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東京一人旅

主たる目的としてミュージカル『パレード』を観るために、2泊3日で上京した。しかもなんと一人旅だ。

というのも、いつも一緒に上京している4歳児のグスタフ(仮名)が、今回は一緒に行きたくないと言い出したのだ。これはホント、晴天の霹靂と言ってもよいレベルの驚きで、愛妻も「だってそしたらママとずっと一緒なんだよ? 大丈夫なの??」とグスタフに詰め寄るほどの大事件であった。
確かに、いつも喜んで一緒に上京してくれるものだから、今回はついついグスタフに説明するのが遅れてしまった。上京の3日前くらいに「3日後から一緒に東京行くよ」と決定事項として伝えてしまったのだ。これはまずかった。たとえ4歳児とはいえ、意思のある人間なのだから、調整できる事柄についてはまず本人の意向を最優先すべきだ。ここは大いなる反省点だ。

突然だったこともあると思うが、それ以外にも、新幹線に長時間乗りたくないということと、ホテルに泊まった場合は(自宅にあるようなたくさんの)オモチャがない、ということが嫌だという説明であった。
もちろん私自身は偶の一人旅は大歓迎なのであるが、愛妻がひとりで(しかも第二子アマデも一緒に)グスタフを見るというのはかなりの無理を生じるのも明らかであった。
グスタフの気持ちを何度も確認し、どうしても今回は上京しないという強い意志を感じたこともあり、今回は、愛妻に無理を言って子ども二人を見ていてもらうことで決着した。本当に感謝しかない。

ところでグスタフを連れて行って観劇する場合、一緒に観劇するわけではないので(四季以外の公演は未就学児を連れていかれないのがほとんどだ)、預かってもらう必要がある。
そして、今回『パレード』を上演する東京芸術劇場は、「公演託児」というシステムがあり、公演を観ている人の子どもを預かってくれるのだ。

なんと1公演あたり2,160円で預かってもらえるのだ。劇団四季の託児サービスも顔負けのお得なお値段だ。

ただ一つの難点は、公演の1週間前までに申し込みが必要だということだ。今回は週末の土日公演を観る予定にしており、土日は託児サービスの受付が行われていないことから、実質8日前の金曜日に電話する必要があった。
しかしながら例によって直前にスケジュールを決める私は、当週の月曜日に電話をしてしまった。そしてあえなく「1週間以上前のお申し込みでないとシッターさんの手配ができません」と断られてしまったのだ。
次回以降の注意点としたい。

なので結局、いつも通りにベビーシッターさんの予約をした。土曜ソワレと日曜マチネの『パレード』用だ。(結局キャンセルすることになってしまって、大変申し訳なかった。)

そして、劇場とホテルが近隣にあるという環境を重要視している私にとって、パレードの上演が東京芸術劇場である以上、ホテルはメトロポリタンしか考えられなかった。
6年前にはおけぴで知り合った友人の結婚式にもお呼ばれしたホテルで、思い出も多い。

この時点で、私の遠征計画は以下のようになっていた。(こんな情報誰得だとは思うが、日記のようなものなので、ご容赦願いたい。)

1/22(金)マチネ  劇団四季『The Bridge ~歌の架け橋~』
1/23(土)ソワレ  ミュージカル『パレード』
1/24(日)マチネ  ミュージカル『パレード』

過去の経験から、グスタフを連れて上京するときにマチソワは無理がある。離れていてよいのは、1日で1公演分の時間だけだということを学んでいるので、そのようなスケジュールにした。
しかし上京直前に愛妻と話し合い、日曜マチネを観た場合には帰りが夜になってしまい、実質3日間の負担を掛けてしまうことから、日程を短縮することにした。

日曜日の朝に東京を発ち、昼前には自宅に帰り着くというプランだ。
しかしそうすると、パレードを1回しか観られない。その分は大阪公演で追いチケするしかないかな~、ということでいったんの落としどころとした。

結果としては、金曜ソワレにも公演があることを知り(遅っ)、ラッキーなことにおけぴでチケットを譲っていただくことができたため、以下のような観劇日程となった。一人旅であるのなら、諦めていた土曜マチネのストプレも復活だ。

1/22(金)マチネ  劇団四季『The Bridge ~歌の架け橋~』
1/22(金)ソワレ  ミュージカル『パレード』
1/23(土)マチネ  ストレートプレイ『スルース ~探偵~』
1/23(土)ソワレ  ミュージカル『パレード』

二日続けてマチソワなんて、子どもが生まれてからは経験がないので、おそらくは5年以上ぶりだと思う。

金曜マチネの劇団四季は、ショーそのものよりも、新しい劇場のこけら落としにようやく来ることができたという喜びの方が大きかった。ショー自体の感想は、以下のnoteに書いた。

