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リクルートホールディングスを退職し、編集者になります

本日2016年12月28日をもちまして、新卒でお世話になったリクルートを卒業します。(1年経たずして辞めることは心苦しい部分もありながら、会社の上司の皆さんをはじめ理解してくれ、あたたかく送り出してくれました)

退職エントリーを書くつもりは毛頭なかったのですが、お世話になった皆さんへの謝辞、得たものの棚卸、今後の展望を言語化しておくことはきっと重要なのだろうと思い立ったので筆をとります。

自らケチャップを出し、ケチャップによって自らを変えよ

僕はもともと学生時代から(かなり精力的に?)執筆や編集といった仕事に従事してきました。(ざっくりではありますが、これまでの制作実績をまとめています)

意図せずイケハヤさんが、「イケダハヤトが木陰からこっそり注目している、90年以降に生まれたライター・編集者たち」という記事で、自分を取り上げてくださり、

今は外部ライター、編集者としての関わりが多いように見えますが、そのうち自分のメディアも立ち上げそう。光ってますね〜。

とおっしゃってくれていたのですが、そのときはすでにリクルートで働きながら副業を続けており、独立することまでは全く考えていませんでした。
とはいえ、副業が認められていることはリクルートにそもそも入社を決めた大きな理由の一つです。

世の中の動向としては副業奨励の機運が高まっており、それ自体は強く賛同します。とはいえ、本業の傍ら副業も100%の力でこなすためにはある程度プライベートを犠牲にする局面も正直少なくないですし、自分のリソースの全てを注いでもいっぱいいっぱいになってしまうことがありました。そんな中、僕が実際に本業と副業を並行実践していて思ったことはコレです。

周りに認めてもらいながら、感情論抜きで、副業を気持ち良くやりたいならば、有無を言わさず本業で成果を出しきる必要がある。当たり前のことだけど、順序が逆になってはいけない。

常にこの考えを頭の片隅に置きながら仕事を続けていたわけですが、自分のリソースが100%を超えたとき、一つの問いに解答を出すことを求められます。
すなわち「本業と副業、どちらにより自分の情熱を注げるのか?」、「どちらを本業に自分は生きていきたいのか?」ということです。

堀江さんが、「すきやばし次郎で何年も修行をするのはバカ」と言ったことが物議を醸しましたが、僕個人の意見も「いきなり寿司握る」派です。その意味で、新人だろうが関係なく大きな裁量を委ね、個人の成長を最大限引き出してくれるリクルートという環境は魅力的でした。

ただし、上記のように選択肢を迫られる局面が訪れます。そのときに上司がかけてくれた言葉が「レア度で選ぶと良いよ」ということでした。

リクルートではたくさんの優秀な同期、先輩方がいらっしゃいます。そこで頭一個分抜け出すよりも、自分が得意である編集業の方で独立する方がレア度("市場の中での優位性"と捉え直しました)は高いのではないかと感じたのです。同年代で優秀な編集者の名前を何人か挙げることはできますが、あくまでも「何人か」です。これはリスクではなく、チャンスなのだろうと思い直しました。

サッカー日本代表の本田圭佑選手は「ゴールはケチャップみたいなもの。出ないときは出ないけど、出るときはドバドバ出る」という名言を残しました。おそらく、というか需給という観点からも間違いなく、若い世代のライターや編集者は今後増えるでしょう。今このタイミングで飛び込んでおくことが、5〜10年後の自分の立ち位置を決めるのではないかと直感しました。

たしかにリクルートには豊富なヒト・モノ・カネのアセットが揃っています。コトを為すには最高の環境です。

自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ

という創業者・江副浩正さんの有名な社訓があり、僕も大好きな言葉ですが、あえて自分はリクルートのアセットを前提条件から外した上で、この言葉を受け止めてみることにしたのです。生意気にいえば、自分の人生は自分でマネジメントするということです。

「LIFE SHIFT」するから「ALLIANCE」になる

独立を決めたことは当然、自分の内的動機による部分も大きいですが、2016年現在の外部環境を冷静に考えたときに合理的な選択だろうとも考えています。

リンダ・グラットン『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』に詳しいですが、テクノロジーの進展による破壊的イノベーションが起き、ビジネスモデルが陳腐化するスピードが加速度的に増しています。もっとも重要な論点は、企業寿命よりも個人の労働寿命の方が長くなるという逆転現象が起こりつつあるということです。

こうした社会情勢を鑑みると、今後はますますプロジェクトベースで、都度チームを組みながら、仕事を進めていくワークスタイルが一般化していきそうです。僕がイメージするのも複数のコミュニティやチームを股にかけながら、ポートフォリオを組み上げて、仕事を進めていくということです。

