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「和賀英良」獄中からの手紙(11)  食堂車での出会い

―田島藍子の書いた手紙―

拝啓

突然のお便りを失礼いたします。

私は以前に国鉄の食堂車に勤務しておりました都内在住の田島藍子と申します。秋田から東京に向かう特急列車内で先生に偶然にお会いして、サインをいただいてからずっと和賀先生のファンです。

先生の雑誌記事や演奏会など以前から拝見しております。草月ホールでの現代音楽の夕べなどには、勝手ながら花などを送らせていただいておりました。公演後にはロビーでお声をかけていただいたこともございますが、たぶん覚えてはいらっしゃらないでしょう。いまとなりましては懐かしい思い出でございます。

先生もご存じかもしれませんが、あの事件後にその内容が盛り込まれた映画が製作され日本中の映画ファンが賞賛いたしました。私も当然のように何度も映画館に足を運びましたが、毎回見るたびに号泣いたします。何度も我慢しようとしましたが、親子が歩いている場面を見ただけでもう耐えきれず泣いてしまいます。

先生がピアノを演奏されないことも承知しておりますが、後半の親子での放浪の場面とオーケストラ音楽が交わった描写にどうしても涙を禁じ得ないのです。それはこの映画を見た方はほとんどかと思います。

私は主婦でありながら雑文を書いたり、詩や小説のようなものも創っておりますが、その映画の場面を強くイメージしながら少しばかりの文章をしたためました。先生は拘留中でこの映画をご覧になることは難しいかと存じますので、なにか映像に代わるものとしてお伝えできれば幸いです。

稚拙なものですが拘留生活に多少でも慰めとなることを念じまして、勝手ながらお納めいただければ嬉しいです。

刑務所での生活の厳しさは私には想像ができませんが、ご健勝でいらっしゃることを祈りつつこのお手紙をしたためております。またほんのお気持ちとして座布団を差し入れさせていただきました。寒さ厳しい折にご活用いただけましたら幸いでございます。

引き続きどうかご自愛くださいませ。
                           
                               敬具 

                            田島藍子

  和賀英良様


列車内でサインをもらう田島藍子/© 1974 松竹株式会社/橋本プロダクション

第12話:https://note.com/ryohei_imanishi/n/n65a335b43e8e

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