そしてホテルにチェックインを済ませた。しかし池袋は本当に久しぶりだ。学生時代は、芳林堂書店やその中に魔法陣があり、東武にもマジックコーナーがあり、また蔵王というトースト食べ放題の喫茶店があったことから、西口を中心に大変お世話になった街だ。
近年では2015年という年に、友人の結婚式、聖子さんの出演したミュージカル・ミーツ・シンフォニー、ミュージカル『CHESS』初演など、集中して行くことになったのだが、おそらくそれ以来5年半ぶりの池袋西口ではなかろうか、という懐かしさであった。

さて、ソワレはいよいよ真打ちのパレードだ。これも感想は以下のnoteに譲る。もちろんとても面白かったが、恐れていたようなメンタルショックはなかった。

本来であれば金曜の夜はかつてのように、行きつけのお店に行きたかったところであるが、せっかく劇場とホテルが近いのに意味がなくなってしまう。今回は、大好きなホテル直帰(劇場から歩いて帰れるなんて最高)を楽しむことにした。

土曜の昼は新国立劇場で『スルース ~探偵~』を観た。
感想は別途書けるかどうかわからないが、とても良い芝居で堪能した。そしてそれだけでなく、セリフのあれこれが前夜のパレードを思い出させてくれる形となった。
パレードが絶賛されたのは、松本清張のような社会派推理が絶賛されたのと同じ構図なんだな、という気づき。そして、アンドリュー・ワイクは、その社会派に駆逐された本格派の作家なのだな、と。

社会派のミステリでは社会問題とともに「人間を描く」ことが重視される。まさにパレードが社会問題を扱いつつ、人間らしい感情を顕わにした「演技」で観客を魅了する構図と同じだ。
一方で本格推理は(誤解を恐れずに言えば)人間を将棋の駒のように扱い、パズラーとしての謎解きに主眼を置く。芝居に置き換えたとき、ロボットのような動きをされたのでは確かに困るのであるが、劇団四季創立者の浅利先生がいつもおっしゃっていた「居て、捨てて、語れ」とは、まさに本格推理派の登場人物のようではないか。決して役者の感情を露わにするのではなく、台本がよければ台本がすべてを伝えてくれる。台本に忠実に演じることこそが良い芝居だ、という考えだ。

ミステリの世界では、社会派と本格派の作家は過去にいがみ合っていた時期もあるが、どちらも価値のある小説であるのは間違いない。そして舞台もまた然りだと思う。どちらのスタイルも素晴らしい。あるのは好き嫌いだけだ。

そういう意味では、かつて『スルース』を劇団四季が演じていたことを思い返せば、特にアンドリュー・ワイク役の役者さん(私が観たことがあるのは、日下先生と広瀬さんと志村さんだ)は、感情をいつも抑え込んでいた。特に日下先生は顕著だったと思う。今回の吉田鋼太郎さんとは対照的だったな、と思わずにはいられない。
そういう意味では、パレードのみならずスルースも、感情を露わにする社会派のスタイルだったのだな、と感じるのだ。

スルースの余韻も醒めやらぬ中、前日に続いて東京芸術劇場へ向かい、パレードを堪能した。しかも最前列センターでの観劇であった。前日の経験から楽しみ方のポイントもよくわかっていたので、一層落ち着いて楽しむことができた。

あっという間のマチソワ2日間ではあったが、久しぶりに劇場の空気を吸い、改めて観劇っていいな~、と観劇熱が戻ってきた次第だ。

ところで備忘的にメモしておきたいのが、今回、ホリプロの公演だけが払い戻しできないという事実だ。
今回は、緊急事態宣言が発令されたことで、チケットを持っていたとしても払い戻しを受け付けてくれる大手の興業主がほとんどである。劇団四季、宝塚歌劇、東宝のみならず、同じホリプロの『パレード』大阪公演を主宰する梅田芸術劇場も払い戻ししてくれるのだ。観客の「行きたいけど行かない」という判断を後押ししてくれる措置だ。
一方でホリプロ主催公演は、中止になった公演はもちろん払い戻しがあるものの、公演が行われた回のチケットは払い戻しされないのだ。これは興業主としていかがなものか、と思わざるを得ないが、元からホリプロには良識を期待していないので、やっぱりか、という思いの方が強い。
ここ10年ほどミュージカルに力を入れてくれ、よい作品を演じ、良い役者を集めているホリプロだが、経営陣は相変わらずイケてないということが図らずも露呈した一件であった。

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