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入出力インピーダンス(電圧源と電流源)

今回は入力インピーダンスと出力インピーダンスについてです。昔この言葉の意味が分からず、一番最初にハマってしまい、ああ電子回路って難しいんだなあって思いました。内容はそんなに難しくないんですが、言葉の意味が分からないと難しく感じたりするんです。ここは将来的に高周波回路をやる上でも避けては通れないところですし、このあたりできちんと言及したいと思います。

1.入力インピーダンス

まず回路をブラックボックスで考えることをしてみましょう。実際には抵抗器やコンデンサやコイルがたくさんあったり、トランジスタやオペアンプがたくさんあったりしてできている回路ですが、毎回個別の回路を全部考えていると大変です。そこで、一つの回路の集まり(回路ブロック)をブラックボックスとしてひとまとめにして考えてみます。この回路ブロックからは外部に接続される線(端子対)がいくつか出ており、ほかの回路ブロックと端子対同士がつながって回路全体を作っています。(下の図参照。適当に作った回路ブロックのため、意図のある回路ではないです。)

回路ブロック網

このうち一番簡単な例として、回路ブロックから外部に接続される線が1組である場合を考えてみましょう。これは回路の中でも信号が行きつく最後の部分でよくある場所ですね。(下図は抵抗器やコイルの等価回路。)

入力インピーダンス

このブラックボックスの端子に電圧V_inがかかった時に、ブラックボックスに流れ込む電流I_inとしてその比Z_inを考えると、ブラックボックスをインピーダンスZ_inを持つ一つの回路素子として考えることができます。これを入力インピーダンスZ_inと呼びます。

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入力インピーダンスは端子対が1個の回路であれば定義できて一般性が高く非常に便利です。この回路の入力インピーダンスは?とか、このオシロスコープの入力インピーダンスは?とか、このセンサーの入力インピーダンスは?といったことを考えることができます。入力インピーダンスの理想値に関しては3節と4節で説明します。

2.出力インピーダンス

次に、出力インピーダンスについて考えてみましょう。出力インピーダンスは電源などの信号源を含んだ回路ブロックについて考えるときのインピーダンスです。下の図のように信号源には内部抵抗などに由来するZ_outの出力インピーダンスが含まれていると考えます。これがあると電源内部で無駄に電力が消費されたり、実際の端子から出てくる電圧V_termがV_outよりも小さくなってしまったりといった影響が現れます。

出力インピーダンス

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出力インピーダンスも端子対が1個の回路あってそこから信号が出てくれば定義できる概念で、信号発生器や発振回路の出力インピーダンスといったものや、電池の出力インピーダンスを考えることができます。高周波系の信号源は50Ωのものが多いですし、電池では0Ωに近い低いものが多いと思います。出力インピーダンスの理想値に関しては3節と4節で説明します。
ちなみに、この出力インピーダンスですが、この回路ブロックに信号が入る場合はこの回路ブロックの入力インピーダンスと同じになります。よく見ると出力インピーダンスの電流と電圧の関係で定義している式の中身は(V_outだけ下駄は履いているものの)入力インピーダンスと同じですね。

3.電圧源と電流源

今まで無意識に電源といえば電池や信号発生器といった決まった電圧を出すものを中心に議論を進めてきましたが、実際には決まった電流を出す回路といったものも存在します。前者を「電圧源」(一般に電源といった場合はこちら)、後者を「電流源」と呼んでいます。回路内部の信号は、電圧で伝送することが多いため、電圧源は非常によく使われる表現です。それに対して電流源はやや特殊な回路で、計装機器の出力回路やセンサとの接続部など耐ノイズ性が重要になってくるところで使われます(電流伝送の場合、回路のオーム損の影響を受けて消費電力が増え傾向にあるからのはずです)。
ここでは電圧・電流の誤差という観点から、電圧源・電流源は理想的にはどのようにあるべきかについて、以下のような単純(とはいえ一般的)な回路で考えてみましょう。

単純化した回路

電圧源は、つないだ先がどのような回路(どのようなZ_in)であっても決まった電圧V_outを出すことが望ましいものです(電圧源の両端の電圧を、設定した電圧にしたいから電圧源を使っている)。しかしZ_outと回路間を流れる電流の影響で端子電圧V_termは以下の式のようにV_outから電圧が下がってしまいます。

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このような電圧降下(言い方を変えれば誤差)を防ぐためにはZ_outが0Ωであることが望ましく、実際の電圧源では0Ωは実現できないものの極力小さな出力インピーダンスを持たせることが通常です。さらに、接続先の回路の入力インピーダンスZ_inが大きければ大きいほど(負荷が軽ければ軽いほど)、端子電圧の誤差を小さくすることができることから、電圧の精度が重要な回路(主に電圧で信号を伝送する回路)ではロー出しハイ受けと呼ばれるように、極力小さな出力インピーダンスで信号を出して、極力大きな入力インピーダンスで信号を受ける、ということが鉄則になっています。また、回路図上(とくにシミュレータ上)では電圧源は出力インピーダンスが0Ωの素子として扱われており、必要であれば適宜設定するか等価回路を書いてあげる必要があります。
ちなみに、電圧源の出力インピーダンスは接続先の負荷を重くしていったときに電圧が半分になる時という簡易的な測定法があります。

