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【ウミネコ文庫挿絵】大切なさがしもの:創作秘話

すべての始まりは、ウミネコ文庫さんによる創作童話募集のお話からでした。


ジェーンさんのお誘いをうけて小波に乗った私は、オフショアを狙ってホシガラスさんを波乗りにお誘いしました。童話サーファーのホシガラスさんは、見事なライディングで予想どおり素晴らしいエアリアルを決めてくださいました。


ホシガラスさんは、いつも素敵な童話を記事で紹介してくださいます。
子供の頃に読んだ懐かしい童話や、初めて出会う童話など、どれも日常のもろもろの些事で擦れきっていく私の心を暖かく包んでくれる物語ばかりです。ホシガラスさんの解説もとても分かりやすく、心がほっこりと和みます。

そんなホシガラスさんが今回書かれた童話が、『大切なさがしもの』。

主人公のララさんが、ある朝突然いなくなった花の妖精ギムとポムを探しに行く物語です。いろいろな人物(正確には動物ですが)たちに二人の行方を尋ねながら、とうとう海までたどり着いてしまいます。


物語の素晴らしさもさりながら、ホシガラスさんが素晴らしかったのは、この物語の登場人物たちのモデルを紹介されたことです。


物語を飾ったこの素敵な登場人物たちの記事は、このお話を読んだ多くの方の心を掴んだことと思います。もちろん、私もその一人でした。
とりわけ、あるキャラクターに心を鷲掴みにされ、後日スケッチまで投稿してしまった程です。

すると、このスケッチを見たホシガラスさんからなんと挿絵の依頼をいただきました。私にとってこれほど嬉しいことはありませんでしたが、重大な問題が二つありました。


一つ目は、私の心を鷲掴みにしたその「問題」の人物が、主人公のララさんの存在を越えてしまったことでした。


そして、その人物というのがこちら…



< ぶたぬきですが、何か? >


圧倒的な存在感を放つぶたぬきさんに、私の心は文字どおりぶち抜かれてしまったのでした。(注:主人公はララさんです。)


そして、二つ目は、ホシガラスさんの記事のトップ画像にあったララさんの素敵な水彩画でした。ララさんの特徴を見事に捉えた、やさしく温かい絵を見たとき、私はこの水彩画こそ挿絵にふさわしい絵だと確信しました。

残念ながら、私にはこのような絵はとても描くことができません。
そこで、私はホシガラスさんからの依頼をやむなくお断りすることにしたのです。どうやっても私には描けそうにありませんし、きっとこの作品にふさわしい絵を描かれる方が他にいらっしゃるに違いないと思ったからです。

私は、どなたが挿絵を描かれるのだろうと心待ちにする一方で、ぶたぬきさんをはじめとする登場人物たちのことが頭から離れませんでした。


そうして、三週間ほど時が過ぎました。
挿絵担当の情報が毎日更新される中、半数以上の作品の担当者がまだ決定しておらず、その中にはホシガラスさんの作品もありました。とはいえ、たとえ未掲載であっても候補者がいれば、すぐにでも決定してしまうかもしれません。


私はその日、もう一度物語を読んでみました。
チョットさんやマダム・フランソワ、健一くんやイヴちゃんなど、ホシガラスさんのキャラクターたちはどれも魅力がいっぱいです。何度も読み返すうちに、だんだん登場人物たちから見つめられているような気持ちになりました。


そして私はついに、ホシガラスさんへ「やはり挿絵を描かせていただけませんか」とお願いすることにしたのです。

挿絵の担当者は既に決まっているかもしれませんし、相変わらず私にはあの水彩画のララさんのような絵は描けません。しかし、私の画風についてはホシガラスさんは既にご存知です。あとは、運を天に任せよう、そんな気持ちでホシガラスさんからの回答を待つことにしました。


すると、ほどなくホシガラスさんから、「(挿絵の担当の方は)まだ決まっていないので、お願いできるのであれば嬉しいです」と、なんとも嬉しいお返事をいただいたのです。しかも、挿絵の場面や登場人物について「すべてお任せします」との全幅の信頼までいただいて。


とはいえ、喜んでばかりもいられません。
ここからが正念場です。

どの場面をどんなイメージで描くかというアイディアについては、その時点ですでに頭の中にできていました。

登場人物たちは、言わずもがなモデルとなった動物たちをそのままスケッチすることにしました。どのキャラクターも魅力的なので、全員登場できるように、川の流れに沿ってララさんがみんなに妖精のことを尋ね歩いている場面を描こうと決めていました。

画風は、ピーター・ラビットの作者であるビアトリクス・ポターや、くまのプーさんの作者A・A・ミルンの絵をイメージし、図書館から何冊か本を借りてくることにしました。

私がその話をすると、ホシガラスさんが参考になりそうな絵本作家を何人か教えてくださったので、私はそれらの絵も参考にしてみようと思いました。

もう一つ、挿絵を描くにあたって考えていたのは、背景に植物を配したいということでした。二つ目の場面は、裏庭に咲いたコスモスの花を描く予定でしたので、合わせて植物図鑑も数冊借りてきました。

実は、ホシガラスさんは庭いじりをよくされていて、いつかターシャの庭のようなお庭がほしいと記事に書かれていたことがあります。私は、背景に植物を描いてターシャの庭のような雰囲気を出そうと考えました。

