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数億円のNFT売買は、実は「投機」だけじゃなかった

こんにちは、LINEでNFT事業をやっているRyo(@RyahooBB)です。ここ5年ほどブロックチェーン、Web3.0のことだけを考え続けていて、LINEではNFTウォレットやNFTマーケットの立ち上げ、業界団体でのNFTガイドラインづくりもやっています。東京都庁→スタートアップ→LINEとちょっと変わったキャリアですが、プラットフォームにおけるガバナンス設計を自分の一貫したミッションとして歩んできました。

2021年はじめ以降、EthereumのNFTアートが数億円で売買された話がたびたびニュースになっています。高額売買は「投機」という文脈で語られることが多いです。NFTブームにより、派手な高額売買が注目されがちになっているようです。

「グローバルでの高額NFT売買は「投機」目的じゃないの?」

と、NFTを検討する人たちから聞かれる機会が増えています。

もちろん、数億円規模の高額売買に投機の側面がないと言い切ることは難しいです。あらゆる新興市場は投機からはじまることも事実です。しかし、ただの投機だけだと思っていると、NFT売買の本質に関わる大事な側面を見逃す可能性があります。

どういう側面かというと、高額NFT売買には、投機を含めて少なくとも3つの目的が存在しているということです。

  1. 投機(売買の差額でお金を増やす。)

  2. 自己表現(思想やコミュニティへの帰属を示す。)

  3. 名誉(勝利、優越を目指す。)

高額でのNFTの売買には投機だけではなく、「クリプト富豪の遊び」としての側面があると思います。クリプト富豪がイーサリアムでNFT売買する遊びの中で、自己表現、名誉の追求をしていると見るわけです。

ちょっと詳しく説明していきます。


クリプト富豪の思考回路

高額NFTの典型である「CryptoPunks」は数百万円〜数億円相当のイーサリアム(ETH)決済で取引されています。基本的には日本円などの法定通貨での決済ではなく、暗号資産決済がほとんどです。

https://www.larvalabs.com/cryptopunks

CryptoPunksは、2017年にNFTの規格ERC-721が生まれた当初に1万個だけ発行されたNFTプロジェクトです。NFTの最古のプロジェクトの一つといわれています。ピクセルで表現されたこの宇宙人のNFTの画像は非常にシンプルで、それほど複雑な絵ではありません。中には、そもそもアートなの?と思う人も多いようです。

Crypto Punksの価値が上昇した2021年前半に取引していたメイン層は「クリプト富豪」とも言える人々でした。Crypto Punksは最古で数量限定のNFTなので、ヴィンテージ(年代モノ)のNFTとして人気を博しました。
NFTは、動画や画像などのコンテンツにトークンIDという識別子をつけて、いつ、どこで生まれたか、誰からもらったかをブロックチェーンに記録します。だからこそ、そのNFTが年代モノだと証明できます。

クリプト富豪(イーサリアム初期投資家)は、ETH価値上昇で1,000倍以上の投資リターンを受けていて、様々なトークン投資で資産が数万倍になっている人も数多く存在します。

典型的なクリプト富豪はイーサリアムの価値を固く信じており、法定通貨ではなくイーサリアム(ETH)の数量で資産価値を測ります。ビットコインの初期投資家も、法定通貨よりビットコイン保有量を指標として捉える人が多く存在します。

例えば、保有量が50,000ETHだったら当初日本円価値で数万円だったけど、今は数億円になっています。でも、今も昔も変わらず保有量は50,000ETH。その1%である500ETH(日本円価値1億円以上)をNFTに使っても、1%しかイーサリアム資産は減っていません。日本円、ドルのような法定通貨の価値はあまり気にせずに、ETH数量だけを意識してNFTに使うことが彼らの金銭感覚となっています。つまり、法定通貨価格にとらわれない価値観に基づいてETHを支払うこと自体が、自分の思想を表す自己表現手段になっているのです。

