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"Hatch"こそ、教育そのものである。

2019年3月、中1から高3まで6年間をともにした生徒たちが巣立っていった。いま振り返っても、人生のハイライト、最高の時間だった。最高だったからこそ、頭の中には、達成感と安堵感、そして堂々巡りの問いが渦巻いていた―。

果たして「良い教育」をできたのだろうか?
自己満足で終わってはいないか?


1.教育に答えはないのか

よく、「教育に答えはない」と言われる。それが面白さでもあり、難しさでもある。ラグビー日本代表の元ヘッドコーチであるエディー・ジョーンズに言わせれば「アート」の領域かもしれない。

教育に画一的な正解主義を持ち込むのは危険だ。一方で「答えはない」という詭弁に甘えて、思考停止してしまうことへの恐さも増幅していた。

心の内では、恐さの正体も分かっていた。それは「二次情報でしか社会を知らない」という自分自身への負い目だ。生徒たちを社会に送り出すのに、その社会を知らないという負い目…。

何をもって「社会を知る」かという定義の問題はあるし、社会人だから社会を知っているとも限らない(というか、教師だって社会人だし)
これは、あくまで主観的な恐さだ。学校文化の中で純粋培養されてきた自分自身への、何とも言えぬ気持ち悪さは無視できないほどに募っていた。

生徒たちに「正解ではなく、納得解を探究しよう」と伝えたあの言葉は、自分自身に向けられたものでもあった。

2.HatchEduとの出逢い

そんなときに出逢ったのが、この一文だった。

子どもの個性の数だけ、教育の選択肢がある社会を実現するためには。

教育業界のイノベーターや人材開発領域の方々をメンターに迎え、教育に関心のある様々な領域のプロフェッショナルとともに、プロジェクトベースでの学びができる・・・。これは!と思い、第1期生として挑戦することに。

発起人は、軽井沢のインターナショナルスクール・UWC ISAK創設者の小林りんさん。ISAKで大切にされていることは3つ。

①問いを立てる力
②多様性を活かす力
③困難に挑む力

ISAKの取り組みには「答えのない教育」に対して腹落ちするまで本質を深堀りし、理念を具体的なプログラムとして落とし込むまでの一連のプロセスを見た。グローバル企業や国際機関での経験に裏打ちされたロジックと熱意は、痛快だった。

さて、HatchEduでは、Life is Tech!水野さん、Learning for All李さん、HLAB高田さんはじめ、教育界のチェンジメーカーたちが一堂に会するという奇跡的な状況が生まれていた。その中でも、志高き5名の教師とともに、「Life is Tech! 先生コミュニティプロジェクト」に参画することに。

3.学校と社会が繋がる空間

毎週のミーティングでは、鋭い質問が投げかけられ、聞き慣れないビジネス用語の数々に圧倒されていた・・・(もはやDAI語にしか聞こえない時もあった笑)

それでも、右往左往しながら、現場では何が課題で、どのようなコミュニティがあれば解決が図られるかを模索する時間は、チームメンバーで航海をしているようで、ワクワクの連続だった。

プロジェクトについては稿を改めるとして、最終プレゼンでは、参加者の皆さんの「学校と社会と繋ぐこと」への関心の高さを肌で感じ、このコミュニティは教師だけでなく社会全体で作っていくべきものなんだと確信した。



4.なぜ、“教師”を社会と繋げたいのか

学校は、社会の要請に応える場でもあるけど、単に社会に迎合する歯車を大量生産する場所ではない。特にVUCAの時代においては、まだ見ぬ未来を描いていく創造的な空間であるはずだ。

子どもの個性の数だけ、教育の選択肢がある社会を実現する」ためには、そもそも多種多様な選択肢があることを、教育に関わる全ての人が自覚する必要がある。

しかし、学校という半ば“象牙の塔”の中で、教師は、経験に偏ったディープラーニングに依存しやすい環境に置かれている。そこで、学校とは異なるコミュニティを属し、職場と家庭以外のサード・プレイスを意識的に作り、学校という特殊性をアンラーンすることで、学校文化を相対的・俯瞰的に眺められるようになる。

私自身も今回の経験を通して、たとえば「教師の長時間労働問題」は、教師自身も助長している部分があることを自覚した。

そこに悪気なんてあるはずがない。目に見えない問題は、教師は「良かれ」と思って生徒のために尽くしていることである。いや、問題と言い辛い雰囲気さえある。

あるとき、生徒からこんなことを言われたことがある。

先生には本当に感謝してる。でも、私は先生みたいには働けない。

衝撃的だった。

このままで良いのかどうか、根っこから揺さぶられた体験であった。日本の教育の未来を考えれば、教師こそ視野を広げ、視座を高める必要があるのではないか…。

一方、「生徒」を社会と繋げるために、多種多様なキラキラな大人の方々にも学校で授業をしてもらってきた。それらはすごい刺激的だったし、生徒たちの記憶にも鮮明に残るような素晴らしい体験だった。

2020年2月、GongCha創業メンバーを招いて行った講演会

ただ、結局は日々接している教師のマインドセットが変わらない限り、生徒にとっても社会と繋がる体験は「イベント」で終わってしまうことも痛感した。そして、生徒だけでなく、教師自身が社会と繋がる必要があるんだと強く自覚したのだ。

5."Hatch"こそ、教育である。

"Hatch"は、日本語に訳すと「啐啄」となろうか。「啐啄」の意味は次の通り。

雛がかえろうとするとき、雛が内からつつくのを「啐」、母鳥が外からつつくのを「啄」という。

社会と繋がりたい教師、教育に携わりたい社会の人々とが共鳴し、互いに交わり合うことで、教育はもっと良くしていける。

そして、HatchEduはソクラテスの産婆術のように、「答えのない」教育に対して問い続け、新たな価値を創造する場であった。この営み自体が、教育のエッセンスそのものであると、終わってみて気付いたのであった。

北極星を示し、ルフィ感たっぷりに「ついていきたい!」と思わせてくれるLife is Tech!代表の水野さん。新しい視座と地平を示して下さり、粘り強く伴走して下さったD3.LLCの綿谷さん。きめ細かくマネジメントして下さったメンバーの皆さん―。

HatchEduには、他にも文科省で会見開いちゃうスーパー高校生やハーバード大学の学生から、システム思考のパイオニア、ベンチャーキャピタル、経営コンサル、教育に熱い想いを持ったオンライン飲み仲間、そしてプロジェクトを進めていく教師の皆さんまで、メンターやロールモデルとの出逢いがたくさんあった。

第2期もあるかもしれないので、ここまで読んで頂いた方の中で興味をお持ちの方は、またHatchEduで逢えるのを楽しみにしています。

【HatchEdu お問い合わせフォーム】
https://docs.google.com/forms/d/1nDLCzXKy46pwTRbdCAiohp3wJenZNM9BGsmxZAV4R3Q/viewform?edit_requested=tru

気付いたら、堂々巡りの問いの先に、新たな道が生まれていた。

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