電子回路の寄生素子

抵抗やコイル、コンデンサのような受動素子を高い周波数で使う際に問題になるものとして寄生素子と呼ばれるものがあります。これを体感するのに一番良いのは実際に測定してみることで、私も社会人1年目の時にオシロスコープと信号発生器を使ってインピーダンスの測定をした覚えがあります。今回は実際の測定結果ではなく理論を中心にまとめます。

1.寄生素子とは

世の中には抵抗、コンデンサ、コイルといった受動素子と呼ばれるものがたくさん売っています。これらの素子は回路図上は数式通りの動作(理想的な動作)をしますが、実際に動かすと周波数が高い場合などで理想通りの動作をしてくれません。この原因が寄生素子と呼ばれるものです。寄生素子は物理的なサイズや構造に起因する予期しない(回路図上に現れない)素子で、現実世界ではどうしても出来てしまうものです。

まずはコイルについて考えてみましょう。コイルは銅などの抵抗の小さな金属の線を巻くことでできており、この導線の抵抗(銅損)が存在するため本来のコイルに直列な抵抗を有します。また、コイルの巻き線と巻線の間には隙間ができており、空隙の両側で電圧が異なればその両側に電荷がたまります。つまりコイルの巻き線間は微小な容量を持っているとみることができるのです。

コイルの寄生容量

その結果、コイルの等価回路は以下の図のようになると考えることができます。

コイルの等価回路

次に抵抗器の場合を考えます。抵抗器の内部は下図のような構造をしていますが、この抵抗線は巻芯の周りをぐるぐる回っており、そのままコイルのような構造をしていることがわかります(画像出典:特開平9−74002)。このため、抵抗器は本来の抵抗に直列に微小コイルが接続されたように動作します。

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また、コイルの時と同様に微小コンデンサが並列に並ぶことから、抵抗器の等価回路は下図のように書くことができます。

抵抗器の等価回路

抵抗器とコイルの等価回路は全く同じとなりますが、抵抗器では抵抗が、コイルではインダクタンスがある程度管理された大きな値を持っているという違いがあります。

コンデンサの等価回路は抵抗器やコイルの等価回路とは違ったものになります。これは直流時の動作が根本的に異なっていることからも理解されます。
コンデンサに限りませんが、素子の線路(右下の図のリード部分)は左側の線を往路とし右側の線を復路とする微小なループを形成しており、この部分が1巻きのコイルのような動作をします。その結果、等価的なコイルが本来のコンデンサと直列に接続されているように動作をします(一般的に有限の長さの線路があるだけでコイルっぽい動作をする傾向にあります)。

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また、コンデンサでは電流が流れないように電極間に絶縁体が置かれますが、実際にはこの絶縁体内を漏れ電流と呼ばれる微小な電流が流れるため、コンデンサと並列に値の大きな抵抗器が等価的に存在します。漏れ電流は電極の大きさや絶縁体の性質によって異なり、例えばですがアルミ電解コンデンサは比較的漏れ電流が大きい、などの傾向があります。
これらの結果、コンデンサの等価回路は以下の図のようになります。

コンデンサの等価回路

一つ注意すべきこととして、ここで挙げた等価回路は第一計算レベルの話であり、どんなに高い周波数までも動作を説明できる完璧な等価回路というものは作れないということです。今回紹介した等価回路は比較的影響の大きい目に見える要素を中心に考慮したものであり、確かに大雑把に動作を理解することはできますが、さらに高い周波数で無視できない等価素子の素(例えば線の太さなど)などまでを等価回路にすることはできていません。また、そのような等価回路を作ることは現実的ではないですし、役に立たないでしょう。等価回路を考える目的は、使いたい素子が所望の動作をしてくれるのか、してくれないのであればどの程度かを把握することがメインになります。

2.寄生素子はいつ考えればよいのか

寄生素子はいつでも考える必要があるものではありません。通常であれば1kΩの抵抗器は1kΩの抵抗を期待して、1μFのコンデンサは1μFの容量を期待して使用しています。では、どのようなときに寄生素子が問題になるのでしょうか。これが問題になるのは以下の二つの時です。
 1.周波数が高い場合(寄生リアクタンス)
 2.大電流が流れる場合(寄生抵抗)

大電流が流れる場合は微小な抵抗でも大きな電力損失があるため、発熱などの問題が顕在化しやすい、という意味になります。周波数が高い場合については若干説明が必要となりますので、ここでは周波数が高い場合について考えてみましょう。

まずコイルについて考えると等価回路は以下のような図で書くことができます。まず寄生抵抗R_Lは小さいことからざっくり無視して考えると、この回路は並列共振回路になっており、直流から共振周波数まではコイルとして動作しますが、共振周波数を超えるとコンデンサとして動作し始めます。そのため、寄生容量と素子のコイルが作る共振周波数までが使用できる周波数の目安となります。