LinkedIn創業者 リード・ホフマンの『ALLIANCE―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』では今後の労働者と会社の関係を「アライアンス」という概念で提示しています。

会社を辞めても、個人と会社がつながり続ける
会社は労働者が会社が辞めても成長できるような労働条件を提示し、
労働者は会社が持続的に成長できるように労働力をコミットする

アライアンス的な働き方をしている人で僕の頭に真っ先に浮かんだのが、SENSORSでもお世話になっている編集長の西村真里子さんです。(「ミーハー心で行動し、熱量をもった個人とつながること」分野を越境するプロデューサー・西村真里子の仕事術
フリーランスとして生きていく上でも、一番の見本となるような愛に溢れた方です。

リクルートを辞める際にも上司の方や先輩の方は、「辞めた後も一緒に仕事しよう」と声をかけてくれました。涙が出るくらい嬉しかったです。今後は会社員ではなくなりますが、アライアンスの一員として貢献できたら良いなと思っています。

すべてのメディアはコミュニティを志向し、編集者はビジネス創造を求められる

以前、コルクの佐渡島さんにインタビューさせていただいた際、「今の時代、会社員でいることはリスクである」とおっしゃっていました。この言葉には当然前後の文脈があるわけですが、僕なりの解釈では、ある組織に構成員として属しているのと、個人で活動するのとではレピュテーション(評価・信頼)の蓄積度合・スピードに相対的な差が出てくるということです。

とりわけSNSを中心としたウェブベースでの情報摂取、コミュニケーションが大勢を占めてくると、個人の評価・信頼は明示的に蓄積されていきます。こうした信頼残高の可視化は「評価経済」としても知られていますよね。(本日公開させていただいた佐渡島さんへの別インタビュー「コルクラボ始動、佐渡島庸平が「コミュニティプロデューサー」を育成するワケ」では、来年以降絶対的に重要となる「コミュニティ」について語ってくださっています)

とりわけ僕がやっている仕事は個人名と紐づくことも多いので、まさに評価経済の中で実績を積み上げて、飯を食っていかなくてはなりません。この意味で、本業を100%副業と入れ替える決断をしたわけでもあります。

ただし、これは何もライターやデザイナーのような分かりやすく個が立つ職業に関わらず、当てはまることではないでしょうか。戦略的にフリーランスで仕事をしていくためには、プロノバ代表・岡島悦子さんが著書の中で解説されていている「人脈スパイラル・モデル」という5つのステップがプロジェクトベースの仕事を生業にする方にとても参考になると思いました。

①自分にタグをつける(自分が何屋なのか訴求ポイントをはっきりさせる)
②コンテンツを作る(「お、こいつは」と思わせる実績事例を作る)
③仲間を広げる(コンテンツを試しあい、お互いに切磋琢磨して、次のステップを共創する)
④自分情報を流通させる(何かの時に自分のことを思い出してもらえるよう、種を蒔く)
⑤チャンスを積極的に取りに行く(実力以上のことに挑戦し、人脈レイヤーを上げる)

そして、意図せず生じたDeNAの「Welq」を発端とする一連のキュレーションメディア騒動は取材ベースで一次情報記事しか携わって来なかった自分にとっても追い風だと思っています。(本来、「コンテンツが無料なわけなかろうが!」と強い気持ちを持っていたクチなので...)

今後のWebメディア業界の展望についての個人的な所感をここで述べておくと、すべてのメディアは来年以降より一層コミュニティ志向になっていくと思います。LINEの田端信太郎さんは『MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体』の中で、

現状のネットビジネスにおいても検索エンジン、スマートフォン、ソーシャルメディアという3点セットの浸透と普及は、全てのメディアを断片的なものに刻み込み、コンテンツは、その作り手側が想定した文脈などは無視して、好き勝手に、ユーザーから「つまみ食い」されるものへと変化していくことを要求してきます。

と4年前の時点で指摘されていますが、この傾向はますます顕著となり、乱立するWebメディアもそのブランディングに苦戦しています。

PVやUUをKPIにすることから本質的な意味が消失した今、すべてのメディアはコミュニティとなることを志向し、そこを起点にビジネスを創造することが求められていきます。その中で、ビジネススキームまでセットで編集できる"編集者"が次の時代の編集者なのだろうと思います。この意味で、短いながらもキャリアの中でリクルートに入れたことは経験値として小さくないのではないかと考えています。

AI時代のインプットに不可欠な「人・場所・時間」

マクロ的な社会情勢の変化(とりわけテクノロジーの進化による:高宮慎一さんのNPへの寄稿記事は必読です)により、労働環境が終身雇用を前提にしたものではなく、プロジェクトベースになっていくのではないかということについて述べました。

