大澤昇平東京大学特任准教授のヘイトスピーチ(4)マネックスグループ「寄付講座担当特任准教授の不適切な書き込みに関する見解」について

※大澤昇平氏の差別については下記の連載で問題点を解説しています。
※この記事は昨日11月24日夜に書いたもので「本日」となっているのは24日です。

2019年11月20日に大澤昇平氏(東京大学特任准教授)がツイッターで自社では「中国人は採用しません」などのヘイトスピーチを流布した問題が大きな批判を浴び、関係各所から迅速な動きがでている。

今日午後に公開した前回記事で書いたが、本日11月24日付で、東大の情報学環長名で「学環・学府特任准教授の不適切な書き込みに関する見解」が公表された。

そしてその後、同じく24日付で、大澤氏が講師を務めていた東大の寄付講座に寄付をしていたマネックスグループが「寄付講座担当特任准教授の不適切な書き込みに関する見解」を公表し、寄付を停止する方針を公にした。

この声明は不十分な点もあるものの、(講義外であろうと)差別を行った講師が教える講座には寄付を取りやめるという決断を、迅速に下して公表したという点で評価できる。工夫すれば今後の同様の差別事件が起きた際の企業の行動を考える際のモデルケースにもなりうる。

今回この記事では、マネックスグループの声明の不十分さと評価できる点について書きたいと思う。

寄付講座担当特任准教授の不適切な書き込みに関する見解(マネックスグループ、2019年11月24日)

同社の声明はこちらで読める。引用する。

寄付講座担当特任准教授の不適切な書き込みに関する見解

 マネックスグループ株式会社(本社:東京都港区赤坂 1-12-32、代表執行役社長:松本大、以下「マネックスグループ」または「当社」)は、AI・ブロックチェーン人材の育成を目的として、東京大学大学院情報学環への寄付を決定し、『情報経済 AI ソリューション』寄付講座(以下「本講座」)の公開講座が開始される旨を2019 年 7 月 3 日に発表いたしました。本講座を通して、社会科学と工学の両方の知見を有したブロックチェーン開発人材を輩出するとともに、AI ソリューションの定量分析に関する研究を進めることで学術面での貢献のみならず、経済的な付加価値を創出することが可能になると考えたものです。

 この度、本講座の担当特任准教授(以下「本特任准教授」)が、SNS 等で特定個人及び特定の国やその国の人々に関する不適切な書き込み〔A〕を複数展開したことを受け、本講座に寄付をする当社グループに対する言及もいくつか行われております〔E〕。マネックスグループは、元来ダイバーシティを尊重する企業であり、また、持続可能な経営を進めて行くため、人権の尊重を事業活動における重要課題として認識し、人権の尊重の更なる実践に向けて「マネックスグループ人権方針」を制定しております〔B〕。本日、東京大学大学院情報学環・学際情報学府より「学環・学府特任准教授の不適切な書き込みに関する見解」が発表されましたが、当社としては、本特任准教授の価値観は到底受け入れられるものではなく、書き込みの内容及び現在の状況に関して、極めて遺憾であります〔C〕。

 以上のことから、今後、本特任准教授の本講座に対する寄付は速やかに停止する方針です〔D〕。

〔強調引用者〕

評価できる点①差別した個人・団体に寄付や投資をすることを止めるという重要かつ正しい判断を下した

この声明が評価できる一番よいところはEの結論だ。

今後、本特任准教授の本講座に対する寄付は速やかに停止する方針です。

これは素晴らしい。なぜそういえるのか。

第一にこれは、企業は、差別した個人や団体・組織に対しては、寄付や投資(あるいは商取引など営利活動)を行ってはならない、という人権を尊重する大変重要なビジネスの原則に即している。

第二に、この原則(差別する個人・団体に寄付や投資をしてはならない)を守るという判断をすぐに公表したことで、差別にカネを出してはいけないというメッセージを社会に向けて発信したといえる。

