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2021/03/02 風と風味と。

目の前に酒がある。酒を飲む。何かを思い出す。空想と現実を行き来するような感覚になる。

このとき空想は思い出で現実が酒だと断ずることは早慶だろうか。たぶん、早慶ではないだろう。そうだ、早計だ。

ゆらゆらと動く視線、眼球にかぶさる瞼、淡い光景が戻ったりまた酒を飲んだり、酒が淡くなったり光景の色が鮮明になったり。

早計だ。

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話は飛ぶけれど、サカナクションの曲に「バッハの旋律を夜に聴いたせいです」というものがある。タイトルからして印象的。途中に印象的なフレーズのリフレインがあったり、唐突なクラシックのピアノ曲のフレーズが挟まれたりとわりかし冒険的な曲だ。

こんな感じのやつ。途中の人形ダンスも印象的ですね。なんか20kgくらい重さがあるとかないとか。たいへんたいへん。

まあこの曲がとってもいい曲なのは自明の前提として、すげーいいフレーズがある。

気まぐれな君の色
部屋に吹くぬるいその色
壁が鳴り痺れるチェロ
すぐに忘れてしまうだろう

今日休日だったから家族とドライブしてたんだけど、これがカーステレオから流れ出しまして妻やわたしがちょいちょい口ずさむ、と。

で、妻がこのフレーズを間違えた。「その、い~ろ~ 風が鳴り あ 風じゃない壁か」って。

確かに間違ってるけど、この間違いには山口一郎の見えざる手がはたらいてる気がしてならん!

前の一行で「~吹くぬるい~」ってある。だから、だからっていうのも乱暴だけど、ここは「風」って言いたくなるのよ。ここはね。

この反応狙ってたんじゃないのか、って思うのよね。ここのフレーズめっちゃ技巧的なのよ。

「気まぐれな君の色」って、ナンセンス風素敵詩的フレーズにも思えるけど、「色」を古語で捉えると意味通るのよ。「色」→「表情、態度」とかって意味あるから。

気まぐれな君の態度、表情が部屋の隅々までいきわたっているような、みたいなね。流行りの言葉で言えば、これは領域展開です(違うよ)。

「部屋に吹くぬるいその色」、っていいよね。ぬるいんだよ。怒ったりしてるわけじゃない。ファムファタールが持ってるやつだよ、たぶん。勘違いしちゃうやつさ。誰しもが。惚れた誰しもがよ!

「壁が鳴り痺れるチェロ」、ってこれ逆な!物理的にはチェロが鳴って壁が痺れんのよ。明らかに。風と言い間違えさせるトラップに加えて物理の作用する側とされる側を入れ替えて異空間にしちゃうんだよな。すげえよ。

「すぐに忘れてしまうだろう」、ってそりゃそうだ。上記の表現、単なる技工ではなく「実際にこんな感じだった」ってことだとすれば、それだけ「色」の影響で脳内かき乱されてるって感じだろうからね。

ここのフレーズ、なんともエロティック。すげえよな。

しかしな、こういった技巧が表に出すぎている。初期は特に。「ネイティブダンサー」にあった「そういう気になって」と「そう 雪になって」の同音異義の掛詞とか。

技巧は表に出なくなってからが恐ろしい。そういう意味では、比較的最近の「ナイロンの糸」や「忘れられないの」とかのほうがずっっっっっっと恐ろしい曲になってるんだと思う。

が、当方の力量が足らず、「すごいんだろうな」の推量にとどまりたり。とどまるらむ。(古語よくわからん)

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目の前のものを「実」と捉えて頭の中のものを「無」と捉えるのは安直だ。見えなくなってからが物事本当に怖い。見えないものを見たいもんだ。それを時に「実」だと思ってしまうくらいに。酒にかぶりついたときに、たまにその風味はコンクリートの塊より固く重く舌と胃を喜ばせ苦しめるもんだ。

「風」味は「実」か?それとも「無」か?

今宵も風が鳴り、我が胃は痺れにけり。了。

酒と2人のこども達に関心があります。酒文化に貢献するため、もしくはよりよい子育てのために使わせて頂きます。