が非常に重要になってきます。波長というのは波が伝搬するときの空間方向の周期のことで、以下の図のλに対応します。  空間方向に広がる波というのは、下の図のような水面にできた波紋(波)をイメージし

          高周波回路はなぜ難しいのか

          トランジスタによる信号の増幅(エミッタ接地増幅回路)

           前回はトランジスタの基本特性について議論しました。今回はこのトランジスタを使って信号を増幅させることを考えます。トランジスタによる信号増幅はアナログ回路の初めの山場であり、これを理解できればエンジニアとして一歩前進と言っても良いでしょう。 0A.記号の約束 今回は直流と交流が入り乱れて出てくるので、直流信号は大文字で下に0の添え字をつけます(V_B0やI_C0など)。交流の信号は小文字で表現し(v_BEやi_E)、直流交流が混じった電圧を下付き添え字なしの大文字の記号で表

          トランジスタによる信号の増幅(エミッタ接地増幅回路)

          アンテナにおける磁荷と磁流

           今回は完全に自分用です。まず、マクスウェル方程式を知っていることが前提の議論になります。 1.アンテナにおける磁荷と磁流 自然界の電磁場はMaxwell方程式に従います。このMaxwell方程式は電場と磁場を使った表現で以下のような4つの偏微分方程式にまとめられます(電流密度がjではなくiなことにいまだに慣れない…)  このうち(2)式は磁気モノポールが存在しないことを示しおり、それに対応して、(4)式に磁流密度が現れていません。  しかしアンテナの教科書を読んでいると

          アンテナにおける磁荷と磁流

          トランジスタってどういう素子?(トランジスタの静特性)

           私が高校生のころ電子回路というものに興味を持ちそうになったことがありました。お金がない高校生、本屋で入門書を立ち読みをしていると「トランジスタは電気を増幅します」という本の記載を発見。これを見た私は「電子回路っていうのはエネルギー保存則が破れているっていうんです?いくらトランジスタが世界を変えたとは言えそんなわけあるかい!」と早とちりして本をぱたり。そのまま社会人になるまで電子回路とは無縁な人生を過ごすことになりました。そんな因縁のトランジスタも触ってみたらなんてことはなく

          トランジスタってどういう素子?(トランジスタの静特性)

          ダイオードの電流ー電圧特性

          「ダイオードはp型半導体とn型半導体を接合させたもので、電流を一方通行となるように流し、0.6Vくらいの電圧をかけると順方向に電流が流れる素子」という説明がよくされています。しかしこの説明、概要はなんとなくわかるんですが、実際には曖昧過ぎてよくわからないんですよね(私はそうでした)。そこで、今回はダイオードに電圧をかけるとどういった挙動をするのか、数式を使って考えてみましょう。 1.ダイオードの静特性 ダイオードの両端に直流電圧Vをかけたとき、ダイオードの両端に流れる電流

          ダイオードの電流ー電圧特性

          入出力インピーダンス(電圧源と電流源)

          今回は入力インピーダンスと出力インピーダンスについてです。昔この言葉の意味が分からず、一番最初にハマってしまい、ああ電子回路って難しいんだなあって思いました。内容はそんなに難しくないんですが、言葉の意味が分からないと難しく感じたりするんです。ここは将来的に高周波回路をやる上でも避けては通れないところですし、このあたりできちんと言及したいと思います。 1.入力インピーダンスまず回路をブラックボックスで考えることをしてみましょう。実際には抵抗器やコンデンサやコイルがたくさんあっ

          入出力インピーダンス(電圧源と電流源)

          共振回路とQ値(寄生抵抗の影響)

          前回は寄生素子による高い周波数での影響を中心に見てきました。今回はもう一つの寄生素子である抵抗成分についても考えてみます。 1.寄生抵抗の影響が問題になる例寄生抵抗の影響は大概の場合はっきり言って小さいです。回路には通常抵抗素子などが置かれますが、それらは10Ω以上でさらに±0.1%などの誤差を持っています。そのため寄生抵抗である0.1Ωなどという値はそれらの誤差に比べてほぼ無視されます。その中で、寄生抵抗によって無視できない影響が出る場合として  1.大電流が流れる場合

          共振回路とQ値(寄生抵抗の影響)

          電子回路の寄生素子

          抵抗やコイル、コンデンサのような受動素子を高い周波数で使う際に問題になるものとして寄生素子と呼ばれるものがあります。これを体感するのに一番良いのは実際に測定してみることで、私も社会人1年目の時にオシロスコープと信号発生器を使ってインピーダンスの測定をした覚えがあります。今回は実際の測定結果ではなく理論を中心にまとめます。 1.寄生素子とは世の中には抵抗、コンデンサ、コイルといった受動素子と呼ばれるものがたくさん売っています。これらの素子は回路図上は数式通りの動作(理想的な動

          電子回路の寄生素子

          共振回路2(並列共振回路)

          前回はコイルLとコンデンサCを直列につないだ直列共振回路について議論しました。今回はコイルLとコンデンサCを並列につないだ並列共振回路と呼ばれる回路について考えていきましょう。ただ、全体的に直列共振回路と一部の文言を変えただけで説明ができてしまうため、似たような文章が並んでいます。手抜きじゃないよ。 1.並列共振回路並列共振回路はコイルLとコンデンサCを並列に接続した回路で、以下の図のような構成になります。 回路を並列につないだ場合、電流が流れやすい経路、つまりインピーダ

          共振回路2(並列共振回路)

          デジタル回路ではなくアナログ回路を学ぶ意義その1(デジタル信号の利点)

          2021年、世はデジタル化の全盛期。DX(デジタル・トランスフォーメーション)やデジタル改革相なんて言葉が新聞の紙面を躍る昨今、デジタル回路ではなくアナログ回路を学ぶ意義とはなんだろう、というところを私なりの言葉でまとめておきたいと思います。結論から言うと世の中がデジタルで動くようになったからと言ってアナログ回路が無用になる日は来ないでしょう。いえ、むしろより重要になるのではないかと考えています。 意外と長い記事になってしまったので2回に分けました。今回の記事はアナログ回路

          デジタル回路ではなくアナログ回路を学ぶ意義その1(デジタル信号の利点)