同社COOの清明裕子氏は声明をツイートで拡散したが、これはツイッターで差別には断固とした対応をとるというメッセージを送る効果がある。

評価できる点②企業独自の人権方針を制定・公表し、人権を尊重する姿勢を打ち出し、その延長線上に大澤氏のツイートを「到底受け入れられない」との判断を公表した

上の第一の評価点に比べれば劣るものの、第二に評価できる点として、マネックスグループは「マネックスグループ人権方針」を制定し(B)、その方針を有言実行する一環として大澤昇平氏の差別ツイートを「到底受け入れられない」と判断(C)し、寄付を取りやめていることがあげられる。

このように人権を擁護するルールを積極的に打ち出す(B)とともに、そのルールに基づいて大澤氏のツイートを判断する(C)こと。

これは基本だがとても大事だ。現に、前回記事で批判した東大の情報学環長の声明には、この判断がみられない。情報学環長声明はBに相当するものとして東大憲章を挙げているが、しかし肝心の大澤氏のツイートが東大憲章にどう違反するかとうい点について判断が下されていないのである(このように具体的な人権侵害事件について具体的に判断することを避けているから、東京大学憲章は他の日本の大学と同様に、大学自治が培う独自の正義=ルールにはならず、死文化した抽象理念にとどまってしまうだろう)。

ところでこの「マネックスグループ人権方針」は、

2. 方針の適用範囲
マネックスグループ各社の役職員、サプライヤー、取引先

と、その適用範囲を、自社グループだけでなく、ビジネスパートナーにまで広げている。

そして次のようなルールもある。

5. サプライヤー・取引先の皆様へ
マネックスグループは様々なサプライヤー・取引先に対しても、公正な倫理基準を求めます。また、サプライヤー・取引先において、人権侵害が疑われる事象を特定した場合は、マネックスグループとして、サプライヤー・取引先に対しても人権侵害の改善を適切に働きかけます

自社グループだけでなく、ビジネスパートナーに対しても人権侵害を許さず、改善を働き掛ける、というのである。

これは大事だといえる。なぜなら上で確認した原則、つまり企業は、差別した個人や団体・組織に対しては、寄付や投資(あるいは商取引など営利活動)を行ってはならないという原則を実施するうえで、人権擁護のルールはビジネスパートナーにまで広げられねばならないからだ。

人権侵害や差別に関しては「他所の企業なんで、ウチは関係ありません」を許さないことを、企業ルールとして公表し、有言実行を宣言するという姿勢は評価されてよいだろう。

不十分な点①大澤昇平氏の差別ツイートを明確に差別だと判断し、強く差別を批判すべきだった

だが、マネックスグループは上記の人権指針があるのにもかかわらず、奇妙なことに大澤昇平氏の差別ツイートを、「差別だ」と判断し批判するということがなかった。

SNS 等で特定個人及び特定の国やその国の人々に関する不適切な書き込み

という抽象的な表現に留まってしまった。これは上に引用した、

人権侵害が疑われる事象を特定した場合は、マネックスグループとして、サプライヤー・取引先に対しても人権侵害の改善を適切に働きかけます

という条項に照らせば不十分だろう。

今回の差別の場合、前回も書いたが、ツイートという動かぬ証拠があるため、「中国人は採用しません」などといった具体的な文言を引用し、それが中国人はじめマイノリティへの差別だということを明確に指摘して批判すべきだ。

だが、この件については東大の責任も大きい

お分かりの通り、「特定個人及び特定の国やその国の人々に関する不適切な書き込み」という表現は、もちろん東大の情報学環長声明をそのまま引き写しているからだ。

東大が率先して、大澤氏の差別ツイートについて、たとえば「「中国人は採用しません」などという、東大憲章や人種差別撤廃条約に反する、露骨な中国人差別発言をツイッターはじめSNSで複数回行った」などと表現していれば、マネックスグループもそれをそのまま引き写しただろうと思われる。