クリプト富豪は、イーサリアム、Web3.0の世界観に賛同していることを自己表現し、コミュニティ内での立場を確保するためにお金(ETH)を支払っている。Web3.0の序章としてNFTは今後世界中に広がると信じている。この思想と同じ文脈で生きる人が絶対にいると思うから、他の第三者がこのNFTにお金を払ってくれると信じることができる。他の人が買ってくれるって信頼できるから資産になる。。。

このような思考回路があるように思うのです。

Crypto PunksのNFTを購入して所有することで、NFT最初期からいる人達のコミュニティと自分の思想が同じだと感じられ、そのコミュニティに所属する感覚を得られるのです。

NFT売買による自己表現

イーサリアムの価値が上がるということは、日本円などの法定通貨に対してイーサリアムの価値が向上していることを意味します。逆に言えば、相対的に日本円の価値が下がっているとも言えます。クリプト富豪は、国家が発行した法定通貨の価値が下がっていく中でも、自らが信じるイーサリアムコミュニティの価値が上がることに誇りを持っています。特にCrypto Punksを所有しTwitterアイコンとしている人々を見ると明らかですが、イーサリアムやNFTコミュニティへの帰属を自らのアイデンティティの拠り所としています。

彼らからすれば、自らが信じるNFTを「投機」の言葉一つで切り捨ててNFTの真価を理解しようとしない人たちを、未来を見通せない人々として皮肉っている面があると言ってもいいかもしれません。

これ見よがしな高額売買は、ここまで見てきたようなクリプト初期投資家の自己表現の側面を持っています。国家を超えたコミュニティに属する俺には国家が発行した法定通貨なんかどーでもいいんだよね、と。それが俺なんだよね、と。

そこまで言わないにしても、イーサリアムやNFT、Web3.0の世界観を信じている自分を表現するためにNFT購入している人も多いのではないでしょうか。Crypto Punksは最古で希少性がありイーサリアムコミュニティの保有者が多いという、NFTとして記録された「コンテクスト」や「ストーリー」にお金を払っているのです。

これはまさにコンテクスト・エコノミーの最たる例といえます。

名誉のためのNFT

高額のNFT売買にちょっと似た話として、カナダの先住民が行う「ポトラッチ」と呼ばれる慣習があります。大きな祭礼式典であり、ある集団から他の集団へ、儀式的なしぐさとともに最大級の豪華な贈り物が贈られます。これにより、他の集団への優越を証明しています。ときには自分の所有物を破壊することもあるそうです。財物を手放すことができることをこれ見よがしに見せつけて優越を誇示します。マルセル・モース「贈与論」では、同様の慣習はギリシアやローマなどの地域にもあったと示されています。

クヮクヮカワク族のポトラッチ

これらの行為は、名誉、勝利、優越を目標としています。それはある種の共同社会における真剣な「遊び」なのです。

イーサリアムで高額のNFTを購入するのも優越や名誉を求める側面があるはずで、こうした遊びに似たところがありますよね。

見逃してはいけない大事なこと

というわけで、投機のほかにも、自己表現や名誉のためにNFT売買される側面があることを説明してみました。もちろん、自己表現自体が名誉や勝利を目的とすることもあると思いますが、まずはわかりやすく投機、自己表現、名誉という3つの目的に分けて見てみました。

名誉、勝利、優越は人間の根源的欲求であり、クリプト富豪たちは余剰資産であるETHを使ってこれを満たす遊びをしているようです。

これから、NFTの発展可能性はまだまだ広がっていきます。Crypto PunksはNFTの初期プロジェクトですが、人間の本質的欲求に根ざした興味深い取引がなされています。NFTは人間の感情や欲求を記録したり他者に示すためのメディアとして機能します。今後のNFTでは、さらに面白い利用方法が広がっていくのは間違いありません。現在のようにごく一部のクリプトコミュニティだけではなく、数千万人、数億人にNFTが広がる過程で、想像を超えるような使い方も出てくるでしょう。

NFTでもっとワクワクしたりドキドキするような、楽しい、嬉しい体験をつくれると信じています。


(本記事は「数億円のNFT売買を単に「投機」と捉えると、大事なことを見逃すかもしれない」の記事をnote用に編集して転載したものです。)

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