「完全オンライン・完全自己完結」による「一人会社」設立登記ガイド

この記事はこんな人にオススメです。

  • 自分一人の株式会社(いわゆる一人会社、一人法人、一人社長)の設立を考えている方

  • (筆者のように最寄り駅まで車で30分、いわんや登記所まで2時間かかるような)世界のさいはてにお住まい、あるいは単に家から出たくないので、完全オンラインによる、さらには、自力本願、興味本位、あるいは(筆者のように)単に暇なので、完全自己完結による設立登記を目指している方

反対に、こんな人にはオススメできません。

  • アナログ派の方(とりあえず登記所に行って必要書類をもらいましょう)

  • ご自身の世界の物をつくる仕事に専念されたい方や、独りで調べたり試行錯誤したりする大いに学ぶ能力の欠落されている方(各種代行サービスを利用しましょう)


はじめに

一人会社を設立登記するにあたって、その申請を完全オンラインで行うことは、国からも公式に推奨されています

↑に書かれてる手順に従っていけば、たとえ(普段は山で木を伐ったり重機に乗ったりしている)素人であっても、自分一人でオンライン申請をすることはそれほど難しくありません。
ただ、専門用語が分かりにくかったり説明が抜けていたりもするので、今回は、↑サイトを「公式マニュアル」と称し、これの参考書のようなものだと思って読んで頂ければ幸いです(他の解説サイトも適宜ふんだんに引用します)。

※あくまで筆者の実体験に基づく情報であり、当記事の内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねます。予めご了承ください。また、誤情報や質問等あればお気軽にコメントください。

準備するもの

  • パソコン(Windows推奨)

  • マイナンバーカード(※電子証明書取得済み)

  • ICカードリーダライタ(※マイナンバーカード対応)

完全オンラインということは、つまり、すべて「紙の書類」ではなく「電子文書」で手続きをするということですが、紙の書類には印鑑を使って自分の署名をするかわりに、電子文書には電子署名というものをする必要があります。
そのためには、電子証明書という「デジタル版の印鑑証明書」のようなものをつかいます。
電子証明書は、マイナンバーカードを持っていればおそらくデータとしてカードに紐付けされているはずです。それをPC上で読み込んで電子署名をすることになります。(未取得の方や失効された方は、管轄の役場に出向いて手続きせねばならず、いきなり外出案件が発生します。ご容赦ください。)

そして、マイナンバーカードをPCに繋ぐためのカードリーダーが必要となります。これは、Amazon等で数千円で購入可能です。

公的個人認証サービスポータルサイトのSTEP1~4を参照して、電子署名の準備をしましょう。
(ここではカードリーダーのかわりにandroidスマホを使用する方法が紹介されていますが、今回使用するソフトでの電子署名にはどうしてもカードリーダーでないと無理でした。)

さらにソフト面の準備として、法務省の登記・供託オンライン申請システムに登録し、専用ソフトをダウンロードしなければなりません。
↑リンク先で、「申請者情報登録」をして、「申請用総合ソフト」をPCにダウンロードしましょう。
(「公式マニュアル」>「1 はじめに」も参照)

1.電子定款の作成

まずは、「会社の憲法」ともいわれる定款を準備します。「公式マニュアル」には、定款作成に関する情報がごっそり抜けているので注意です。
定款は、自分で文書をつくった後、その内容の適法性を公的機関に認めてもらい「公文書」にグレードアップ(?)してもらう必要があります。その認証をしてくれるのが「公証役場」にいる「公証人」と呼ばれる方々です。

日本公証人連合会の公式サイトの定款認証のページとそれをオンラインでするための電子公証のページに詳しい(難しい)説明があるので、適宜そちらも参照ください。

①ドラフトの作成

定款には、社名(商号)、本店所在地、事業目的、役員や株式に関するルールを記載します。
一人会社用の定款のテンプレートが上記公式サイトのコチラから入手可能ですので、まずドラフト(草稿)をWord等でつくってみましょう。

②公証役場と事前打ち合わせ

ドラフトができたところでいきなり認証の申請をすることはできません。
まず管轄の公証役場がどこか調べて電話かメールで連絡をとり、つくったドラフトをチェックしてもらう必要があります。

③PDFに電子署名をする

ドラフトにOKが出たら、PDF化したものに電子署名します(鬼門)。

「Adobe Acrobat」をつかった方法は、コチラのサイトで非常にわかりやすく解説されていますので参照してください。
※↑サイト「前置き」の②「署名付きPDFフォルダ」の作成では、電子定款の認証を受けることができません。必ずPDFファイル上で直接電子署名をして、①の「署名付きPDFファイル」を作成する必要があります。
※Adobe Acrobatは、無償の「Reader」ではなく、必ず有償(または体験版)の「Standard」か「Pro」で、なお且つ、「32Bit」版でなければなりません。今お持ちのソフトがそうでない場合は一度アンストしてから、ダウンロードページの左下「手順3」から(64Bit)ではない方を選択して「Acrobat Pro 体験版」をダウンロードしてください。
※↑サイト「(4/5)「Adobe Acrobat DC」設定」において、「環境設定内容が正常に保存できませんでした。Code=0x11000012」というエラーメッセージが出ることがあります。その時は、「編集」>「環境設定」>「セキュリティ(拡張)」から「起動時に保護モードを有効にする」をオフにします。

実は、コチラのサイトでダウンロードできる「JPKI PDF SIGNER」というソフト(無償)を使えば、あっという間に電子署名をすることが可能です(!)