次に電流源について考えてみましょう。電流源ではつないだ先がどのような回路(どのようなZ_in)であっても決まった電流I_outを出力することが望ましいものです(電流源の端子から設定した電流を流したいから電流源を使っている)。しかしZ_outが分岐として存在するため、端子から流れ出る電流I_termは以下の式となり、I_outよりも下がってしまいます。

単純化した電流源回路

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このような電流の減少(言い方を変えれば誤差)を防ぐためにはZ_outが無限大であることが望ましく、実際の電流源では無限大は実現できないものの極力大きな出力インピーダンスを持たせることが通常です。さらに、接続先の回路Z_inが小さければ小さいほど(電流源に対してはこの場合を「負荷が軽い」というはず)、電流の誤差を小さくすることができることから、電流の精度が重要な電流源回路(主に電流で信号を伝送する回路)では、極力大きな出力インピーダンスで信号を出して、極力小さな入力インピーダンスで信号を受ける、ということが鉄則になります。ただ、電流源回路は電圧源回路に比べて特殊な用途で使用されることが多いため、電圧源回路のときのようなわかりやすい言葉はないようです。なお、回路図上(とくにシミュレータ上)では電流源は出力インピーダンスが無限大の素子として扱われており、必要であれば適宜設定するか等価回路を書いてあげる必要があります。

5.インピーダンス整合

前節の議論は、電圧と電流の端子での誤差という観点から理想的な入出力インピーダンスの関係を議論しました。今回はそれとは違った視点で理想的な入出力インピーダンスについて議論していきます。

電圧源で考えても電流源で考えても同じ結果になりますが、わかりやすさを優先して電圧源で考えてみましょう。この電圧源を電力の源とした際に負荷での電力消費を最大にするための条件を考えてみます。

最大電力伝送

まず入力インピーダンスと出力インピーダンスが実数である場合を考えると、負荷で消費される電力は以下の式となります。

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ここで、R_outとR_inについて相加相乗平均の関係を用いると、以下の関係となり、負荷で消費される電力の最大値とその時の条件が求まります。

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つまり、入力インピーダンスと出力インピーダンスが同じ時に、最も負荷に電力を消費させることができるということがわかりました。この状態を入出力インピーダンスが整合している(マッチング状態にある)といい、この状態を作ることを整合させる(マッチングさせる)ということがあります。

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さらにより一般化して、入出力インピーダンスが複素数の場合を考えると、負荷で消費される電力Pは以下のように表現されます。

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このうち、インピーダンスの虚部があると分子には一切寄与しない割に、分母は大きくなってしまいます。そのため、分母のZ_in+Z_outの虚部は0のときに負荷での消費電力が最大となります。実部については実数のときの議論と同じことが言えるため、結局負荷で最大の電力消費が起こる入出力インピーダンスはお互いに複素共役な時ということになります。

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ちなみに、インピーダンスを整合すると電源側の出力インピーダンスZ_outで消費される電力が負荷で消費される電力Pと一致します。これは電源の発熱や受信アンテナの再放射の原因になったりしますので、場合によってはきちんと検討してあげましょう。

6.ロー出しハイ受けとインピーダンス整合のどっちを使うの?

よくこんがらがる人がいるので説明しておきますね。
ロー出しハイ受けは、電圧の大きさを信号にして次の回路ブロックに信号を伝える部分などで使われます。この場合、電圧そのものが信号であるため電圧の誤差は信号の劣化そのものであり、これを極力減らすことが求められます。
それに対してインピーダンス整合は負荷での電力消費を最大にしたいときに使うべきものです。負荷でものを動かしたり、音や光・電波といった別のエネルギーに変換するためには電圧ではなく電力が必要です。そのため、アンテナやセンサなどのフロントエンド(外界からエネルギーを電力に変換する入口)や、モーターやスピーカーなどの動作部(電力を使って実際にモノを動かすところ)にはできるだけ多くの電力を(効率よく)伝送する必要があります。まさにこのようなときにインピーダンス整合が必要となってきます。

ちなみに、高周波系の回路では別の目的でインピーダンス整合が必要になります。すごくざっくり言うと、高周波回路では信号の反射というものを嫌うのですが、インピーダンスを整合して電力が負荷に最大限届けば信号(電力)が反射してこないはずだ、という考え方をします。詳しくは高周波回路についての議論をしたときに書きたいと思います。

7.まとめ

今回の議論の中で、入力インピーダンスと出力インピーダンスの理想的な関係をまとめると以下のようになります。うまく使い分けてよい回路を作りましょう。

A.電圧で信号を伝送する場合、ローだしハイ受けが電圧誤差を減らせる
B.電流で信号を伝送する場合、電圧の逆にすると電流誤差を減らせる
C.電力を伝送させるという視点では、インピーダンスの整合をさせると最も多くの電力を負荷に伝えることができる

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