ところが、ここでいくつか問題が発生してしまったのです。


【問題その1】 秋の植物

一枚目、ララさんがギムとポムを探しに行く場面。それぞれの登場人物をひととおり描いたあとで、どこに草花を配置するかを考えました。裏庭にコスモスの花が咲いているということは、この物語の季節は秋です。私はそれぞれのキャラクターのイメージに合う植物を近くに描こうと考え、どの花をどの登場人物と組み合わせようかとさっそく植物図鑑を開いてみたのですが…


秋の花は、案外少ない…


春の花は種類が多く、夏の花にも元気が出そうな花がたくさんあります。それに対して秋の草花は地味で、種類もあまり多くありません。これにはすっかり参ってしまいました。


【問題その2】 デッサンの力

今回の挿絵は、モノクロです。
ということは、花の種類を色で表現することはできません。花びらの形や茎の曲がり方、葉っぱの葉脈を含め、植物を表現するには正確なデッサン力が必要だということに、私は描き始めてすぐに気づきました。

参考資料として借りてきたビアトリクス・ポターについて書かれた本を何気なくめくっていると、いつしかポター女史の生涯に引き込まれていきました。そして、ピーター・ラビットのお話は、物語だけが魅力的なのではなく、ポターの類稀な観察力と集中力によって長年にわたって培われたデッサン力にあるのだとわかりました。

わずか9歳の時に描いたという植物のスケッチは、普通の大人が描こうとしてもなかなか描けないほど素晴らしいものでした。

自分の子供時代といえば、小学校の図画の時間に学校の中庭に咲いていたパンジーやチューリップなどのスケッチをしたような気がします。家に帰ってからも時々はカラスウリやツクシなどの絵を描いていたような記憶もありますが、とてもこんなに精緻なスケッチではありませんでした。

結局、マダム・フランソワさんの横に秋の薔薇を描いただけで、あとはなんだかよくわからない植物たちを描いてしまいました。というのも、桔梗やススキ、ダリアといった草花を一面に描いてしまうと、画面全体が騒々しくなることが予想されたからです。

こうして、私は一枚目の挿絵をなんとか描きあげたのでした。



< ララさん、ギムとポムを探しに行く >


【問題その3】 コスモス

実は、少し前にdekoさんが書かれたこんなお話を拝読しました。


どうやらデッサン力を鍛えるには、コスモスの花は基本のようです。手近にコスモスの花が見当たりませんでしたので、ネットで検索したいくつかの画像をもとにコスモスのデッサンを練習しました。ところが、コスモスのやわらかい花びらをモノクロで表現するのはなかなか至難の技。手元にある色鉛筆は、ライトグレーと普通のグレー、そして黒の3色。筆圧を変えながらグラデーションをつけ、花びらに立体感を出そうと懸命にスケッチしました。

ところが…。

あまりにも気合を入れすぎて、この場面の中心であるはずのララさんがコスモスの花に埋もれてしまったのです。


< 頑張りすぎたコスモスたち…(挿絵の一部) >


そこで、これはあくまで挿絵であること、デッサン力が必要なのは私自身であり、挿絵そのものには必ずしも細かい描写は必要がないという考えに立って、コスモスの花をもう少しシンプルに描く方法に変更しました。


【問題その4】 妖精

この物語に登場する花の妖精のギムとポムは、花が好きな人にしか見えません。ギムは黄色でポムは青色です。しかし、挿絵はあくまでモノクロです。二人の妖精をどう描けばいいのか。私の最大の悩みはここでした。いろいろ考えた挙げ句、妖精の形は読者の想像に任せることにし、ぼんやりとした色違いの二つの丸い円でギムとポムを表現することにしました。

こうしてできた挿絵を一旦ホシガラスさんへ確認していただきました。

すると、ギムとポムが妖精であることがわかるようにもう少し輪郭を描いていただければ、という要望をいただきました。そして、てるてる坊主や三角帽子のノーム、星の子チョビンのような簡単なフォルムを、という具体的なイメージをくださいました。妖精といえばティンカーベルくらいしか思いつかなかった私は、ノームの存在に驚きました。そういえばそんな妖精もいたな、と。

ところが、ノームは地上の妖精なので羽がありません。私はララさんがギムとポムを見上げる場面を既に描きあげてしまっていたので、次にララさんの視線をどうするのかという問題に直面しました。

そうしてもう一度物語を読み直すと、ララさんは川をどんどん下って海までたどり着くと書いてあります。ということは、いかに妖精といえども地上を歩く妖精ではなく、きっと羽のある方がよいだろうという考えに至りました。

そこで、てるてる坊主のようなラフスケッチと、ネットで見つけた妖精のシルエットをホシガラスさんに送って、どちらのイメージがよいか確認をしていただきました。


こうして、ようやく二枚目の挿絵が完成しました。


< コスモスたち、大丈夫でしょうか? >



今回は、豆島圭さんとホシガラスさんの作品の挿絵を描くという幸運に恵まれたうえ、挿絵を描くにあたり、非常に多くのことを学ぶことができました。


ウミネコ文庫さんと作者であるお二人に、改めて感謝いたします。


Ryé

* * *

※トップ画像はビアトリクス・ポターのピーター・ラビットのお話の模写ですが、かつての学生時代の友人はこの挿絵を見て、「ピーターがカツアゲをされている場面」だと言っておりました。
『ピーター・ラビットのお話』は可愛らしいウサギの物語ですが、畑を荒らすウサギは時に人間にとって害獣になることも。物事というのは、見方によって如何様いかようにも見えるものだと学んだのもこの作品でした…

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