24    採集日

６月某日。晴れ。気温が高い。汗ばむ陽気。河原。丸い手のひらサイズの小石。２０個ほど。
６月某日。晴れ。気温が高い。吹き抜ける風。某デザイン事務所。置いていたイベントで使ったゴミ。ダンボール一箱。
６月某日。晴れ。風が心地よい。亡くなった美術作家のアトリエ。絵の具や画材、創作で出たゴミのようなもの。ダンボール３箱。
６月某日。くもり。湿気が高い。実家の六畳。昔書いた絵の残骸。植物図鑑。
６月某日。晴れ。心地よい晴天。海辺。流木、プラスチック、錆びた鉄クズ。
６月某日。くもり。少し肌寒い。神社の社務所。イベントで使った飾り付けで余ったゴミ。
６月某日。好天。河川敷。種をつけた草、蔓。

「ゴミのようなものを集めてきて、それを素材にして即興で創作して、交換する」という思いつきを発したのは、ちょうど先月の中旬頃。
前回のイベントが終わり、少しずつ片付けていた部屋は、それからリバウンドどころか、さらに爆発的な増殖を続け、今、もはやカオスの域に達している。
採集日と題し、休みの日や仕事の合間に出かけて行っては、ゴミのようなものを集めてくる。それから触発されたもので夜な夜な造作をする。
今回の企画は、私の創作の軸のようなものである。何かを触媒のようにして、発想を広げていく。そうすると発想がとめどなく溢れ、やればやるほど広がっていく。
しかし、この創作方法、自分としてはこの上なく面白いのだが、ここにきて突如問題が起こった。
昨日の朝のこと。
歯を磨きながら久しぶりにテレビをつけてボーッと眺めていたら、画面に映っているタレントの名前が出て来ない。
CMに代にわる代わる画面に登場する顔。それらはよく知れているのに、名前が一向に出て来ない。たまたまその人物一人ではない。出てくる人物の名前が続けざまに出て来ないのだ。

制作の最中は普段と違ったところが働くらしく、イベントなど期間を決めてやるぶんにはいいが、普段の生活で日常的に制作モードになることはそれなりのリスクを伴う。であるからして、制作は時間を決め、仕事に支障が出ないように調整はしている。
しかし、約一ヶ月以上、常に何かが頭の中で蠢いている状態でいると、その調整も知らないうちに無理が生じてしまっていたらしい。
私の頭は容量が少ないせいか、一度にいろんなことを整理したり、切り替えたりするのが難しく、容量を超えると、いわば脳内で混乱、混線が生じてしまうのである。
以前はそれがわからず、生活にも支障をきたすため、制作の類は余裕がないとやらないようにしていた。しかし、余裕がないとやらないと、余裕ができてもやらないということになる。調整を取りながら制作をするためには、何か条件づけが必要となる。そこで、イベントや依頼などをきっかけにすれば、ある程度制限や期限もあり、否応なく取り掛かかり、否応なく終わる。ということになり、この方法を自分なりに採用していた。
今回の試みは、そうした否応なさを日常に取り入れ、アートワーク的な視点や思考を発揮してみたらどうだろうという目論見があった。そしてそれがなんとか上手くいきそいうだと思っていたところだった。
しかし、ここにきて、昨日の記憶障害のような症状。これには正直驚いた。採集で出かけたことや制作でやったここ数日のことははっきり覚えている。制作はとめどなく、次々に思いつくまま手を動かす。それがきっかけで、また次の発想に人がつく。
しかし、その代わりに、少ない容量しかない私の脳は、必然的に必要ない部分を圧縮、削除していたらしい。
テレビの画面を見ながら
（これは、どういうことだ・・・）と冷や汗を感じながら、固まってしまった。
昨日は午後から仕事だったため、午前中に残りの制作をやりながらも、出てきたタレントの顔を浮かべながら、名前を思い出そうとしていた。
しかし、出そうで出てこない。調べればいいという問題ではない。
一体、頭はどうなっているんだと思いつつも、生活で大きく支障をきたすこともこれといってないようだ。
しかし、気持ちが悪いもので、午後に差し掛かり、先日まで暴発的だった制作意欲の火がだんだんしぼんでいることに気づく。イベントの日が迫り、少し整理をしながら、やがて、思い出そうということも忘れていると。
（あ、まさみ、か！）
とやっと一人、下の名前を思い出した。
（久本じゃない、なんだっけな）
と上の名前を思い出せないまま顔だけは浮かんでいる。
（サンドイッチマン。伊達ちゃん、富沢までは思い出したが名前が出てきそうにない）
午後仕事に出る。仕事は支障なくできているから、そこは必要とだと、圧縮していないところなのだろう。
深夜仕事を終え、車に乗り込んだとき、
（あ、長澤だ）
とやっと一人、名字が出てきた。
その後また一人、顔を浮かべながら、なんとか名前を思い出そうとする。
（ま、ま？がつく？）
（違うな）と自問自答。
CMにでている顔はもう浮かんでいるのにでてこない
（み、さと、さとみだ）
（あーと、石原さとみ）
ぽつぽつと出てくる。
（すず、ずず、だ。姉がカタカナだった）
（広瀬、広瀬、あ、アリス）
１日かかってようやく出てきた名前。

帰宅後、風呂に入って、昨夜は制作は控え、やることだけを紙に殴り書きして、早めに寝る事にした。

イベントは明後日である。