電子回路で複素数を使う理由1(フェーザ記法1)

前回、抵抗器・コンデンサ・コイルといった基本的な受動素子の動作について説明しました。しかし、このような微分・積分を使った表現は煩雑すぎて実際の電子回路ではめったに使われません。

1.目指すところ

まずは抵抗器にcosの形の電流が流れたときの電圧の形を振り返ってみましょう。

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電圧と電流は単純な比例関係になっているため電圧の係数部分をv_0とするとそれぞれの振幅同士は以下の関係が成り立つことになります。このように電圧と電流の振幅の関係を電圧ー電流特性ということがあります。振幅比がわかれば電圧をかけたときにどの程度電流が流れるのかという情報がわかったりと非常に便利です。

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これと同じようにコンデンサやコイルの電圧ー電流特性を書いてあげることができないか、というのが最初の目標になります。

2.コンデンサの電圧電流特性を無理やり表現する

コンデンサにcosの形の電流が流れたときの電圧の形はsinの関数で書かれます。

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ここで単純にv(t)をi(t)で割り算すると以下のようになります。

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これは時刻tの瞬時の電圧と電流の比を表してはいますが、振幅の関係を示してはおらず、電圧ー電流特性といえる関係ではありません。(そもそも瞬時値の比というのは電圧と電流のそれぞれの完全な形を計算した結果であり、積分をまじめに計算したりと煩雑で有用性が低いのです。)

抵抗器ではうまくいったのにコンデンサではうまくいかなかった原因はなぜでしょう。それは抵抗器は電圧と電流がともにcosの形で書かれており、係数だけを比較することができましたが、コンデンサの電流はcos、電圧はsinの形で書かれており、係数同士を単純に比較することができないからです。これを解決する一つの方法として、開き直ってcosとsinの二つの別々の関数を使って物事を考えてみましょう。

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このとき係数だけを考えると電圧と電流の振幅は以下のような行列として考えることができます。

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この表記を採用するとコンデンサの電圧ー電流特性は下のような行列で書くことができます。

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3.今回のまとめ

今回のような行列を使った電圧ー電流特性の表現方法は煩雑なため一般的な方法ではないのですが、敢えて記述してみました。
今回のところで言いたかったことは、コンデンサのように電圧と電流がcosとsinで混ざり合うような回路の電圧ー電流特性は単純な数字だけでは表現しきれず、cosとsinの移り変わる項をどうにかして表現する必要がある、ということです。その手段として今回は行列を使って表現しましたが、より一般的な方法は別にあり、これは次回説明したいと思います。ただ、何をやっているのかあらかじめイメージを付けておかないと、数学的操作はできるけれども物理的に何が起こっているのかわからなくなる初学者が結構います。今回の説明でイメージを持つ助けになればと思っています。

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