④申請用総合ソフトでデータを送信する

公証人と認証の日時について打ち合わせます。
認証は、公証役場に出向いて対面で受けることも、自宅に居ながらテレビ電話で受けることもできます。ものの5分くらいで済む事務的な手続きに過ぎない(筆者談)ので、テレビ電話による認証をオススメします。

認証の日時が決まったら、「申請用総合ソフト」で電子署名済みの定款を送信します。やり方はコチラの手順(7)~(15)を参照ください。

また、公証人から指示があるかと思いますが、「実質的支配者となるべき者の申告書」という書類を同時に提出する必要があります(前述の定款認証のページからダウンロード可)。こちらは申請用総合ソフトでは送れないので、メールにて公証人に送付します。

さらに、認証日時までに指定の手数料を指定の口座に振り込みます。

⑤テレビ電話で認証を受ける

認証の日時になったら向こうからの指示通りにテレビ電話(というかビデオ通話)で手続きを済ませます。
すると、「申請用総合ソフト」を介してデータが「公文書フォルダ」として送られてきます。

それをダウンロードすれば電子定款の準備は完了です。

(ちなみに、定款認証と設立登記をオンラインで同時申請できる「スーパー・ファストトラック・オプション」という制度もあるそうです。設立を急ぐ人には有利ですが、公証人の都合に左右されて設立日を自由に決めづらいという難点もあります。興味のある人はご自分で調べてみてください。)

2.会社印の準備(任意)

今回の申請では紙の書類に捺印することは一切ありませんが、今後、銀行口座を開設したり紙の契約書や領収書を発行する際には、会社印が必要になってくると思います。
ネット通販サイトを使えば、ピンキリですがだいたい¥4,000~で、代表社印、銀行印、角印の3本セットが購入できます。

印鑑が手元に届いたら、設立登記と同時に代表者印を印鑑登録しておきます。
コチラから「印鑑届書」を印刷して必要事項を記入・押印の後、スキャンしてPDF化します(必ず100%倍率で印刷・スキャン)。
(「公式マニュアル」>「5 申請データの送信」の四角枠内も参照)

3.商業登記電子証明書の申請準備(任意)

今回はマイナンバーカードに記録された個人の電子証明書を使いますが、今後会社の各種公的手続きをオンラインでするとき(e-Tax等)に利用可能な法人の電子証明書についても、設立登記と同時にその発行を申請することができます。

必要な人は、コチラに詳しい説明があるので、この手順に従って「証明書発行申請ファイル」と「鍵ペアファイル」を準備しましょう。

4.資本金の払込み

定款に記載した資本金を自分の個人口座に預け入れます(法人口座は設立登記後にしかつくれません)。
すでに口座にその金額がある場合でも、「資本金として用意したお金」を証明する必要があるので、相当額を一度引き出してから再度預け入れます(複数の口座を所有している場合は口座間の送金でも可)。

5.各必要書類の作成

ここまでで「定款」と「印鑑届書(任意)」「証明書発行申請ファイル(任意)」はできているはずですが、その他にも以下の書類を作成する必要があります。

  • 発起人の同意書(必要があれば)

  • 設立時取締役選任及び本店所在地決議書

  • 就任承諾書

  • 払込みを証する書面(↑通帳の「表紙、一頁目、当該頁」のスキャンデータを添付)

公式マニュアル」の「3 添付書面情報の添付」から、これらの書類のテンプレートが入手可能なので、それをもとにして作成し、PDF化します。

6.「申請用総合ソフト」で登記申請する

①設立登記申請書の作成

さあ、ここに来てようやく「公式マニュアル」の「2 申請書情報の作成」に進む準備ができました。
そこにある手順に従って設立登記申請書を作成しましょう。
商業登記電子証明書の発行を同時申請する場合は、「申請様式一覧選択」画面で、「設立登記申請書(電子証明書発行同時申請用)」を選択する必要があります。
※「登記の事由」欄の日付は、設立登記の準備が完了した日(すべての書類が揃った日)にするのが一般的なようです。
※「課税標準額」は資本金の額、「登録免許税額」は資本金×0.007 or 15万円のどちらか高い方です。
※「添付書類欄」は↓のように書きます。