キングコング西野さんはAIによる自動化で再現性の高い労働が機械に代替される状況を、本質的かつ面白く描写していました。

ここからは人間にストレスがかかる仕事から順にロボットに代替えされていく。となると、人間に残されるのは、『とても仕事と呼べないような、好きなこと』で、それを仕事化していくしか道は残されていません。つまり、『好きなことをして食っていけるほど、世の中は甘くない』という考えは今の時代に照らし合わせた時に論理的に破綻していて、ここからは『好きなことでしか食って行けなくなる』という、そういう時代が来るという話です。
西野亮廣が考える、これからの働き方【インタビュー前編】

具体的な仕事のやり方を考えても、コミュニケーションはFacebookのメッセンジャーで事足りるし(プロジェクトやチームの場合はSlackで)、ミーティングをする際はSkypeやGoogle Hangoutsで良い。極論、職業によってはiPhoneというツール一つで仕事が完結してしまう人も少なくないのではないでしょうか。
はたまた自分の携わっているプロジェクトや成果についてもFacebookやTwitterで広報することができ、さながら"信頼のクラウドファンディング"のようです。

このように仕事を遂行するためのツールの利便性が増していく中で、重要になるのはハードではなくソフトの部分。大前研一さんの有名な言葉に人が変わるための三つの方法があります。

1番目は時間配分を変える。
2番目は住む場所を変える。
3番目はつきあう人を変える。

この3つの要素でしか人間は変わらない。
最も無意味なのは『決意を新たにする』ことだ。

時間・場所・人、この三要素は今後の仕事を決定づける最重要項目と言えるのではないでしょうか。とりわけリチャード・フロリダがかねてから提唱している「クリエイティブ・クラス」に近い働き方をしている人にとっては尚更のこと。

ちょうど同時期に独立される、元バーグハンバーグバーグの柿次郎さんは退職エントリーの中でライフネット・出口さんのこの言葉を引用されていました。(『日経ビジネス アソシエ』)

脳に刺激を与えるには「飯、風呂、寝る」という生活から、「人、本、旅」という暮らしに移行する必要があります。つまり、たくさんの人に会い、本を読んで、いろいろなところに行って刺激を受ける。そうしなければ生産性は上がりません。これが働き方改革の基本です。

「人、本、旅」ひとくくりでいうと「インプット」ということに他ならないのですが、あえて限定した言い方をすると自分の体験に直結する非構造化データをため込んでいく必要があると思うのです。

こうしたインプットの重要構成要素を固定化させることは、今の時代状況に照らした場合リスクとも言えるかもしれません。

目指せ「馬主」スタートアップという生き方

「誰の近くにいるか」、「誰と一緒にやるのか」という"with who"は仕事を進める上で、個人のモチベーションに多大な影響を与えるものだと思います。僕は仕事柄、スタートアップ周りの人と絡むことが多いのですが、このエコシステムに住む人たちが共通して未来に対していつも楽観的で、いつもなんらかのイシューに対して解決策を見つけようとポジティブな姿勢なのに勇気付けられます。

Globis Capital Partnersの高宮慎一さんもその一人ですが、高宮さんは連載『起業の戦略論』の中で、スタートアップにとって欠かせないビジョンはかくあるべきだと大きく三要素を列挙しています。

1. 成し遂げたいこと:何を目指すのか
2. 目標:成し遂げるためにはどのような定量的な指標を達成することが必要なのか
3. 美学:どのような価値観、スタイルで目指すのか

これはまさしく一人の人間の生き方にも通じる点ではないでしょうか。キャリア論ではよく、「山登り型」か「川下り型」という分類を耳にします。典型的な前者で、馬主志望の僕には上記の三要素からなるフレームがピタッとハマりました。自らも一つのスタートアップとして捉え、ビジョンの実現にまい進していきたいです。

編集・ライティングという仕事は、ともすれば究極の労働集約となりがちです。天井の設定は自分の単価(受注額)を上に上げていくか、何らかの仕組みを築くかの二択でしょう。今は両方のアプローチを模索したいと考えていますが、またこの話は別の機会で書こうと思います。

と、ここまでとりとめもない殴り書きになってしまいましたが、長文をお読みいただきありがとうございました。
来月以降というか、明日からですね。フリーランスの編集者として一から仕切り直して、頑張っていきます。

あらためてリクルートでお世話になった方々には感謝します。
今後ともよろしくお願いします。

フリーの諸先輩方、仲良くしていただいている皆々様、来年度より一層楽しい仕事が一緒にできることが楽しみで仕方ありません。

生存報告などは各種SNSなどで行っていければと思います。

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