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太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ



太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

三好達治

 雪が降ると、この詩を思い出す人は大勢いるのではないだろうか。
 降り続く雪の静やかさ、圧倒的な自然。
 たった二行で、誰の前にも同じ絵が広がるはずだ。

 好きな詩はいくつかあるけれど、これはもう、驚きでしかなかった。
 子どもは守られている、起きたらどれだけ喜ぶだろう、それもある。
 しかし詩人に対する畏怖で、動けなくなる。
 何気ないように、実際何気なく、口ずさんだのだろう?
 そう思わせるから、動けなくなる。

 「自分にはこの二行目を書く勇気があるだろうか」
 (だがもちろん、この二行目があって唯一無二の詩になったのだ)

 そんなことをあれこれ考える。でも私が見ているのは誰かと同じ絵だ。
 これほど素晴らしいものはそうなくて、これほど敗北させるものもない。
 二行の前で立ち尽くすしかないなんて。悔しがることもできないなんて。

 

 

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