定款 1通
設立時取締役選任及び本店所在地決議書 1通
就任承諾書 1通
払込みを証する書面 1通

②添付書類への電子署名の付与と添付

公式マニュアル」の「3 添付書面情報の添付」を参考に、添付書類それぞれに電子署名を付与します。
ここでは、定款に電子署名をするときには利用できなかったさっきのサイトの②「署名付きPDFフォルダ」が使えます(「公式マニュアル」の「PDFファイルに電子署名を付与する方法について」と同じ内容)。
作成したフォルダを添付するには、「添付ファイル一覧」画面で「署名付きPDFフォルダ追加」をクリックします。

ちなみに、申請書や添付書類の内容を登記所にメールかFAXで事前チェックしてもらうことはできないようです(予約をして実際に訪問する必要があるとのこと)。

最後に「署名付与」で申請書全体に電子署名をします。

③送信!

会社設立希望日の「前日17:15~当日17:15」に「申請データ送信」します(申請書情報が登記所で受付された日付が会社設立日になります。受付時間は8:30~17:15)。

④補正・登録免許税の納付

申請書情報がシステムに「到達」し、続いて登記所に「受付」されると随時お知らせが届きます。
さらに、登録免許税の「納付」のお知らせが来るので、オンラインバンキングATM振込で払込みます。
また、申請書や添付書類に不備がある場合は「補正」のお知らせが届くので、指示に従って修正します。

なお、「商業登記電子証明書」を同時申請している場合は、そちらの発行手数料の「納付」のお知らせも追って届きます。

⑤手続終了!

「手続終了」のお知らせが届いたら、無事に設立登記の完了です!
お疲れ様でした。

…といっても、他に何の説明も案内もなく、ましてや今後の貴社のご発展をお祈り申し上げられることもなく、なんだか盛り上がりに欠けます…
そんな時は、国税庁の法人番号公表サイトで登記した会社を検索してみましょう。
そこでちゃんとヒットすれば、バイブスが急上昇すること請け合いです。
(※登記完了から法人番号が指定されるまで数日かかるようです。)

おわりに

設立後の関連手続きもオンラインで

設立登記後に必要な、税務署への「法人設立届出」「給与支払事務所等の開設等届出」、自治体への「法人設立・設置届」、年金事務所への「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」などの手続きには、デジタル庁の法人設立ワンストップサービスが便利です。

こちらのサービスを利用すれば、その他諸々の関連手続きを自宅にいながら一挙に済ませることが可能です(添付書類には、↑法人番号公表サイトの印刷ページが使えます)。
(実は設立登記申請もこちらで可能なのですが、電子定款の認証に「申請用総合ソフト」が必要、且つ「公式マニュアル」の使い勝手が良かったので、今回は使いませんでした。)

設立登記にかかった費用

設立登記に際して、筆者が実際に払った費用は以下の通りです。

定款の認証手数料(謄本なし) ・・・40,300円
登録免許税          ・・・150,000円
電子証明書発行手数料(12ヶ月)・・・4,300円
会社印代(デジタル印込み)  ・・・6,481円 

商業登記電子証明書は、法人代表者の個人の電子証明書(マイナンバーカード)でも代用可能なことが多いようなので、もしかすると要らなかったかもしれません。

ちなみに、創業支援研修を受けると登録免許税が半額になる制度もあるそうです。

なお、これらの費用は「創立費」としてさっそく法人の経費に計上しましょう。

最後に…まさかの罠

さてさて、設立登記や関連手続きを「完全オンライン・完全自己完結」で済ませて、「お役所のペーパーレス化も中々進んでいるじゃあないか」と悦に入っていたそんなある日、

片やまだまだ紙の書類が必要な法人口座の開設手続きをするために、「登記簿謄本」と「印鑑証明書」の原本を、これまたオンラインで請求しようとした時のことです(詳しい方法はコチラ)。

「印鑑証明書」の発行には、「印鑑カード番号」が必要とのこと。
「印鑑カード番号」を知るには、「印鑑カード」が必要とのこと。
「印鑑カード」を取得するには、法務局に出向いて(または郵送で)申請が必要とのこと。

??( ^ω^)??

どうやら、印鑑登録さえやっておけば良いわけではないらしい。
印鑑証明書の発行には「印鑑届」だけでなく、「印鑑カード交付申請」が新たに必要であり、唯一その手続きだけは未だオンライン化されていないと。

・・・( ^ω^)・・・

※真似したことによって生じた損害等の一切の責任を負いかねます。

重い腰を上げて「引きこ森」から抜け出し車で1時間かけて法務局まで出かけていき、わざわざ来たついでに登記簿謄本もその場で発行したら、貰った封筒に「謄本請求は窓口よりオンラインがお得です!」(謎にオンラインの方が100円安い)と書かれていたのでした。

・・・(#^ω^)ピキピキ

おしまい。


おひねりはここやで〜