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Close の扉が開いた 2

もしその扉の前をたまたま通りかかって、中から人が出てきたらあなたはどうするだろうか?なんだか素敵な金属の扉。店のサービスを示す案内板はすでに片付けられているから何の店かも分からない。重厚感のあるファサードは雑貨屋かカフェのようにも見える。私だったらこんなときは出てきた人に話しかけて、どんな料理を提供するか聞いてみる。食べた直後の感想はある程度信頼できる情報だし、何なら中へ入ってお店の人に聞いてみるかもしれない。そして美味しそうでいい感じの雰囲気だったらまたくればいい。浅草ならば家から1時間だ。

この話を書いていて思い出す。エッサウェラで町一番のレストランだと、お気に入りのガイドブックには書いてある。モロッコの大西洋側の港町エッサウィラはモロッコ人ならば一生に一度は行きたい街なのだそう。なぜそんなに魅力的なのかはガイドブックを見る限りわからない。しかも電車ではアクセスできずバスか車で行く必要がある。マラケシュからバスで3時間の距離だ。今なら飛行機が飛んでいるかもしれない。その街にumia というレストランがある。日本語でうみゃぁ、という名古屋弁丸出しの、美味しい、という名の店。美味しいんだったら行ってみたい。店を覗いた時は午後2時半ごろでちょうどその日の営業を終えたところだった。滞在中に一度来てみたいと思っていたレストラン。扉にcloseの看板がかかっていたかどうかは覚えていない。でもガラス張りのレストランの中に入り、店員さんに話しかけて次はいつ営業するのか聞いた。翌日は定休日で今晩のディナーか明後日のランチなら予約できるという。その日の夕ご飯は別のレストランを予約済みだったから、予約をキャンセルしてその店で食べるか、また改めて来るしかない。2022年の11月のことだ。半ば無理矢理旅立ったモロッコ旅行。次に行く予定、私が決めなければそのたびは始まらない。

ロシア料理屋の扉の写真を見ていてなぜかそのレストランを思い出した。日本からアクセスするにはヨーロッパか中東経由でカサブランカまで20時間くらいかけて行く。そこからマラケシュまで電車で数時間、最後はバス、という遠くの街。28時間くらいかかる。現実的には旅の予定を変更すればよかったのだ。その直後に滞在した古都フェスでトラブルに見舞われることになるのだから、予定変更しておけばその町一番のレストランで食事もできたし旅は快適だったかもしれない。でもそのホテルでカギの閉じ込め事件が起こらなかったら、多分この文章は生まれていない。帰国を伸ばすこともなく、予定通り日本へ帰り、いい旅だった、でおしまい。フランス、カナダ、モロッコの楽しい御一行様たちと出会うこともなかっただろう。2週間と少しで十分だろうという考えはそう悪くないが、トラブルが発生して旅を延長するのも悪くない。今までで初めて起こったこと。

海外旅行をして予定通り帰れない事態。人生は偶然の要素がスパイスのように効いている。全て予定通りだったらつまらないではないか。楽しいほうを選ぶと決めた私は今までの当たり前をアンインストールしていく必要がある。少々時間をかけて。


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