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Sパラメータとは何か、進行波と反射波から考える

 今回は高周波回路を議論するときに必ずと言っていいほど出てくるSパラメータについて説明します。とくに、Sパラメータの基底であるaとbがどのような意味を持つのか、という点から説明したいと思います。

1.進行波の表現

 前回、高周波回路では波長が短いため、長さという概念によって瞬時電圧(位相)が変わることを説明しました。これを数式で表すために、+x方向に伝搬する信号の表現として以下の式があることを紹介しました。ここで、2πfは省略して角周波数ω[rad/s]とし、2π/λは波数k[rad/m]という省略がよく行われます。波数kは理学ではよく使われますが、電磁波工学では伝搬係数β[rad/m]というものもよく使われます。電磁波工学の言葉として伝搬係数βを使いたいと思います。

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 電子回路で考える場合、ωtを省略しつつ複素数を使うことでcosとsinが混ざったものを扱えるフェーザ記法で書くことで式を単純化することが行われる、以下のような表現となります。各点・各瞬間の電圧を求めたい場合はvを求めるための式のようにexp(jωt)をかけてから実部をとればよいわけです。

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2.右進行波と左進行波

 x軸場に沿った伝送線路上の信号を考えると、信号は+x方向に進む右進行波と-方向に進む左進行波を考えることができます。これらをそれぞれ+の添え字と-の添え字を使って以下の図と式のように表現しましょう。ここでZ_0は前回の議論に出てきた特性インピーダンスで、線路の形状や寸法によって定まるパラメータになります。

03_左右進行波

3.ある点での電圧・電流と進行波の関係

 線路上を伝わる信号は通常電源から投入されることで右進行波として発生します(座標系を逆にとって左進行波と考えてもよいです)。伝送線路が無限の長さを持っている場合はこれで終わるのですが、実際の回路では伝送線路の長さは有限で、その先に負荷などがあるはずです。この負荷と特性インピーダンスが一致しない場合、電圧反射係数Γの反射が発生し、これによって左進行波も発生します。この結果、ある点x_0での電圧V(x_0)は右進行波と左進行波の和になり、電流I(x)は右進行波と左進行波の差になります。

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03_反射波合成

 振幅の包絡線は絶対値をとることで得ることができ、以下の式のように包絡線は場所によって強度が異なる定在波が発生していることになります。
 なお、包絡線とは下の図中の破線で示したもので、これは固定された線と考えてください。この包絡線をピークにより細かい周期の振動で信号が進んでいく、というのが信号の伝搬の様子になります。

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03_定在波

 また、ある点での電圧V(x_0)と電流I(x_0)の和をとることで右進行波が、差をとることで左進行波が求まることもわかります。

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 ある点xで左右に伝搬する電力は以下の式の通りとなります。

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4.Sパラメータ

 あるブラックボックス回路の特性を考える際、ブラックボックスに進行波を入力したときの応答を考えることが有用です(下の図のように発生する信号や反対側に出てくる信号が応答の例です)。

03_ブラックボックス回路

 これを表すパラメータはSパラメータと呼ばれており、物理の世界で言う一次元での散乱行列(Scattering)に対応するものになります。この時入力する進行波は電圧と電流は係数違いであることからどちらか片方を考えればよいのですが、敢えて係数をいじって以下のように定義したaとbを考えることがよく行われます。aは進行波の電圧・電流と係数だけ異なっており進行波の信号を表します。bは反射波の電圧・電流と係数だけ異なっており反射波の信号を表します。画像7

 このように定義したaとbはそれぞれ絶対値をとって2乗することで進行波と反射波の運ぶ電力を表すことができるのが係数をいじった理由となります。

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 ここで一番簡単な例としてブラックボックスの端子対が2個の場合を考えます。場所を表すxは入力側と出力側の2か所だけなのでそれらを端子1と端子2と呼ぶことで以下のように表現することができます。

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 ここで、S_11とS_22は反射特性を示しており入力インピーダンスに関係したパラメータになります。それに対してS_21とS_12は通過特性といって、信号がブラックボックスを通過したときの振幅と位相の特性を示しています。

 注意しなければならないこととして、aとbはともに(ブラックボックスではなくブラックボックスの両側の)特性インピーダンスが決まらないと決定できない表現であることです。そのためSパラメータも特性インピーダンスが決まらないと決定できないパラメータということになります。これはあるブラックボックス回路を50Ωの線路につないだ時と100Ωの線路につないだ時で反射特性が異なることからも容易に理解できることです。

5.損失のある線路の取り扱い(補足)

 今回の議論は伝送線路に損失がない線路に関するものでした。実際の設計では損失のある線路について考えなければならないこともあります。この場合、損失定数α[Np/m]を加えて以下の式のように表現されます。また、αとβを一緒くたにして伝搬係数γで表現することもよく行われます。

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 なお、伝送線路に損失がある場合、特性インピーダンスも複素数になるため取り扱いはかなり大変になってきます。通常は損失が小さい線路についてのみ考え、特性インピーダンスは実部のみとし、損失はαだけ考えるということも行われます。厳密な取り扱いをする場合については現在勉強中なので分かり次第自分用メモを兼ねてまとめたいと思います(もしくは知っている人教えてください。)



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