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ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

32   指南カフェ

左後ろの席から聞こえてくる会話が気になる。
一人の中年男が同じく中年の男女2人に何かの指南をしている。
「年金・・・」
「不安、・・・」
「あやしまれたら・・・」
「楽しい気持ちにさせる・・・」
「一回引くってのが大事・・・」
「あなたを誘っているのではないという・・・」「私があなたをだます人間だとおもってんの?とか・・・、」
「そこはオブラートに包んで・・・」
「月3人とか・・・、そこは目標設定して・・・」

宗教ではないらしい。
会話の内容は聞き取れず、わずかなフレーズだけで推測するに、金に絡むことは確かだ。
3人の雰囲気や声のトーンはとても明るくいかにも善人風。人を騙そうとするひそひそとした陰鬱さはなく、悪意の欠片もない。彼らはだますというより、何かのゲームを楽しむかのように会話をしている。
やがてそこへ後からやってきた2人が加わり、ケラケラと笑を弾ませ、ますます話が盛り上がっていった。

仙台に数店舗あるカフェベローチェではこうした会話をよく耳にする。
客層の幅が広い。5割ほどは何かの勉強している学生だが、残りの5割の内訳は、おしなべて中高年、残りはビジネスマンといったところだろうか。店内に喫煙スペースがあるというのも今では珍しい。
座席の間隔が狭く、会話している人の声が否応なく耳に入ってくる。これが、同じカフェでもスタバやドトールとなると少し違う。
2年前、資格取得の勉強の際カフェを散々色々出入りしていた時の分析をもとにすると、スタバでこうした雑多な会話を耳にすることは少なく、どこかよそよそしい和やかな会話がちらほら聞こえてくるだけだった。ドトールは会話をしている人はもっと少なく、コーヒーを飲むという目的を果たすことが主眼の人たちがほとんど。

株や投資の指南、業界の裏事情、採用の面接、保険の案内、啓発セミナー、住宅ローン。
いずれも、生きていく上の生々しい切実な話。
こうした生の情報はメディアや普段の暮らしのではなかなか触れることがない。

普段何も考えないで生きている自分に刺激を与えるため、こうした話を聞くのを目的にして私はよくベローチェに入る。

(なるほど、ネットワークか)

二杯目のコーヒーを注文して席に戻る時、耳に入ってきたワンフレーズで盛り上がっていた5人の会話の中身がようやくわかった。


冬晴れの午後。

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