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ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

28   ベリーライトトリップ 

夜半雨が激しくなった。

8月28日午前0時18分。
ネット検索。瀬戸内国際芸術際2022。
サイトを開いてすぐ何故か調べるのも面倒く味気ないので、すぐに閉じる。
一昨日、飛行機のチケットは取った。
行くことは行くが、それ以外はノープランである。

ベリーショートトリップ。夏休み特別企画として、ちょと足を伸ばし、瀬戸内までライトトリップとすることにした。
目的は瀬戸芸を見に行く事ではない。見ることは見るが、夜勤明けで2泊3日の日程では点在する作品を巡ることはほとんどできないだろう。
しかし、目的のない旅ほど虚しいものはないことを知っている。かつては野宿をしながらあちこちふらつくことをよくやっていたが、40を過ぎて放浪と言うほどの気分的な余裕はない。
だいぶ前から香川に移住した幼馴染のAに会いに行こうと思っていた。しかし、なかなか実行できず、そのうちがまたそのうちになり、どうしようかとAに連絡した。今回もまた来月あたりと思いそうになったが、それではまた埒があかないので[じゃ行ってみるわ]と、唐突に行くと決めたのはつい一週間前。
そんなことで、今回は旅行後の旅日記ではなく、スナップ写真のように、旅上で目にしたものを都度書いていこと思う。

随時編集更新していく形となる。

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明け方まで激しく降り続いた雨は小ぶりになったが、雲は厚く、空は晴れる様子はない。
定刻に退勤し、家に帰りシャワーを浴びて急ぎ荷造りをする。大した荷物はではない。
ふと鉢植えをみると、例の青虫君、蛹になったのが丁度アゲハに羽化してた。クロアゲハだった。残念ながら7匹いた青虫君のうち無事に蛹になれたのはこの1匹のみ。1匹は行方不明だが残り5匹は蛹になる途中で失敗し死んでしまった。残り1匹の無事の羽化を祈る。

10時過ぎ早めに家を出る。

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10:30仙台空港着。
搭乗手続きを済ませ、3階のカフェで朝食をとる。筒状の建物に沿って湾曲した壁ガラスをなでるように雨水が流れている。曇った窓の向こうに滑走路が微かにみえる。ANAの青いラインが霞の中に着陸した。
隣の席のご婦人2人はホットサンドを頬張りながら愉快なおしゃべり。

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11時保安検査。
数年前名古屋空港で2時間近く前に搭乗手続きを済ませたにもかかわらず、飛行機に乗り遅れるという失態をしでかした。搭乗時間を待ってのんびり過ごした後、20分前に荷物検査に並ぼうとした。その時どやどやっと団体客に割り込まれた。
まだ余裕があると思っていたのも束の間、アナウンスでどうも自分の名前が呼ばれているようだ。それでも荷物検査に並んでいるのだから大丈夫だろうと思い10分ほどしてゲートをぐぐったが、搭乗口は通路の一番奥にあった。まだ出発時刻ではいため、大丈夫だろうと思いつつも200mほどの通路をひた走る。ようやく搭乗ゲートまで辿り着こうとした瞬間、「お客様、もう搭乗を締め切りましたので、お乗りできません」と差し止められた。
「え、でも、まだあそこに」といいかけてまだ飛んでない乗るはずの飛行機を見つめるが、やはりダメなものはダメらしい。
搭乗20分前までに手続きを済ませるとは、荷物検査を終えるまでのことを行っていることとその時はじめて知ったのだった。

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11:10荷物チェクをすんなり通過と思いきや、
「お客様、リュックの中身を確認させていただいてよろしいですか?」と不意打ちをくらう。
「はい」
何も持ってきてないはずだか、
「筆入れにカッターのようなものはございませんか?」
そういえばスケッチでもしようかと筆入れ色鉛筆と一緒にカッターを忍ばせておいたのだった。
カッターを没収され、幸先の悪いスタート。
11:35 peach136便搭乗。

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機内では目のやり場に困る。
左斜め前おじさんはずっとスマホにため込んだ写真をスクロールしている。
ゴルフ。山登り。城めぐり。旅先での奥さんとのツーショット。娘の結婚式。孫、孫、孫。
絵に描いたように幸せなそうな定年。

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着陸。
関西空港第二ターミナルは海上埋め立てちにあり、あたりは殺風景な荒野が広がるばかり。
CAさんがアナウンスで「お降りの際は強い海風にご注意ください。帽子やスカーフだけでなく、大切なお土産さえも吹っ飛ばされてしまいます」。と、慎ましやかな面持ちで「吹き飛ぶ」ではなく、「吹っ飛ぶ」と言ったからにはよほど注意が必要なんだろう。
機体を出ると確かに生暖かい風が吹きつけた。

