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最近話題の「イマーシブ」への違和感。必要なのは「没入」ではなく「参加」 │ SNS成熟期である2024年に思うことを感覚だけでつらつらと

2023年から突然「イマーシブ」という言葉を聞くようになりました。

「イマーシブアート」「イマーシブミュージアム」「イマーシブ空間」など聞いたことがある人も増えていそうです。 "イマーシブ" という言葉を呼び文句にしたエンタメもよく見かけるし、2023年年末には「没入型」プロモーションであるメルカリさんの施策が話題になりましたし、そういった現象が記事になっているのも見かけるようになりました。

上記記事は2023年3月のものですが、2024年3月には、大注目のエンタメ施設『イマーシブフォート東京』もオープンし、まだまだ「イマーシブ」が持て囃される流れは続きそう、と考えています。

ただ、様々な話を聞いていて気になるのが「迫力ある映像・かわいい装飾に囲まれる『没入感』」と、「世界観に参加しているような『没入感』」が混じり合って語られていること。

そして、前者は正直そこまで新しく感じなくなってきてしまったなと考えています。過剰にドライに言ってしまえば、映像に囲まれるとか装飾に囲まれるとか、つまりはちょっと豪華なフォトスポットと捉えることもできる。常設されるエンターテイメントにおいては、さらなる進化が進められているのを感じます。もちろん、インスタグラムでフォトスポットを投稿するのはもはやトレンドではなく日常の行動なので、まだまだ突発的に人を集められるとは思っているけれど……!

2024年 "新しいトレンド" として受け入れられはじめているのは、「文脈に組み込まれる物語への『参加』している感覚」だと思っているのです。

背景として存在する「ノーサプライズ歓迎」な風潮

「文脈に組み込まれる物語への『参加』している感覚」について語る前に、その前提として存在している「ノーサプライズ歓迎」の風潮と「謎の設計」の重要性について書いておきたいと思います。

まず、「ノーサプライズ歓迎」について。今の若者は、「ネタバレ視聴」というキャッチーな行動の文脈も含めて「サプライズ嫌い」と表現されることがあります。

つまり「想定外」を極端を極端に嫌う。エンタメはネタバレを見てから視聴するし、お店や購入する商品の情報もとことん調べていく、というような行動形式です。

しかしこれ「ネタバレ消費」は極端な行動だとしても、事前に詳細に内容がわかる情報が供給されてたら、若い人じゃなくても、そりゃあ見るでしょ、と思っています。

触れている情報はどんどんリッチでわかりやすく簡潔になっています。テキスト→画像→動画と、SNSで触れる情報がリッチになっていけばいくほど、すべての事柄は実際に触れなくても十分理解できるようになっていく。コスメはテクスチャや色味まで動画で知ることができるし、映画は「◯分でわかる!解説」で内容をサクッと知ることができる。

そして、同じくネットのおかげで、私達は膨大な選択肢を手に入れることができました。膨大な情報量と選択肢がある中で、「ハズレ」を引いて時間を無駄にしないためにも、事前に完全に近い情報を求める。

膨大な選択肢がある中で"「ハズレ」たくない" し、それを実現するためのリッチなメディアも情報量も揃っている。それが「ノーサプライズ」を歓迎する価値観につながっていると思っています。

余談ですが先日、インスタ好きの友人と話している時も「このカフェ、住所とか営業時間とかまとめてくれてないから不便」という話をしていました。

ノーサプライズで事前に必要な情報を頭に入れておきたい現代人において、基本的な情報がわかりやすい場所に整理されていないのは、不便極まりない体験を生み出すのだと私もSNSを触っていて思います。

SNSネイティブ世代・SNSを活用する人たちにアプローチするには、「情報を整理してわかり易い場所にまとめてわかりやすく置いておくこと」「実際の商品購買までに不安要素になるような情報はできるだけ取り除いておくこと」は重要だと私は思っています。