差別が起きた時、権威ある機関の最初の動きが、いかに重要かということを教えてくれる事例である。

不十分な点②東大には寄付停止だけでなく、マネックスグループ人権指針通り、差別事件についての調査や再発防止など対処を要求すべきだった

もちろん緊急声明であり寄付停止決断が一番重要ではあるものの、しかしマネックスグループ人権指針を貫くなら、すべきことがいくつかあった。

寄付とはいえ、マネックスグループの提供したカネで運営されていた講座の講師が差別を行ったのである。責任はある。

ゆえに東大に対して、たとえば大澤昇平氏の差別事件に関連して、調査や再発防止措置を求める、という一文があるべきだったろう。

まだ書くべきことがあるが、時間の関係上、以上とする。

教訓。SNSでみんなが差別に声を上げたから東大が動きつつあるし、特に利害関係者に働きかける戦術は大変有効だ

最後に雑感めいたことを。

大澤昇平氏が中国人差別をした11月20日から4日が経ち、東大情報学環と、寄付講座に寄付をしたマネックスグループが動きつつある。

経験から引き出せる教訓を2つ挙げることができる。

第一に、SNSで差別に声を上げることには意味がある、ということだ。

今回SNSで非常に多くの方が声を上げたことが、着実に事態を動かしつつある(もちろん東大は保守的なので状況は大変厳しいが)。

これは本当に素晴らしい事だと思う。

おかしいことには、「おかしい」と言う。差別には、「それ差別だ」と言う。

こういう小さな勇気が、積み重なると、事態を動かすこともあるのだ。

差別を見たら、SNSでどんどん声を上げよう

出来たらその際、下記ツイートのように、証拠を保全してツイートする(スクショをとる、ウェブで魚拓をとる)のをおススメする。形成が不利と見ると、差別した人はツイートやアカウントを削除して逃亡を図ることが多いからだ。

そして第二の教訓。それは、

差別した個人・団体が利害関係を有していて、差別を止めさせる力や責任を有している個人・団体に、差別情報を提供し対処を働きかけることは、大変有効だ

というものだ。

上のツイートをみてほしい。東大のコンプライアンス窓口に通報している(そして通報した、ということをリンク付きでツイートしているが、これも大変重要だ)。

今回おそらく東大に相当な抗議が殺到しているだろう。またSNSで「炎上」している。だからこそ日曜という休日にもかかわらず、東大情報学環長が声明をださないとマズい状況がはじめてつくられたのである。

もしSNSで誰も声を上げていなければ、保守的で官僚的な東大があわてて声明を出すこともなかっただろう(三浦瑠麗氏の差別のときには東大は何もしなかった)。

また、マネックスグループの声明も同じだ。声明のEの部分では、

本講座に寄付をする当社グループに対する言及もいくつか行われております

と書かれている。SNSで大澤氏が炎上し、マネックスグループが叩かれ始めていたことを察知し、リスク管理のために動いたのである。

企業の行動原理は利潤追求である。マネックスグループが動いたのは決して人権指針をもっていたからではない。企業が人権侵害や差別に対処するのは、①商売にとってプラスになる場合か、あるいは②商売にとってのマイナスを防ぐ必要に迫られる場合以外にあり得ない。

そして歴史的にも、人権運動や反差別運動は、この企業の行動原理を知った上で戦術をくみたててきた。たとえば南アフリカのアパルトヘイト廃止運動では、アパルトヘイトに加担して利益を上げる大企業を動かすために商品ボイコットが国際的に展開され、それが非常に大きな成果をあげたことが知られている。

諸外国ではこのような反差別運動の蓄積があるのに対し、日本の場合まだまだだ。

今回の東大の大澤昇平氏の差別や、一橋大学マンキューソ准教授の差別など、直接抗議してもなかなか大学が動きそうにない場合、このように周りの有力な利害関係者に情報提供と対処をはたらきかける手法は、どんどん追求し、練り上げていく必要があるだろう。

追記

じつは一橋大学で「バカチョン」とか「グーク」という差別語を使う等幾度も差別とハラスメントを繰り返しているマンキューソ准教授の差別事件についても、実は上の観点もあって、マンキューソ准教授がなんと短期企業研修担当者になっているプログラムの受け入れ先企業、スペイン企業のベルヘ社に対し下記の署名をはじめている。マンキューソ氏あるいは彼を支持する学生・卒業生らの妨害もあってSNSが使えなかった時期があり署名を拡散できなかったのだが、ぜひ協力してほしい。


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