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11時10分関西空港着。
悪天候で大分揺れたのと不眠も相まって少し酔った。
ずっとスマホでおっさんずらぶを見ていた右斜め前の女性はしきりに咳をしていた。咳だけなら気管系の疾患とうこともあるだろうが、鼻をすすり時折くしゃみがでた。明らかに風邪症状のようだ。別に気にしてはないが、防げるに越したことはないと思い、空港でトイレついでに鼻うがいをする。

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関空から高松の行き方は調べていなかった。バスが出ているらしく、窓口で尋ねると、高松行きは現在運休とのこと。
神戸三宮経由で向かうことになる。
14:27発。
前から三番の座席に座る。後ろの座席に座った父娘がずっと話をしている。
「決まりというか、そういう制度というか、学校は私の事情をしらない。体がもたなきゃ意味ないじゃん」
声の感じからしてまだ小学生だと思う。随分ませた感じである。
「おばあちゃんとこないだうなぎたべた?」
「うん。うなぎって冬に売ってたって知ってる?それが、夏にも売れるように土用の丑の日を作ったらしいよ」
「それって平賀源内がつくたんやなかったかな」
「人形浄瑠璃の?」
「それは近松門左衛門やな」
「南総里見八犬伝」
「あ、出たでた」
「曲亭馬琴な。これNHKでやっとたやつ。ある時殿様が戦争してな、敵の首とってきたやつに娘をやるゆうてな。そしたら犬が敵の大将のとこ行って首とってくるゆー話や。その犬をな、確か結局殿様が切り殺してしまうんよ。
それからいろいろあって、なんやったかな、八つの玉を集めてきて、願い事かなえるんやったかな?
とにかくむっちゃ長い話やね。
「それってドラゴンボールじゃない?」
「まあ、ソースにはなとるやろな」
どうも賢いんだか何だか分からない父娘の会話がその後ずっとつづいていく。

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バスは湾岸線に沿って阪神高速を南下。
阪神工業地帯を突きねける。要塞のような複雑な配管を施した巨大工場群から、やがて巨大な倉庫群。立ち並ぶ巨大クレーン。貨物船が停泊する広い河口つなぐ橋をいくつも越えると、いつの間にか食品関係の工場が目立つようになった。後ろの父娘の話は何かにチューブの生姜を乗っけて食べるとおいしいと盛り上がっているが、その何かが聞き取れなかったために、気になってしょうがない。
ぼんやり高速の標識を見送っていると、芦屋という文字が目に入ってきた。
日本の高級住宅地のトップを誇る芦屋。窓の外には、山際から中腹にかけて遠景にもタダならね気配を醸し出す住宅街群がのぞいている。ただでさえ庶民離れしたこの芦屋にあって、芦屋の人でさえ気軽に立ち入れないほどの超ーセレブな一帯が山の上方に位置する六麓荘地区である。私はこの六麓荘の超セレブなご夫人と、かれこれ15年近くお歳暮のやりとりをしている。
四国遍路でほんの数時間一緒だったたけだが、その後もハガキのやりとりをつづけ、毎年さくらんぼを送るようになった。
初めは芦屋の六麓荘というところが、それほどの富裕層が住むところとは知らなかった。
遍路中に話した様子もすごくきさくであったから、普通のおばさんと思っていた。しかし、葉書に添えられる写真の出立ちがただならないのである。何か怪しい商売か何かしているのかと初めは疑ったほどだった。ある年ご主人と世界一周クルーズに行ってきたという写真が送られてきた。
その後しばらくして、ご主人を亡くされたとの葉書が届き、ずっと闘病していたという内容が書き添えられていた。
四国遍路はご主人の病気平癒を祈願するためのものだったらしい。
その後も、東日本大震災の時や一昨年の水害に際しても沢山のお見舞いをいただいた。
今は保護猫8匹を引き取って暮らしているという。慈悲深いお方である。会ったのは一瞬だが不思議な縁がつづいている。

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三宮に着く。
駅前の高架橋が人で埋め尽くされている。近づいてみると赤青黄緑など原色のハッピのような衣装を着た男子アイドルグループがパフォーマンスをしていた。どこか昭和感がある。「みなさーん今日はあーりがとうーございましたー」真っ白い顔のお人形さんのような少年たちに一斉にうちわを振る人々。
三宮駅は開発が途上で駅前は複雑に通路が入り組んでいた。どこかで休憩したいと思ったが、高松行きのバスターミナルを探すのに手間どり、コンビニでコーヒーを買うのがやっとだった。飲み終わったコーヒのカップを手にしながら捨てる場所に戸惑っていると、トイレ掃除のおばさんが「ゴミ捨てときましょかー」とさりげなく引き取ってくれた。
15:25高松行き高速バス乗車。先を急ぐ。

