放送大学 グローバル経済史('18) メモ15 リオリエントへの展望

ついに最終回! リアルタイムに起きていることがようやく位置付けられます。

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放送大学 授業科目案内 グローバル経済史('18)
https://www.ouj.ac.jp/hp/kamoku/H30/kyouyou/C/syakai/1639609.html
グローバル経済史(’18)

15 リオリエントへの展望

1970年代の石油ショック以降、欧米や日本の成長率が停滞し、社会主義陣営が崩壊するなか、東アジア、東南アジア新興国の経済成長があった。1993年に世界銀行は「東アジアの奇跡」というレポートの中で、これらの新興国で急速な経済成長、分配の公平、不平等の減少を実現したと分析した。

アジアNIEsは韓国、シンガポール、タイ、香港の国・地域で構成され60-70年代に経済成長を開始し1980年代以降、輸出型の工業で世界経済上顕著な地位に達した。当初は繊維、後に重化学、電子産業へ進出。

アジアの新興国に共通する政治形態は開発独裁である。すなわち1.軍事政権、2.政財界の癒着、3.反共主義によるUSなどからの援助や技術導入。典型的には韓国の朴正煕政権、全斗煥政権、フィリピンのマルコス政権、インドネシアのスハルト政権でありまた最近ではウズベキスタンのカリモフ政権がある。多くの開発独裁政権は国民の生活水準の向上とともに崩壊した。

1980年代ソ連の社会主義経済が資本主義陣営より非効率的であることが明らかになりゴルバチョフによる立て直し(ペレストロイカ)が始まるが、1990年前後にソ連崩壊、ベルリンの壁崩壊、東ドイツの吸収合併などでソ連圏が消滅し、様々な試行を経て市場経済へ移行した。中国では1978年に鄧小平は大躍進・文化大革命により疲弊した経済の立て直しのため改革開放を開始し一党独裁を維持したまま部分的に外資や市場経済が導入された(社会主義市場経済)。これにより2000年代以降急速な経済成長を実現した一方で大気汚染や農村部と都市部の格差といった問題も発生している。これはベトナムのドイモイ政策にも影響を与えた。これらにより社会主義陣営が消滅していった。

多くのアジア新興国はUS$とのペッグ制を導入していたためドル高により自国通貨を高値に維持するとともに輸出が伸び悩むという矛盾があった。この点をヘッジファンドに空売りされ1997年にアジア通貨危機が発生し、新興国の将来性には疑問符がつけられた。A.フランク著「リオリエント」(1998)はこうしたさなかに出版され、1500年代-1800年代前半まで世界のGDPはアジアが過半だったのに対し1800年代後半から欧米が逆転したことを分析した。タイトルがいずれアジアが再逆転するであろうことを示唆していたため、批判もあったが実際2010年現在、世界GDPは現在アジアがヨーロッパ+USを上回りつつあるなど予想の正しさが認められつつある。

20世紀後半からEU, ASEAN, NAFTA, TPPなど地域ごとの自由経済圏を作る試みが多く見られた。これらは域内では自由貿易が進む一方で経済圏から除外された国にとっては貿易面で不利になるなど、グローバル化と逆行する側面も持つ。一方、イギリスの離脱の動きやトランプ政権の政策など、自由経済圏に対しても異議を唱える国も出てきている。

ミシェル・ポーは19世紀末の「大不況」(産業転換や西欧->US、ドイツへの経済の中心の移動)と、20世紀末からのアジアへの「地殻変動」の類似性を指摘した。経済のグローバル化は地球が有限であるという制約を受ける。そうした点では天然資源や人口を多く持つBRICs (Brazil, Russia, India, China)の経済成長が注目されており、21世紀の成長を先導するという見方がある。一方、これらの国々が成長する際に、リソースの有限性に起因して環境問題とエネルギー問題という未解決問題を伴っていることを忘れてはならない。

感想

開発独裁はこの時代のとても象徴的な政治体制ですよね・・・。リストには挙げられなかったけど、80年代までの台湾や、もうちょっと言えばシンガポール、中国、ベトナムの政治体制も部分的にはそう言えるのかもしれないですね。日本の明治政府や55年体制などとも比較してみたいところです。

地域経済圏の話はまさに現在進行形なわけで、なんとなくUSやBrexitの動きは反グローバル化、一国主義なのかなと思いますが、実はEUなど地域経済圏も世界をブロックに分割してグローバル化から身を守ろうという側面があるわけで、新しい視点が得られたような気がします。

全体の感想

この講義シリーズ、ポメランツ「大分岐論」、A.フランク著「リオリエント」の影響をもろに受けていると思われ、読んだほうがいいのかな、という印象(まだ読んでない)。全体的には面白かったんだけど、いざ振り返ると俺は何を学んだのかわからなくなります。コアになる原理みたいなものをつかみ損ねているというか・・・。

第1回講義で「Q1.歴史学は文献資料に重きを置きすぎたのでは?」「Q2.近年のアジア諸国の経済成長の要因は?」という問題提起だったと思うのだけど、前者Q1についてはこの講義では経済の統計資料と南インドなどの現地調査がフィーチャーされ、Q2については近世・産業革命前から存在したアジア域内貿易ネットワークや人口が指摘されていました。Q1については自然科学的な方法(疫病や気候など)が最近インパクトがあるということでしたがそこはこの講義では不足気味だったか。

主任講師の二人は若干スタイルが違っていて、水島先生は南インドなどケーススタディや理論を重視、島田先生のほうが歴史イベントのストーリーや統計重視という印象。ゲストの先生の中では、第7回川島先生の人口・食料問題に対する圧倒的楽観論が印象に残りました。

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