渦 第6話

あけすけに笑う彼は、住民の人気者らしかった。

晴天の海の町は、穏やかで静かだった。時々遠くから聞こえる

人の笑い声よりウミネコの鳴く声のほうが鮮明に聞こえてくる

波の音はうずうずする黒いものを少しずつ食べて波が

持って行ってくれる感じがした。

誰かが消してくれるものではなく、場所なのかもしれない。

この場所が私の渦をいつか消してくれるのかもしれない。

この地に私の居場所を作れば、ここにいられる。

どうにかしてここに居場所を作ろうと必死になった。

地域活動に必ず声をかけてもらった。

隣町のお祭りにも参加した。お神輿を担ぎ町を3日間練り歩く

各家々、お店を回り夜に神社に戻る。

夜になるとうっすら寒くなる空気だが大量に体内にながした

お酒と人の熱気がさらし姿でも不思議と平気だった

しかしお祭りの終盤、出産が近い妊婦が路上で倒れて

しまったらしく倒れた女性の周りに人が集まっていた

冷たいアスファルトにお腹をかかえて起き上がれない

彼女に、参加している神輿メンバーが

自分たちの半被をアスファルトに敷きつめ寝かせ

他のメンバーも彼女の周りを半被で隠し、観客から隠し

救急車が来るのを待った。

田舎町で困難なのは、救急車がある病院が町の中にはなく

車で40分ほど走った町から呼ぶことになるのだ

彼女が倒れて20分が過ぎていたが救急車の音は一向に

してこない。夜が深くなると夜風が冷たさを増していく

鎖骨下からおへそまでぐるぐる巻きにしたさらし姿の

私は、肩の先がヒリヒリ痛みはじめ

無意識に体の震えが止まらなくなってきた。

アスファルトに倒れる彼女はもっと体温が下がっているだろう

『頼むから、助けて』

私の背中の中心を誰かの手がさすってきた

その手がさする場所からじわじわあったかくなり

全身がポカポカしてくる。寒さが消えたとき救急車が到着し

彼女は運ばれていった・・・。

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