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三宮発15:25高松行き高速バス。
明石大橋を過ぎるころ、傾きかけた陽が海面のさざ波に照り返し、チラチラと光っているのが見えて来た。
出発して40分ほども立たず、バスは10分間のトイレ休憩のためパーキングで停車。
外に出ると、高速道路のすぐ下に白波一つないまるで青い砂地のような真っ平らな瀬戸内の海が広がっている。
再度発進したバスは夕日に向って海と山の間を縫いながら進んでいく。
高速の中に停車場があり、約10分間隔で「次降りる方いおりましたら止まります。おしらせがなければ通過します」というアナウンスが流れる。進んでは停まり、停まっては進む。バスといより電車のような感じだ。


それにしても、山々の緑が鮮やかすぎる。
空にはいくつも筋雲が走っていた。

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17:55。予定より遅れて高松市内に入る。
三宮バスターミナルで詳しく聞けばよかったが、もしかしたら後発の近鉄バスに乗れば、この各駅停車バスより早くついたかもしれない。
あまりバス旅に慣れておらず、思いの外時間と運賃を食っている。
そして頻尿の私は終点まで持つかどうか。
車両にトイレがついていたのが救いだった。

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夕日が海に照り返して駅前のビルの壁が揺らめいている。
目の前が海の高松駅ビルは背景が切り取られて空に切り貼りされたように見えた。
夕暮れの駅前広場、イベントの機材を片付ける障害者。「あせらんでええよ、ゆっくりやったらええ」と気遣う支援者。
海風が瀬戸芸の青い幟旗をゆらしている。ガラス張りの展望デッキの灯りが暮れゆく空に映えている。海が反射版のような効果を与えていて、この辺りは光度が高く、いつ来てもどこか眩い感じがする。
Aに連絡。
30分後待ち合わせ。
昨日予約したビジネスホテルに向かう。

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駅から歩いて15分。アーケード街をねけたところの片原町にあるビジネス。細長い6階建ての古びた建物が今夜の宿だ。
2階の入り口のドアを開ける。
フロントは閉まっていた。
カウンター脇に受話器が置かれおり、チェックインの方は通話ボタンを押してくださいとある。
しばらく呼び出し音が鳴り続け、やっと応答があった。
「ご予約されていた方ですね。受話器の下に鍵が入っている金庫があります。番号を言いますので、開けてください。」
言われた通り番号を合わせて金庫を開ける。
「明日チェックアウトされる時には、カウンターの左の隅にある穴の中に鍵を入れてお帰りください。外に出る時は鍵を持っておでかけください。何かご質問はありますか」。
「いや、別に」
「それではどうぞごゆっくりお過ごし下さい」
非接触時代。これが成立するとこれでいいような気もする。
星新一のショートショートの世界に紛れ込んだような気分で3階の部屋にはいる。
四畳半の方形の和室。窓を開けるとすぐ向かいは賃貸マンションのベランダで大量の洗濯物が干してあった。
荷を下ろし洗面台で顔洗い、鍵を無くさないように、首から下げたカードケースに引っかかっけ再び外へでる。

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19時過ぎホテルの近くにあったスーパーマルナカでAと待ち合わせる。
横断歩道を挟んでお互いに気づいても何となく照れ臭く、どう挨拶したらよいかわからない。
アーケード街を歩きながら近況を話し、どこに入ろうかと店を素通りしているうちに段々店が少なくなり、どこにでもあるような中華屋に入った。
中国系の人が経営しているこうした中華屋は店は違うか味はにており無難にうまい。うちの近所にもある。
鶏からと、鳥のピリ辛炒めと、餃子二皿を注文。Aは飲めないが、私はジョキ2杯飲み1時間半ほど話し、その後別れた。
明後日再度会い、神戸まで送ってもらうことになった。

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1人でもう一軒くらい行こうと思ったが、不眠であったことを思い出し、スーパーでカレーヌードルを買いホテルに戻ることにした。
が、歩いてしばらく、来る時に見ない店ばかりが並んでいることに気づく。逆方向に歩いていると知るには大分進みすぎだ。
22時前ホテルに戻る。風呂は22時までだったから急いで浴場に向かう。電気がついておらず湯に手を入れてみる。沸いていない。
シャワー室向かい熱い湯で体を流す。
フロント脇にあったポットにカレーヌードルのお湯を貰いにいくが、お湯が入ってない。水を入れコードをセットしてスイッチを入れ部屋に戻る。10分後戻ってポットからお湯を注ぐ。沸いてない。水のままだ。壊れている。
何かないかな、とあたりを探すと、iHヒーターが置かれている台の下にでかい鍋を見つける。水に浸されたカップ麺をそれにそのまま移して煮る。
部屋に戻りヌードルをすすりながらテレビをつける。バトミントン山口、優勝。
23:30就寝。



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