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デジタル回路ではなくアナログ回路を学ぶ意義その1(デジタル信号の利点)

2021年、世はデジタル化の全盛期。DX(デジタル・トランスフォーメーション)やデジタル改革相なんて言葉が新聞の紙面を躍る昨今、デジタル回路ではなくアナログ回路を学ぶ意義とはなんだろう、というところを私なりの言葉でまとめておきたいと思います。結論から言うと世の中がデジタルで動くようになったからと言ってアナログ回路が無用になる日は来ないでしょう。いえ、むしろより重要になるのではないかと考えています。

意外と長い記事になってしまったので2回に分けました。今回の記事はアナログ回路とデジタル回路の話をする前に、回路が扱う信号をアナログ信号とデジタル信号に分けてそれぞれの特徴についてお話します。

1.そもそもアナログとデジタルって何?

アナログやデジタルという言葉がよく使われますが、それぞれの意味についてご存じでしょうか。なんとなくアナログは古いもの、デジタルは新しいものという認識しかもっていない人も多いのではないでしょうか。まずはアナログとデジタルの本来の意味についてお話ししましょう。
アナログとデジタルの大きな違いは、データの扱い方です。アナログデータはデータを連続量として扱い、デジタルデータはとびとびの量として扱います。身近な例として時計を例に考えてみましょう。
アナログ時計は長針と短針、場合によっては秒針を使って時刻を表します。この時それぞれの針はすべてゆっくりとですが途切れなく(つまり連続的に)動いており、たとえば0.1秒後には我々には認識できないほど少しではありますが、針は位置を変えてしまっているのです。このようにして時刻を針の位置という「連続的なデータ」として扱うのでアナログ時計は「アナログ」時計と呼ばれています。

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それに対してデジタル時計は時間・分(場合によっては秒もですが、ここでは分までの表示のものを考えます)を7セグメントLEDやパタパタなどで表示することで時刻を表します。このとき表示する数字は4桁の整数だけが表示され、1分の間にある秒や0.1秒を示すことは絶対にありません。このように1分間という「とびとびの値」をもとに時刻を扱うことからデジタル時計は「デジタル」時計と呼ばれています。

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2.アナログ信号とデジタル信号

アナログとデジタルの意味を踏まえてアナログ信号とデジタル信号について考えてみましょう。
信号は扱いの容易さから通常電圧の変化として伝達されます。この時、時々刻々と変わる信号を完全にコピーしたものがアナログ信号となります(アナログの語源、アナロジー「相似」の言葉が使われるのはここにあります)。例えば音声データであれば、空気の振動波形をマイクによって電圧に変換した電圧波形そのものがアナログ信号です。

アナログ信号

それに対して、アナログ信号をサンプリング(データの間引き)をし、そのデータを数字の列に変換し、この数字の列をコンピュータなどで扱いやすいように符号化し(下図では2進数にしています)、さらにこの符号化した数字を特定のルールに則って電圧変化に割り当てた(変調)ものがデジタル信号になります。デジタル信号は変調の結果、電圧が高いか低いかに情報を乗せており、その結果例えば0Vと5Vというびとびの電圧(デジタル)の移り変わりが信号になっています。
(注:変調の使い方が微妙に間違っているかも)

デジタル信号

処理の内容はこれだけで1冊の本があるくらい複雑なのでここでは詳細までわかる必要はありません。デジタル信号はアナログ信号に複雑な処理をすることでやっと得られるものである、くらいの理解で十分です。

3.デジタル信号の良さ

複雑な処理をすることでやっと得られたデジタル信号ですが、複雑な処理のおかげで例えば以下のような3点の利点があります。

1.情報量を減らしデータを扱いやすくする。
2.ノイズに強い。
3.再現性がよい(コピーしやすい)。

1番目の利点は時計の例を考えてもらえばわかるかと思います。人間にとって必要な情報はデジタル時計が表示している何時何分というたったの4桁の数字で表現できることのはずなのですが、アナログ時計の場合は文字盤上に乗った長針と短針の位置関係という複雑な情報を読み取らねばなりません(我々大人は慣れていますが、幼稚園児くらいの頃はアナログ時計から時刻を読み取ることが難しかったような気がします)。それに対してデジタル時計は我々が必要としているまさに4桁の数字だけを抽出して示してくれます。このようにデジタル信号は重要な情報だけ取り出し、余計な情報をそぎ落とすことで扱いやすくなるという利点があります。

2番目の利点は回路設計者にとって重要です。アナログ信号は電圧波形そのものが信号になっているため現実世界で絶対に存在するノイズが混入すると電圧波形が歪み、信号の劣化が起こります。それに対してデジタル信号はとびとびの電圧が信号となっていることから、高い電圧と低い電圧が入れ替わるほどの大きなノイズが入ったときを除けば信号の劣化が起こりません(波形は劣化しますが0/1の配列は影響を受けない)。この違いから、デジタル信号はノイズに強いという特徴を持ちます。

デジタルとアナログのノイズ耐性

3番目の利点は上2つの利点の結果得られたものです。情報量を減らしたことでコピーする対象が明確化されます。時計の例で言えばアナログ時計の針の位置を「正確に」コピーすることは難しいですが、デジタル時計の4桁の数字であれば簡単です。また、ノイズに強いことから何回もコピーされたりしたときに混入するノイズによる劣化もなく、同じ情報をいくつもコピーすることが得意です。このようにデジタル信号は同じ情報をみんなで持つことに向いている信号形式でもあります。

それに対してアナログの利点というと、実はあまりありません。敢えて上げればアナログ信号は処理されるために時間が不要なため処理時間が短いという利点がありますが、現代社会で要求される複雑な処理をすべてアナログで行うことは不可能です(コンピュータ処理をアナログ信号だけで処理することは現実的ではないでしょう)。アナログの利点がない、というよりもそれだけデジタルというものが優れていったほうが正しいかもしれませんが。

4.まとめ

上述のようにデジタル信号はアナログ信号に比べて扱いやすく、情報のデジタル化は現代社会でも不可欠なことです。それにも関わらずアナログ信号を扱う必要がどうしてあるのか。そして、アナログ信号を扱うアナログ回路に何が求められるのか。これについて次の記事で見ていきましょう。
(長くなってしまったので次回に続く)

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