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「ご感想への返信2023」No.15

婦人科はトランスジェンダーとも関わりが深いというのが印象的で、その人たちが気軽に受診しやすいような環境を行政や医療現場が積極的に整えて行く必要があることを学んだ。そのような意味では「男性専用の婦人科クリニック」や「診療の時間帯を分ける」などの策があげられるが、これらの方法は多様性に目を向ける機会を減らすことにもなる。性について人前で話すことがためらわれる日本においては配慮も必要だが、多様性をみつめるためには配慮ばかりでは現状は変わらないと強く感じた。看護師としてそのような患者にどう関わるのが良いのか学ぶことは個別性を持った看護を提供する上でとても重要であり、知ることから始めたいと思った。

学生の感想から

授業の振り返りから

 BuzzFeed の記事「トランスジェンダーは婦人科を受診しちゃいけないの? 当事者や医師に聞いてみた」を参考にトランスジェンダーの受療環境について考えました。

「個別性をもった看護」か「啓発的視点」か

 「男性専用の婦人科クリニック」や「診療の時間帯を分ける」という発想がすごいなと思いました。頼もしい。ただし「多様性に目を向ける機会を減らすことにもなる」――これはシスジェンダーの患者たちに向けた教育的側面も考えている、ということですね。たとえば男性用トイレに生理用品を入れるサニタリーボックスを置くことは、一概に男性と言っても様々な身体の状態があることについて利用者に気づきを促す。昔は男子トイレにはおむつ交換台だってなかったのだ。手すりだって同じだ。人はそうやって他者の様々な事情を知る。そして自分にとって関係ないと(今は)思うかもしれないことでも、それが(いつか)自分を守るものでもあると気付いていく。車いす用のスロープは、人工物の中でもとりわけ美しいものだ。

 「多様性をみつめるために」、これもやがてそうした「美しいもの」のひとつになるんだろうか。病院にトランスジェンダー用の枠が別に用意されていることはトランス患者にとって利用しやすいかもしれないし、啓発にもなる――啓発にならない可能性を考えたのであれば、そうでもないんじゃないだろうか。病院のサイトや窓口での告知に、その人たちの枠であることが書かれているのなら、それはサインになる。

 まず、そうしたアイディアが真にトランスジェンダーにとって利用しやすいか、ヒアリングしなければなりません。長く利用できると感じるかどうか――「専用窓口」は短期的な措置で終わっては意味がない。反動が起きて撤回されるような展開をトランスジェンダー患者側が望むはずもないのだから、どうするのがベストかを考えるためには、聞き取りを重ねることが大切です。医療者間の情報交換も非常に役立ちます。既に取り組んでいる人がいるので、何が効果的だったか、何が困難だったか経験を聞けるわけです。


「性について人前で話すことがためらわれる日本」なのか

 仮に私のような患者(中年男性で、まだ性的にアクティブに見えるかもしれない)を前にして、やはり中年男性の医師が性行動を問診できないとしたら不思議に思いませんか。もちろんお互い中年男性でも配慮は必要だけれども、状況は診察室で、医師と患者。話せないことが何かあるのだろうか。しかし現実には、医師からセクシュアリティについて聞かれることはない。性行為感染症を疑って受診する時の問診表現は「どこかで遊びましたか」、心療内科を受診する時は「彼女との関係はどうですか」だけであることが多いのです。これは充分でしょうか。私は「必要なことなら何でも」聞いてほしいと思っている。しかし医師が前もって性に関することは話しにくいだろうと考えて曖昧な質問に終始するのであれば、ズレが生じる。

 これは日本社会が「性について話せないから」なのだろうか。「人前じゃなくて医師前」。「社会じゃなくて診察室」。必要なこと、当たり前のことにして行けるのは医療者の側だと、私は思います。もちろん何も話せない患者もいるでしょう。しかしセクシュアリティは(患者が)語れなきゃダメだし(医療者が)問診できなきゃダメなんです。誰が当たり前にしていくのかということです。

 中年のシス‐ヘテロ女性から「閉経後のセーファーセックスの困難」について聞いたことがあります。夫の性行動に不安があり本心では夫にコンドームを使ってほしいけど、閉経によってコンドームを使う公然とした理由がなくなってしまった。夫は今後コンドームを使いたくないわけですね。妻としては予防しない行為が本当は怖いし嫌でたまらないけど、「コンドーム使って」と言うことは夫に疑念を伝えることでしかない――そんな悩みでした。
 こういう話は「率直に性について語る/語れる空気を作らなければ」出ない、出て来ない、出せないものです。医療者が当たり前に必要なことを聴く、それで初めて話せることもあるのだから、もっと空気を作って行きませんか。

 いろんなことを当たり前にしていかなきゃいけない。必要なら毅然と打ち出さなきゃならない。男子トイレのおむつ交換台のように、必要なものを置いていく。皆さんの仕事はそういうものですね。


 

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