電子回路で複素数を使う理由3(振幅と位相それとインピーダンス)

前回の議論で、最後の最後に実部をとるというルールを採用することで、実部をとる直前までを複素数を使ってうまいこと計算できるという結論が得られました。ここについてもう少し深く検討してみましょう。

1.振幅と位相

これは前回の議論の繰り返しになりますが、フェーザ表示した(複素表示した)電流や電圧について、実部はcos(2πft)の成分、虚部はsin(2πft)の成分を示しています。実部と虚部の両方を持つ一般の複素数で考えると以下の式のうち、フェーザ表記で上の式で書かれる電圧が、実際の波形としては下の式に対応するという関係になっています。

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この式についてもう少し深く検討してみましょう。一般の複素数の性質として、振幅と位相は以下の関係にあります(ついでにこのイメージを下の図でも示します)。

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複素数の振幅と位相

また、実際の波形の方はcos(α+β)を展開する公式を用いることで以下の関係が得られます。

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これを見ると複素数の振幅と位相が、実際の波形の振幅とcos(2πft)から進む位相とそれぞれ一致しており、複素数の形を見ただけで実際の波形がどのような形になっているのかをイメージできるような表現になっていることがわかります。このたように、複素数を使った表現が非常に便利で、実部をとるというルールを前提にしつつも、実部をとらずに実際の波形をイメージできる利点もあり、このあたりも電子回路で複素数による表現がよく使われている理由かもしれません。

2.インピーダンス

電子回路において、素子の両端にある電圧をかけたときにどのような電流が流れるのか知りたいということは頻繁に訪れます(逆に、素子に電流が流れたときにかかっている電圧を知りたい、ということもよくあります)。
実際の波形で検討するとcos(2πft)とsin(2πft)が入り乱れた複雑な表現になっていたのに対し、フェーザ記法を使うことで複素数を使った単純な掛け算で記述できるようになりました。フェーザ記法で考えたとき、ある素子にかかる電圧Vと、その素子に流れる電流Iの間は比例関係となり、その比例係数Zをその素子のインピーダンスと呼んでいます。単位は抵抗器と同じΩ(オーム)です。今までさんざん検討してきた素子の電流ー電圧特性はインピーダンスという複素数によって単純に表現することができます。

インピーダンス

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これを実際の波形で表現すると下の式になります。

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実際の波形について見るとわかりますが、電圧の振幅は電流の振幅とインピーダンスの振幅同士を掛け算し、電圧の位相は電流の位相とインピーダンスの位相を足し算したものという結果が得られます。

なお、インピーダンスではないですがcos(2πft)を-sin(2πft)にする虚数単位jは以下の関係式より、振幅を変えずに位相をπ/2[rad]=90°だけずらす記号と考えることも可能です。

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ここまででインピーダンスという量を導入したので、ここからはインピーダンスそのものについて少しだけ触れておきましょう。
インピーダンスは振幅と位相を持つと考えてもよいですが、実部と虚部を持つと考えることもできます。この場合、実部Rをレジスタンス、虚部Xをリアクタンスとそれぞれ呼ぶことがあります。ZとRとXの単位はどれもΩ(オーム)になります。

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また、フェーザ記法で考えたとき、ある素子にかかる電圧Vと、その素子に流れる電流Iの比例関係を以下の形で表した時の比例係数Yをその素子のアドミッタンスと呼び、実部Gをコンダクタンス、虚部Bをサセプタンスと呼ぶことがあります。YとGとBの単位はどれもS(ジーメンス)になります。昔はΩ(オーム[Ohm])の反対ということで℧(モー[mho])という単位も使われていましたが今は使われていません。

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3.受動素子のインピーダンス

抵抗器、コンデンサ、コイルの電流ー電圧特性を考える、というのが今回の議論のきっかけでした。そして今回の議論で電流ー電圧特性はフェーザ記法を用いたインピーダンスで簡単に表現することができることがわかりました。ここまでの議論を踏まえて抵抗器、コンデンサ、コイルのインピーダンスについて考えていきましょう。
まず各素子に電流i(t)がcosの形で流れたときに各素子の両端にかかる電圧v(t)は以下の関係になっています。

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ここで、インピーダンスの振幅は比例係数のうちi_0を除いた部分になり、位相はcos(2πft)からの位相差であることを考えると、最終的にインピーダンスは以下の式で書くことができます。

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この表記から各素子の性質を読み解いていきましょう。
まず、抵抗器については電流と電圧は同位相であることと、同じ電流を流そうとしたときに抵抗の値が大きければ大きいほど高い電圧が必要である(つまり電流が流れににくい)ことがわかります。
同様に、コンデンサの電圧は電流に対してπ/2[rad](=90°)だけ遅れており、同じ電流を流そうとしたときにキャパシタンスが小さいほど高い電圧が必要である(つまり電流が流れににくい)ことがわかります。さらにコンデンサは周波数によっても必要な電圧の大きさが変わり、周波数が低いほど高い電圧が必要である(つまり電流が流れにくい)こともわかります。
コイルに関しておおむねコンデンサの逆になっており、電圧は電流に対してπ/2[rad](=90°)だけ進んでおり、インダクタンスが大きいほど電流が流れにくく、周波数が高いほど電流が流れにくいことがわかります。

最後にインピーダンスの数値的な表現方法としてよく使われるものを紹介しましょう。横軸を周波数、縦軸をインピーダンスとしたときのグラフがよく使われ、具体例として下図のようなグラフとなります。このとき、周波数の範囲が広いことから周波数は対数で表現されることが多いです。インピーダンスの振幅も絶対値の桁が大きく変わるためにやはり対数で表現されることが多いです。
ちなみにこのグラフ、緑線が抵抗器の、青線がコンデンサの、赤線がコイルのインピーダンスをそれぞれ示しており、この中で実線がインピーダンスの絶対値、破線がインピーダンスの位相を示しています。このグラフについてはなんとなくこんなものかという感じで眺めておいて、いざ使うことになったときに書いてみてわかるというところかもしれません。

インピーダンスの周波数特性

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