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【(BI)WEEKLY留学記㉘】(4/29~5/5)

最近は二週間に一回の頻度で更新してるから、Biweekly留学記に改名した方がいいのかなって思ったり。

この留学も残すところ3週間。やり残したことはないか、と聞かれると、そう言えばアメリカに来たのに合法的にドラッグをまだ経験していない。なんて冗談はさておいて、勉強なり、生活なり、英語なり、それなりに満足していて、思い残すことはあまりないです。

とはいえ、もうすぐ期末試験の波が押し寄せてくるので、これからが最後のひと頑張りです。


今週も研究室内の話をしたいと思います。

アンドリア、以前の留学記で紹介した博士学生です。今週の金曜日、彼女の博士課程の集大成である卒業論文の答弁がありました。それが無事に終わり、学生のアンドリアから、Dr.アンドリアになったことが今週の一番めでたいことです。

卒業論文の答弁ってなんだ、という人。僕も初めて聞いた時はよくわかりませんでした。ザックリ言えば、博士課程バージョンの期末試験です。プレゼンを使って博士課程5年間の成果を発表し、それをその大学院の委員会メンバーが質問や審査とかをして、最終的に学位をもらうという学生生活最後の関門です。

この一大イベントを、僕はアンドリアの隣の席で準備から祝賀会までひそかに見届けていました。良いタイミングでアメリカに来たなぁって思っています。


12月からコツコツと書き始めた卒業論文は4月上旬に完成し、アンドリアは次に、答弁でのプレゼンテーションに使うパワーポイント作りを始めていきました。

ニューヨークにあるこの大学で、僕は2学期間しか授業を取っていませんが、ほとんどのクラスで教授はパワーポイントを使って授業をしますし、学内ネットにもそれをアップロードしています。僕の感覚では、ここで見るスライドは日本で取ってた授業で見たものより、視覚的にキレイな気がします。写真の解像度が高いという話ではなく、文字とヴィジュアルのバランスが整っていて、見やすい。どの教授もパワーポイントの使い方には気を使っているんだなというのが分かります。

そんな大学の大学院での答弁なので、スライドの見せ方や発表の仕方をすごく見られるそうです。初めはアンドリアはどう作ろうかめちゃくちゃ悩んでいました。卒業論文を書くことと違って、限られた時間の中で成果をまとめ、かつ聞いている相手にわかりやすく伝えるのはほんとに難しいことだと思います。

5月3日が答弁の当日。それまでに、アンドリアはより良いものにしようとラボメンバーを呼んで、2回もの予行演習をしてきました。

1回目は4月23日。GPCRメンバーと勝手に呼んでいますが、予行演習で集まったのはアンドリア、もう一人の博士学生オマー、あと僕の三人。一人だけ学部生という場違い感を覚えていたのはラボに入った最初の頃で、今は気まずさは感じず、ただただ感じるのはまだまだ届きそうにない二人の人柄の良さと経験の深さです。

予定の45分間のプレゼンをほぼ45分ジャストで終わり、時間の調節は完璧でした。でも、その場にいたみんなが分かっている通り、5年間のデータを45間のプレゼンにまとめるのはほぼ不可能です。いかにその中でストーリーを作りまとめるかが大事になってくるんだけど、それが難しい。この日のプレゼンの結論部分はデータが散らばっていたせいか、僕にとって全体像が見えづらかったです。

3人でプレゼンについて2時間ほど話し合い、お互いが思ったことを伝えました。アンドリアに身になってみれば、時間をかけて作り上げたものに対してはそれなりの理由と自信があるし、意見を難なく受け入れるのは簡単なことではないです。ぼくもそう。人の意見を素直に聞き入れるのはいつも難しいです。その日、ラボを去るアンドリアは少し消化不良に見えました。


その一週間後の4月30日、今週火曜日。2回目の予行練習であり、今回はラボメンバー全員とボスが集まりました。ラボメンバー全員と言っても、6人の小さめのラボです。ボスの奥さんが作ったチョコレートケーキをみんなで食べてから、プレゼンが始まりました。(この手作りケーキまじで美味しかった)

ぼくとして一番驚いたのは、同じプロジェクトを進めていたオマーの意見は当然、未熟者の僕の意見も反映されていました。後半の流れはガラッと変わり、一週間前のプレゼンとは見違えるものでした。

人が増えれば、同時に、意見も増える。また、この日はアメリカらしいワンシーンを見た気がします。

アミロイドというタンパク質の研究しているラボ内のもう一つのグループとボスから全く忌憚(きたん)のない意見が次から次に挙がります。僕にとって新しかったのは、彼らの口から出る意見は、いつも「気持ち」のコメントから始まっていました。

I like your explanation! 
...
I'm confused with the position.
...
That's beautiful! I love that part!!

そしてどの指摘も的を得たもので、僕も大変勉強になりました。なるほど、プレゼンに対して良いアドバイスの出し方は、聞いてる時に、スライドのページ番号とそれ見た時に”感じた”ことをメモればいいのか。なんでそんな風に感じたかをプレゼンが終わった後にスライドを一緒に見ながら分析すれば、的確な意見を出すことができる。

そして圧倒的にloveの意見が多いのも、アメリカのスタイルかもしれません。

プレゼンにかかった時間は43分で、今回も時間配分は完璧でした。ボスはアンドリアに、本番当日は時間を気にせず、委員会のメンバーに説明することだけに集中すればいい、とアドバイスを送り、その日は終わりました。


今週金曜日、5月3日。答弁当日です。

アンドリアの家族、友人も集まり、その瞬間を見届けていました。アンドリアにとって人生初の博士過程の答弁ですし、僕にとっても博士答弁を実際に見るのは初めてでした。

始まって最初は緊張の色を見せていたけど、だんだんと彼女もノってきて、後半にかけて完璧なプレゼンだったと思います。火曜日のものよりさらに磨きがかかっていました。色眼鏡を一切かけない彼女のフレキシビリティにはいつも心から尊敬します。

プレゼンの最後には、acknowledgement(謝辞)が加えられ、家族への愛が詰まっていました。

アンドリアは二児の母で、子育てと同時にこのロドプシンの研究をしています。またこんな話も前に教えてくれた。ボストンにある大学にも行けたが、ニューヨークに残ったのは、ニューヨークの方が人種に多様性があって心地良く研究できるから、と言っていました。彼女のオリジンは西アフリカで、アメリカでは人口としてはマイノリティの方ではあります。この博士課程の5年間、大変なこともきっと色々あったと思う。

謝辞でスクリーンに映る家族の写真を見ながら、そんなことが頭の中でぐるぐる回り、いつの間にかぼくの目の前がゆらゆらし始めました。

答弁は無事成功に終わり、その日の晩、みんなでお祝いに外食しました。めでたいめでたい。

本当におめでとう。Congratulations, Andreyah!!!

ところで、表紙の写真。雨の日曜日に研究室に来たはいいけど、誰もいないので、調子に乗っているところを撮りました。普段はベロを出していないです。

君に幸あれ!!!