コイルの等価回路

同様に、コンデンサの等価回路は下図のように書かれ、漏れ電流が小さい(抵抗R_Cが十分大きい)とすると、コンデンサは直列共振回路となっており、直流から共振周波数まではコンデンサとして動作しますが、共振周波数を超えるとコイルとして動作し始めます。このため、寄生インダクタとコンデンサが作る共振周波数までが使用できる周波数の目安となります。

コンデンサの等価回路

最後に抵抗素子ですが、これは抵抗素子がメインであり寄生インダクタと寄生容量がともに小さいためどのような動作をするのかは等価回路からは一般に言えません。しかし、たいていの場合寄生インダクタの方が値が大きいため、抵抗ははじめは純粋な抵抗として動作しますが、周波数が大きくなるとコイルとして動作し始めることになります。

抵抗器の等価回路

3.高い周波数まで使える素子の傾向

最近はチップコンデンサなどの高周波特性をデータとして提供しているメーカーが増えてきており(例:村田製作所のとあるチップコンデンサのデータ)、例えば下図のような素子のインピーダンスが手に入るようになってきております。この素子の場合、1.5GHzくらいのところで共振が起こっており、それよりも低い周波数ではおおむねコンデンサとして動作していると考えることができます。

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このようなデータを提供していないメーカーの部品については素子のインピーダンス特性を自分で測定するなどの対策や、経験的にこの周波数ならいけるだろう、みたいな勘ピュータを働かせる必要があります。し

かし、やみくもに素子を買ってきて測定するというのは現実的ではありません。そこで、より高い周波数まで使える素子は一般的に次のような傾向を持っていることを知っていると設計しやすいでしょう。
 1.素子定数が小さい(特にコンデンサとコイル)
 2.素子のサイズが小さい
ここでいう素子定数とは、コンデンサであれば容量を、コイルであればインダクタンスのことを指します。

3-1.素子定数が小さいことによる高周波化

素子定数と使用可能な周波数の関係についてコンデンサの場合で考えてみましょう。容量Cで寄生インダクタンスLは直列共振回路で考えることができ、このとき共振周波数f_rは以下の式で書くことができます。

コンデンサの等価回路

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この共振周波数以下の周波数でコンデンサがコンデンサとして動作している状態であり、この周波数を超えるとコンデンサはコンデンサとして動作しなくなりはじめます。素子の物理的なサイズで寄生インダクタンスが(大まかに)決まるとすると、同じサイズの場合上の式より共振周波数(大雑把には素子の使用可能な周波数)は素子定数である容量Cが小さくなるほど高くなっていく傾向にあります。
例として寄生インダクタンスを300pHで固定し、容量を変えたときのインピーダンスのグラフを下に示します。容量を100μFと少し大きめにした場合、300kHzあたりで位相がー90°からずれはじめ、コンデンサとしての動作をしなくなり始めています。それに対して容量を1μFと比較的小さめにした場合、10MHz近くまでコンデンサとして動作しており、同じ寄生インダクタンスにもかかわらずより小さい容量の素子の方がより高い周波数まで本来のコンデンサとしての動作をすることが確認できます。

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このようなことはコイルでも同様に起こり、コイルではインダクタンスが小さい方がより高い周波数まで使用することができる傾向にあります。

3-2.素子サイズが小さいことによる高周波化

寄生素子は物理的なサイズによる影響である、という点について少し考えていきます。
まず寄生抵抗については、線路の長さが短くなれば線材の太さと材質が変わらない限り抵抗は小さくなります。
寄生インダクタについては、線路の長さがインダクタンスになっており、長さが短いほどインダクタンスは小さくなっていきます。これは長さ0の線路を考えてみる(つまり線路がない場合を考える)と、インダクタンスとなる物理的な部分がないことからも想像できるかと思います。
寄生コンデンサについても、小型であれば電荷がたまる面積が小さくなることから容量が小さくなっていく傾向にあります。

この結果、寄生素子の影響は小さい素子の方が小さくなり、高い周波数まで使用可能となる傾向にあります。
おぼろげな記憶ながら、各部品の使用可能な周波数は以下のオーダーだったはずです。
 ・リード抵抗:700kHz~10MHzくらい
 ・リードコンデンサ:700kHz~10MHzくらい
 ・チップ抵抗(1608サイズ):1GHz~5GHzくらい
 ・チップコンデンサ(1005サイズ):1GHz~10GHzくらい
また、コイルは巻き線を作る関係で抵抗器やコンデンサに比べて素子サイズが大きくなるため、高い周波数が苦手な素子というイメージがあります。

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