古典教育と文学国語は必要なのか。

これから書く内容は、1か月前の学祭の時期に同じ学科(日文科)の先輩(3年、言語学・日本語教育)、後輩(1年生)と私(2年、文学)で話した雑談である。だから、記憶があやふやなところが多少ある。
わざわざ選択系を書いたのは、それぞれが(学科の中での)各専門を贔屓して出た結論じゃないよ!っていうのを強調したいから。

全員学部生であるからまだ学問を修めたという域には達していないし、教育現場を知らないので、机上の空論かもしれない。
けれど私はここで話した内容に、チラ見して気になっている#こてほん で問題にされる古典教育や、学習指導要領改定に伴う文学国語というジャンルを学ぶ意義を見出した気がするので文字に起こしておきたい。

西鶴の作品の話を後輩としていた流れで、私は彼に「古典は国語教育に必要か」という質問をしてみた。
彼は「古典は日本人が誇る文化の継承として必要である」というようなことを言った。

私は「母語である日本語の現代文すらきちんと読みこなせない生徒がいる中で、古典を必修として教える必要はあるか。芸術科目ではダメか、あるいは鑑賞のみにして文法を教える必要はあるか」と聞いた。
後輩は「芸術科目でも良く、文法も細かく教える必要はない」と答えた。

ここでその場にいた先輩から
「文法事項を知っているほうが読みやすいという人もいるのではないか」と指摘が入った。
私は確かにそうだし、古典特有の表現を読解する上で文法知識が必要となるケースもあると答えた。

さらに先輩が、「そもそも日本語は高文脈・ハイコンテクストな言語であり、古典となると(語句の省略などによって)さらにハイコンテクスト化するから難しく感じるのではないか」と言った。

もっともだと感じた。
逆に、話題になった共通テストの国語の記述式問題はかなりローテクスト化された文章だということにも思い至った。

私は、「ハイコンテクスト→ローコンテクスト言語の学習は簡単だけれど、逆は難しい。
それと同じで、さらに高文脈な内容を読み取れるようになるために、ハイコンテクストな言語を使う日本人として、日頃使っている現代語よりもさらにハイコンテクストなテクストとして古典を学ぶというのは意味のあることではないか」
と主張した。
後輩は同意してくれた(先輩の反応は覚えていないが否定はされなかった)。

私はさらにここで、「文学国語(物語文)は国語教育に必要か」という問いを投げかけた。

後輩は「想像力を養い、良い物語に触れて心を豊かにするために必要だ」「他人の気持ちを想像するために大事」という感じのことを言っていた。(ちょっとうろ覚え)
先輩は「私は小説は嫌いだけれど、文学国語を学ばない選択をすることで文学が学校の勉強から消えることは問題がある気がする」。

私は「作中の情景描写や行動の描写から登場人物の感情を読み取る訓練は、それこそハイコンテクストな日本語の学習として必要ではないか」と言った。
後輩は、それは古典学習、特に歌物語などにも共通するとして同意してくれた。

ここで先輩が「そうか、文学を勉強するのは日常会話をするためなんだ」と呟いた。
曰く、会話の中で言語化されない身振りや表情などを文字テクストとして読むことで「空気を読む」練習をするのだと。
私はこれがとっっっても腑に落ちた。

他者の感情を理解する練習を、テクストの上で行う。
具体的には、ノンバーバルコミュニケーションを言葉として読み取り、ハイコンテクストな文脈を実際の会話の場でできるようにするために、物語文、さらには古典を勉強する。
なるほどと思った。

道徳とか、日本人としてのアイデンティティの形成とか、古典籍へのアクセスとか、そういうものももちろん大事だとは思う。
思うけれど、それがすべての国語学習者にとって大事なのかな?と納得がいかなかったのもまた事実だ。

「日常会話をするため」に国語、文学や古典を学ぶという考えは突飛なようにも思える。しかし、私達がより良い日本語を使う目的というのは他人との意思疎通をはかるためだと思えば、とても理にかなっていると思う。

(ハイハイコンテクストなテクストとして古典を読む必要があるのかと言われると困るけれど、有効ではあると思っている)

これが最適解だとは思わない。論理も穴だらけだ。
けれど、今の私には「学校でなぜ国語を教えるのか」という問に対する答えたとして、これがいちばんしっくりきている。

学祭の疲れの滲む最終日の部室で、こんな気づきを得た経験が、私の学問や人生のどこかで役に立つんじゃないかと直感した。
その直感が1ヶ月経っても消えないから、文字にして残しておくことにした。

体調の都合もあって文芸部は先日辞めてしまったけれど、こんな話ができるコミュニティに居場所があったことは、きっと仕合わせだった。

それにしても、勉強の足りなさが滲み出る私である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?