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午前中の公共放送チャンネルが面白かった。政治や社会、コロナウィルスまで風刺する一方、「人間っていいな」と伝えるスウェーデン公共放送局。


春・夏・秋とガイド業や視察アレンジなどの仕事で夜討ち朝駆け、あくせく過ごしている身だけれど、冬の期間は家にいて何かすることが多く、そうすると、朝のニュースを見るのにつけた公共放送局(Sveriges Television, SVT)(3月11日訂正済み。「国営」放送ではなく、受信料で運営される「公共」放送であった。NHK との違いなど、いつか書いてみたい。 )がそのままつけっぱなしになっている時が多い。

全国ニュース、ローカルニュースが終わったあと、お昼頃まで、10分間から45分間までの計6つの番組が放送されていた。公共放送局の番組の他にUR (Utbildningsradion、スウェーデン公共放送局の教育放送チャンネル、日本で言えばEテレです) の番組も混ざって放送されていた。今日はいずれもハズレなしの番組のラインナップで、作業しながらテレビをチラ見するつもりが、がっちりと見入ってしまいました。

今日は3月10日、火曜日。

まず一つ目。9:10-9:55 「お医者さんに聞こう」(Fråga Doktorn) という健康番組。時々見てるけど、好き。司会者の50代ぐらいの女性が、だいぶふくよかな体つきで雰囲気もとても落ち着いていて朗らかで、番組には適任という感じ。45分間の中にいくつか健康に関するエピソードや質問、インタビューが盛り込まれている。スウェーデンらしいなと一番面白く観たのは最後のインタビュー。首の骨を折ったという、コルセットを首に巻いた長髪の青年がスタジオでインタビューに答えていた。その青年、 Klas Beyer という人で、スウェーデンではけっこう有名な人らしい。Youtubeで名前を検索すればスノーボードやスケートボードを操る姿が出てくるし、Robinsonという運動神経を競う番組でも優勝した人だ。

ところが、この人は今年の2月のバレンタインデーの時にスケボかスノボをやっていて首の骨を折ったそう。この番組が生放送だとしても、首の骨を折ってからまだ25日ぐらい。え、もう退院してるのか。彼、飄々と「いや、全然やめる気はない。今、動けないから本書いているところ。」と答えていた。こういう人が「普通に」朝の公共放送局の「お医者さんに聞こう」に出ているセンスが、日本のNHKに慣れている私には今だにちょっと新鮮。ちなみにスウェーデンのテレビ番組には、映画と同じように全て何歳以上から観られるかという情報がついている。こういうのは保護者にとってありがたい。この番組は7歳以上。

あぁ、面白かったナと思っていたら二つ目の番組が始まった。これ、前にも観た、好きなやつだ。Kristoffer Appelquist というスタンドアップコメディアンが登場し、今の政治や社会を風刺と皮肉を込めて伝えつつ、何がどうあるべきなのかズバリ述べていく29分間。「Svenska Nyheter (スウェーデンのニュース)」という変哲のない名前の番組。

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面白かったのはトルコがシリアからくる難民に国境を開けることにしたとニュースについて。 これは今ヨーロッパにとっては特に大きな問題。右派政党であるスウェーデン民主党の党首ジミー・オーケソンはギリシャ側の国境まで行って「スウェーデンはもう移民でいっぱいですから入れません」というチラシを配りに行ったのだが、帰りにイスタンブールの空港で別室に呼ばれて警察にいろいろ質問された末、以後入国禁止になった。その話をいじって、最後、「ジミーは逮捕されたわけじゃなかったんだね。でも、ジミー、これでアラブ人が空港でどういうことをしてるのか、もうよく分かったよね!」とコメント。また、EUがトルコにお金を渡して移民がヨーロッパに来ないようにさせている話をいじって、こう言った。「スウェーデン政府は『亡命(asyl) する権利は神聖なものだ』というけど、その一方でエルドガンの手助けによって、スウェーデンまで移民がやってくることはできないんだ。つまり、言ってみればこういうことだよね。『日曜日にちょっと僕のところに遊びにおいでよ。飲み物とスナック食べにさ。ドアには暗証番号がついていて、その番号は自分で考えてみてよ。でも、もしドアを開けることができちゃったら、そこのドアを見張っている人にお金を払って君を撃ってくれって頼むからね』ってこと。」「トルコとギリシャの国境でジミーがチラシを配っても移民の動きは止められない。そして、止めようとしているのはEU、つまり僕たちスウェーデンもその一員だ。だから、状況をまとめてチラシにするならこうなるよね。"Sweden is open. You are all very welcome! By the way, the guards who are trying to kill you are paid by us. Sorry about this message." 」と皮肉。

この人、Wikipediaによれば、大学で政治学、社会学、そして法学を学んだとのこと。池上彰さんにお笑い芸人を足した感じだろうか。日本のワイドショーに出演しているお笑い芸人の人たちと比較してみると、切り方も切り口も切れ味もだいぶ違っているように思われる。

