高周波回路の測定器

 ゲームやってたり、仕事忙しかったりでずっとさぼっていた記事をまたぼちぼちと再開です。

 高周波回路ではプローブを当てても正しい電圧を測定することができないため、回路の信号を測定することが気軽に行えません。しかし勿論高周波回路でも試作した回路を検証する際には信号の測定が必要になってきます。今回は高周波回路で使われる測定器と、それらが何を測定することができるのかという点をまとめてみたいと思います。

1.スペクトラムアナライザ

 スペクトラムアナライザ(略してスペアナ)は実際に回路上を流れている信号を測定するための測定器です。オシロスコープは時間ごとに変化する信号の変化v(t)を測定することができますが、スペアナはこの信号がどのような周波数スペクトラム(どの周波数にどのくらいの振幅を持つかの情報)|P(f)|を測定することができます。

スペアナ結線図

スペアナ測定結果例

 スペアナは通常位相基準がないので位相情報を検知することができないため、測定値は電力のみです。そのため、スペアナの測定結果から元の信号を完全に再現することはできませんが、それでも設計値(理論値)などとの比較から、想定通りの信号かどうかを判断することになります。

 古典的なスペアナは設定した周波数範囲(例えば1Hzから100Hz)を測定する際、1Hzを測定した後、2Hzを測定し、、、と測定周波数を掃引していくのである程度の時間がかかります(最近は受信した信号をフーリエ変換する形式も出てきておりますが)。その結果掃引時間と見たい信号の存在する時間によってはうまく測定することができないことに注意が必要です。 スペアナは、発振回路から所望の信号が出ているのかを評価したり、空中を飛んでいる電波の周波数スペクトラムを評価したりと、信号そのものを測定します。逆に、無線機から出てくる信号が、免許で許可された周波数帯域外に信号が出ていないか評価したりする場合にも使われます。

2.パワーセンサ

 パワーセンサはその名の通り、回路上をどの程度の電力が流れているのかを評価するのに使われます。周波数が1成分しか持たない信号(正弦波)であればスペアナを使えば電力を測定することができますが、実際の信号は変調がかかっていたり、高調波成分を持っていたりするため、スペアナから電力を測定することは非常に難しいですし、精度もよくありません。また、スペアナは周波数をとびとびの値で表示している誤差や掃引時間と信号の時間変化の差による誤差も無視できません。

パワーセンサ結線図

 それに対してパワーセンサは、例えばRF信号を吸収して熱に変える部分をもち、この時発生する熱を測定することで電力を測定します。この結果、周波数スペクトルに関係なく電力を測定することができます。
 パワーセンサには平均電力を測定するものだけでなく、ピーク電力を測定するものがあり、必要に応じてどちらを測定できるパワーセンサなのか使い分ける必要があります。

 パワーメータは、例えば無線機が出そうとする電波の電力がどの程度なのかを評価したりするときに使用します。ちなみに、私はちょっとしか使ったことがないです。

3.ネットワークアナライザ

 ネットワークアナライザはスペアナやパワーセンサとは異なり、信号そのものを測定するものではなく、回路の応答を評価するためのものになります。つまり、ある回路にある周波数スペクトラムの信号V_in(f)を入れたとき、どのような信号V_out(f)が出てくる/反射して返ってくるかを測定します。具体的にはAMPやフィルタのSパラメータを測定することに対応します。
 典型的なネットワークアナライザの接続図が下の図です、ここでは2ポートで結線を行っていますが、反射特性だけを見たい場合は1ポートだけ接続することもよくありますし、回路が3ポート以上を持っている場合は3ポート以上で接続します。

VNA結線図

 AMPやフィルタの通過特性/反射特性

 こちらは入力した信号の位相情報を基準にできるため、振幅と位相の両方を測定することができるものが現在では一般的で、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)と呼ばれます。なお、位相が測定できないスカラーネットワークアナライザというものもありますが、私は見たことがないです。スカラーネットワークアナライザは信号発生器とスペアナとトラッキングジェネレータ(信号発生器とスペアナを協業させる機器、私は見たことがないです)を組み合わせて同じ動作をさせることができます。

 ネットワークアナライザについて特筆すべきこととして、使用前に必ず校正する必要があることが挙げられます。代わりにケーブルの長さや損失などの影響をキャンセルさせることができます。

4.(リアルタイム)オシロスコープ

 高周波回路でもオシロスコープは使われます。ここでは次に説明するサンプリングオシロと区別するためにリアルタイムオシロスコープと呼ぶことにします。
 高周波回路では最初に述べたようにプローブを使って電圧を測定することができないため、スペアナやパワーセンサの結線のようにオシロスコープで終端するように回路を組む必要があります。オシロスコープは入力インピーダンスが50Ωにセットされているので回路を50Ω系に設計しておけば反射なく測定することができます。
 リアルタイムオシロは実際の高周波信号の時間変化を見ることができるという意味では非常に安心感のある測定器ではあるのですが、リアルタイムオシロでしか見ることができない情報というのはあまり多くありません。

 そしてこのオシロスコープ、一つ大きな問題があって、本当の本当に無茶苦茶高いです。VNAなども50GHzとかになってくると1000万円のオーダーになってきますが、リアルタイムオシロはさらに高くて億のオーダーに突入します(ちょっと大げさかも)。なのでCPUのクロック周りの設計とかで使っているという噂を聞いたことがある程度で、具体的にどういったところで使われているのかについて私は詳しくありません。レーダーのような繰り返し信号の中で時々発生する変な信号(ノイズとか)の解析評価などでも使われたりする、かもしれません。

5.サンプリングオシロスコープ

 リアルタイムオシロスコープはべらぼうに高いので、実際の波形を見たいというときにはサンプリングオシロスコープを使うことがあります。サンプリングオシロスコープは繰り返し信号にしか使うことができないという欠点はあるものの、リアルタイムオシロスコープの1/10以下の金額で買うことができます。

オシロ結線図

  サンプリングオシロスコープは上の図のような結線をすることで信号を測定することができます。このとき重要なのは繰り返し信号の繰返し周期に正確に同期したトリガ信号です。

繰り返し信号

 このトリガ信号をもとに複数回の測定を行います。下の図のように、1回目の測定は赤い点を測定し、2回目の測定は青い点を測定し、3回目の測定は緑の点を測定し、、、とトリガ信号をもとに繰り返し測定を行っていき、これを最後に並び替えることで波形を再現します。

波形再現方法

 このため、繰り返し信号でない信号は測定することができませんし、たまにしか入らないノイズなどは見逃してしまうことになります。パルス式レーダーなんかは繰り返し信号が前提ですし、時間軸上のパルス幅が重要なパラメータになるのでサンプリングオシロスコープを使って評価することがあります。

6.まとめ

 今回は、高周波回路でよく使われる測定器を5個紹介しました。詳細な使い方などは測定器メーカーの資料などを参照するのが良いでしょう。主なメーカーはKeysight technology, Rohde&Schwarz, Anritsuなどになります。

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