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「綿花の旅」/ 詩


雨の合間の 路の上
ふうわりと
吹き降りてきたよな 
その 風の塊の中に
龍脳と藿香の 
気配を聞いた


はて
天帝が墨でも磨っているか



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干し草の香る部屋で
古着の浴衣を解いていた


いつか何処かで
種を蒔かれて育った綿は
また誰かの手によって
糸になり
生地になり 衣となりて


そして時を経て
此処で再び
生地に戻ろうとしていた


後に 
また何れかの形に 姿を変え
綿花の旅はつづく
数々の手が
綿花の小さな物語を紡ぎ
その旅路を言祝ぐのだ



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こつこつと
時に 指先を刺しながら
針を運び
新たな糸と 古い生地の
時を超えた出会いも生まれ
運針のたてる 微かな調べ


はて
その音色は須弥山まで届くだろうか




今宵 星祭りで

しかしながら 天からは催涙雨

墨の香りの風に揺れて

未草は夢の中


綿花の旅はつづき

柔らかく あたたかな甘露を

数多が待ちぼうけている



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