そういえばコロナウィルスの話を最後にしていた。どうやったら予防できるのかな、それは「手を洗えばいいんだ!」ということで、保育園でよく歌われる「きらきら星」の替え歌の手洗い歌を2回映像付きで流し、「みんな、これだよ!手を洗うんだ!」と目を見開いて強調。公衆トイレらしきところの手洗い場の動画の中でかなりいい加減に手を洗っている映像を見せつつ、やだねえ、という顔をし、マスクじゃない!手を洗うんだ!という強力メッセージを発信。そういえば、国民健康庁がスウェーデンのコロナウィルスの警戒レベルを最高レベルに上げたのも今日だった。そしてその後きらきら星の替え歌を今度はスカバンドの人たちが熱唱し、最後は手を洗っている男がなぜか背中に火がついているというオチ。どういうオチなのか今一つ理解できなかったけど、とにかくすごく明るくて勢いのいい啓発内容。暗いよりいいね、と思った。

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10:25-10:40 15分間でLärlabbet という教育番組。保育園のデジタル化について。デジタル機器を使う能力の進展は保育園のカリキュラムから提唱されているけど、何が大切なのか、どうやって実践したらいいのか、という番組。すごくわかりやすいし、デジタル機器の良さを使いこなすってどういうことなのか、という視点で一貫していた。研究者の語りや保育園のカリキュラムの文言などが散りばめられている。

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保育園時代から、パソコンにUSBでマイクロカメラをくっつけて、自分たちの皮膚を眺めさせたりする。「あ、すごい、毛が生えてる〜!」という保育園児たちの声。また、iPadに絵を描いたりして、スクリーンに映したり、みんなでアートを作ったり。「これ、すごいね。ドキュメンテーションする?」と先生が子どもたちに聞くと、「する〜!」と答える。これ、私がバイトしていた保育園でも普通にやっていたこと。「デジタル化」って教育界では昨今ものすごく中心的な課題の一つに設定されているけれど、「誰が」「いつ」「どんな場面で」「どんな利用法で」「どんな評価を」「何に気をつけて」実践するのか、というのをすごく考えながらやっている。今から生きてく人間には必要だよねえ、と思いながら観る。大人の自分も考えさせられる濃い内容。日本のEテレではこういう番組あるのかな。日本の保育園とか幼稚園ではどれぐらい意識してデジタル機器を使用してるのだろう。

その番組が終わると次の10分は抗生剤の使いすぎがいかに危険かということと、その分野で最先端の研究をしている研究者の紹介。これも面白かった。対象年齢7歳から。そしてその番組の後に、突然、国営放送の広報1分か2分ぐらい。「乾いた空気の中ではバクテリアはなかなか地面に落ちず漂っています」と突然始まる。インフルエンザやコロナウィルスを想起させる内容。肘エチケットなど基本的な対策を盛り込んである。

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お昼も近づいてきた10:50-11:20の30分間は「初めてのデート」という番組。これもほのぼのとしていて好き。とある島のとあるレストラン・バーで、さまざまなバックグランドを持つシングルの人たちが、番組が選んだ相手とデートする。あらかじめおおよその好みは伝えてあるらしくて、その初めてのデートの様子を番組で放送する。デートの最後に「もう一度会うかどうか」を決めて、そしてまたその後どうなったかまで追跡して番組内で教えてくれる。

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バックグラウンドといえば、ストレート、ゲイ、レズビアン、高齢者、移民、といったふうに、バラエティに富んだ感じで登場。(もちろん、そこを強調したりはしない。)プロフィールはそれぞれ紹介される。「みんな違って、みんないい」という、どこかで聞いたことのあるようなフレーズを思い切って拡大解釈したようなメッセージを強烈に伝えてくる感じ。そういう設定をするところがスウェーデンっぽいなと思いながら観る。そして、これもスウェーデン人らしいと思うのは、みんなポジティブで相手の良いところをどんどん探すのが基本になっているようだということ。だから、だいたいみんなもう一度会うことで合意することが多い。相手をどう思ったかは、一人一人が別室で述べ、その後二人で今後のことを決めるという流れだ。でも、番組終了後の本当のところは、他の相手が見つかったとか、自国に帰ってしまったとか、いろいろなようだ。「どうしてパートナーを探そうと思ったんですか」という質問に対して、その、いろんな背景を持つ人たちが自分なりに答えているのを見て、素朴に、「人間っていいな」と思ったりする。さわやか〜な感じの番組。もちろんスウェーデンにも児童虐待とか暗い話もいろいろあるんだけれど、「人間礼賛」「生き物礼賛」みたいな感覚を持っている人が、ここには多いように思う。

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お腹も空いている12時前に、昼ごはんの準備をしながらチラチラと見ているのは、スウェーデン人が大好きな家の改築の番組。30分ほど。そこではサステイナビリティも一つの大きなテーマ。窓枠とかドアとかを大きなセカンドハンドの店から買ってきたり、アスベストの外壁を、カップルが完全防備の服装で自分たちで剥がしたりして。ほんと、自分たちでやりたい人、多いみたいだなあと思いながら観る。家や庭、インテリアに対するスウェーデン人の熱意と気力を感じる。

さあ、お昼ご飯。すごく楽しい午前中のテレビだった。作業は遅れてしまったけど、初 noteも完成したし、大満足。

ちなみにワイドショーはスウェーデンには、ない。

面白いと思ってくれる人がいることを願って。


また書きます。

Ryoko Sato Linder


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