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五厘について

五輪開幕を控える今日この頃。誰と話しても今だに開幕ムードがないという話になる訳だが、やるからには安全かつ良い大会になることを祈っている。

五輪と聞くと、元野球少年の僕は「五厘」を思い浮かべる。ここでいう五厘というのは長さの単位である。

野球部の古来から続く慣わしとして、部員皆坊主というものがある。正直、この慣わしが野球離れを加速させている気がしてならないのだが、我が野球部でもこの慣わしがあった。

世間一般的に見れば、坊主は坊主であり、一様に同じものだと思われている。ただそれは、野球部に言わせれば若干間違っている。坊主にも長さという違いがちゃんとあるのだ。ここで登場するのが「五厘」である。

坊主にする際には、通常バリカンを使用する。バリカンには仕上がりの長さを調節できるアタッチメントがある。それを使い分けることにより、長さを自由にいじることができる。

野球部では気合の入り方が具現化されたものが、坊主の長さであるという謎の風潮がある。要はより短い長さの坊主の人間の方が気合が入っているとみなされる。主に「五分刈り」と「五厘刈り」の2種類が代表的なのだが、短い五厘刈りの方が一目置かれる。

五分刈りは、いわゆるよく見る野球部の坊主の長さで、まだ可愛げがある。一方で五厘刈りはと言うと、ほぼ不毛地帯と言っても過言ではない。一休さんを想像して欲しいのだが、遠くから見ると青く見えるレベルの短さである。故に五厘刈りは圧倒的にモテない。

皆坊主の野球部では、大半が五分刈りを占めている。そんな中で決まって数名は五厘刈りでキメている猛者がいる。中学生高校生の思春期の頃である為、五厘刈り=僕の青春は野球に捧げます。的な意思表示をしていると見做され、監督コーチ陣からのウケは抜群に良い。

僕は五厘刈りにしたことがなかったが、五厘刈りの友達が何人かいた。彼らからは、風呂に入った後、頭を拭かなくていいから楽だとか、汗を拭うタオルが頭に引っかかるだとか色んな武勇伝を聞いていた。

そういえば、中学時代の同期で炎天下の中を一日中歩く校外学習の前日に五厘刈りにしてきた奴がいた。彼は強烈な日差しを一日中ほぼダイレクトで受けた為、翌日は頭皮がめくれにめくれて半泣きになっていた。(その反動か分からないが、今の彼は長髪を靡かせてホストをやっている)

思えば、野球の打率は○割○分○厘という単位で表現される。分や厘という単位は、野球以外で聞くことはほとんどない。髪の長さも○ミリと表現していいと思うが、今だに五分だとか五厘だとかと表現される。不思議な慣わしである。

現在、甲子園の地区予選も全国各地で日々行われている。五輪を控える中で、全国各地で五厘達が躍動している。


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