一方で重要になる「謎」の設計と動画の長尺化


実際に行かなくても、触れなくても、だいたいの情報はSNSに載っている時代。一方でだからこそ、オフラインの場所は「見てわかる」を超える体験が求められているんだと思います。

だからこそ「没入」が重要視されるのではないでしょうか。SNSで遠隔で見ているだけでは得られない体験がそこにある。コロナ禍が落ち着いたのもあって、よりオフラインにしかないものが求められている背景もあるでしょう。

そして、その「没入感」から、これから求められるのが「文脈に組み込まれる物語への『参加』している感覚」になっていく背景の一つに "動画の長尺化" という外部要因があると考えます。

最初は15秒しか掲載できなかったTikTokですが、現在は10分まで動画があげられるようになっています。そうした中で、より一層そこにあがる投稿には「ストーリー」あるいは「構成」が重要になってきていると思うのです。過去にInstagramが複数枚投稿できるようになったことで、投稿に表紙をつけるのが流行し、1枚のインパクトある写真を投稿するスタイルから、文脈・テーマのある複数枚の写真をあげるスタイルが当たり前になったように。

「構成」「ストーリー」のある動画において、重要なのがエピソードとしての面白さ。それ故、今大事なのは「動画で映える」ではなく「動画でウケる」ネタなのです。「チーズがのびてシズる!」は映えるけど、1分の尺は持たない。きれいな映像に囲まれても、複数ヶ所あれば大丈夫そうだけど、1分の尺はきついかもしれません。

そこで「ストーリー」や「文脈」が大事になってきているのではないでしょうか。「こんな場所に行ったら、こういうふうな体験ができる!こんな施設でこんなストーリーを体験できてたのしい!」という構成をつくれる場所だと、10分近い動画になりそうです。

「ストーリーに参加する体験」は、現状のSNS投稿フォーマットに適していながら、 "SNSを見ているだけじゃ体験したとは言えない、リッチな体験" になっているのです。

2023年は「友達がやってるカフェ」「ワーナー・ブラザース・スタジオツアー東京」などが話題になりましたが、両方、ただ景色に混ざるだけではなく、この「世界観の中で役割を与えられる仕組み」が整っています。

カフェでは店員さんがカジュアルに話しかけてくれたり、メニューが「いつものやつ」だったり、「友達」になれる工夫があります。ハリーポッターの施設ではクィディッチを観戦している様子を映画風の映像にしてくれたり、ホグワーツ内部の絵画になれたり、「ホグワーツの生徒」になれる工夫がそこかしこにあるのです。

『イマーシブフォート東京』のアトラクション説明でも、「役割」「世界観への参加」をイメージする言葉が散見されます。

「唯一無二の当事者としての体験」
「あなたもまたこの物語を紡いでいく一員となる! 」
「切迫感を当事者として味わう「没入型ホラー」」など

2024年もこの流れは継続していくでしょう。そして、それらはざっくり「没入系エンタメ」と呼ばれるかもしれません。しかし、巨大な空間の中に物理的に入り込むのではなく、その世界の中で "役割を与えられ" ストーリーを共創していく楽しみを感じられるものこそがトレンドになっていくのだと私は予想しています。

ちなみに、ダラダラと書いてきてしまったのですが、同じくこれからのイマーシブは「参加」だ、と語っている記事がありました。

今年は、この「参加」を促すようなエンタメがたくさん出てきそうで楽しみですね。

余談ですが、こういう「参加」エンタメ、ハロウィンが廃れてきた流れも影響しているのではないかと思ったりします。「自分ではない誰かになりたい」「ここではない何処かに行きたい」。つくられた世界観の中で新たな役割をくれるエンタメは、非現実に連れて行ってくれます。

SNSで「ウケる」し、オフラインにしかない体験をくれるし、日常から連れ出してくれる「参加型エンタメ」。今年はきっとそこかしこで流行るはず!どんな進化を遂げるのか、どんなトレンドをつくるのか楽しみです。

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