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ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

25   バナダンと明け天


バナダン。といっても誰もピンとこないだろうが、私の中ではだいぶ前からこの呼び方が定着している。

アフリカの友達の名前のような呼び名は、何のことはない、バナナが入っているダンボールのことだ。

さて、前回紹介した例のイベントの概要は次のようなもの。

昭和期の闇市や夜店のように、ござを敷き「作物」を並べる。
「作物」とは、
売るほどでない作品。
制作過程で出たような作品未満のもの。
既製品だが何かしら手を加えたもの。
実家にあるような、何だかわからないお土産のようなもの。
ちょとした造作物。など。
これら作物を並べておき、お客さん、作家を交え、交換を行う。
来客は気になった作物があったら、自分で何かを造作するか、持っているものと交換する。
価値観やセンスの交換をテーマとして、名刺がわりに作物を交換する。
ブースは竹組みに葦簀を張る程度にし、初めから作り込まず、参加者と一緒に素材を飾りつけながら、徐々に出来上がるようにする。(過程を写真として残す)
である。

制作のための素材は、余った紙、布、毛糸類、プラごみ、端材、石、木、竹、ダンボールなどゴミのようなもの。
約一ヶ月かけて集めてきたこれらの素材が部屋中にちらばっている。これまで即興で作った制作物と共に、取捨選択せずに、とにかく気になったものは何でも持っていくことにした。画材、道具、展示のための小物などを含めると相当な量になる。

かねてより、これらを入れるものはバナダンしかないと思っていたが、なかなかそのバナダンを取りに行く時間がなかった。
イベント前日は夜勤で当日は明けで直行する予定でいた。
夜勤の日中は時間が取れるが、全く寝ないということは控えたいため、動けるのは夕方までである。
午前中は実家に葦簀を借りに行く予定にしており、そのついでにどこかスーパーによってバナダンを調達し、その後、荷物の詰め込み、いわば出荷をする算段でいた。
早朝から素材を整理し、スーパーが開く時間に合わせ、9時ごろ車を出す。まず、近くのヨークベニマルに行ってみた。予想通りない。最近ダンボール置き場にバナダンを見かけないと思っていたが、やはりなかった。数年前は当たり前のようにあったが、もしかしたらダンボール置き場には出さず、裏で処分してしまっているのではないかと思い、サービスカウンターに行って聞いてみる。青果担当に内線をかけて確認してもらったがやはり今はないという。
時間がないので、次の店へ。しかし、コープ、イトーチェーン、マックスバリュー、別なヨークと回ったが全てスカ。確認してもらったが、出ることには出るが今はないというのだ。

バナダンというのはただのダンボール箱とは違い、特殊な構造をしている。
大きさは縦横40×50高さ20cmぐらいで、そこそこの容積がある。昔の葛篭のようにように入れ物に蓋を被せる構造になっている。左右にちょうど手をかける穴が開いて持ちやすい。蓋と容器の底の中央は10×30cmほど開いており中が見えるようになっている。海外から輸入されるとあって、かなり丈夫に作られているこのバナダン。バナナよりも高くつくのではないかというほど良くできた代物だと思う。バナナを降ろした後はすぐに処分されるのは勿体無いくらいだ。この箱を私は服を収納するのに使っているが、着るものを減らしてだいぶ処分してしまい、今押入れには2つしかのこっていない。以前このバナダンはかなり種類があって、海外の英字のロゴなどかっこよく印字されているのが多く気に入って使っていた。

昼近くになり、一度実家に寄り、葦簀を積み入れ、その後また何件かスーパーをはしごしたが一向に見当たらない。時間が過ぎる。こうなれば、ただのダンボールにするしかないと思いながら、最後に当たってみた大河原のコープ。少々お待ちくださいと言われ期待薄に待っていると、青果担当のおばちゃんが持ってきたのである。
(お〜バナダン!)
「あ、ありましたか」と思わず声を上げてしまった。
両腕に二つづつ、穴から腕を通してぶらさげて、ごそごそと少し面倒くさそうに歩いて持ってきた「Dole 極撰」4箱を受け取る。
さらに、ダンボール置き場を見ると真っ黄色の平たい箱が積まれているのが目に止まった。「zespri ゴールド」である。大きさは小ぶりだが、蓋がパカッっと扉開きになり、閉じても中央は空いていて中が見える。絵の具、クレヨンなどの画材を入れて並べておくのに丁度よく、頑丈。重ねてても置けるため、(これはいい)と思い、6箱全部貰って帰る。

それから、家に戻ると既に15時を回ってしまっていた。詰め込み出荷作業を急ピッチで行う。
結局、バナダンは4箱では収まらず、服を入れていた2箱を開けて追加し6箱。Zespriゴールドが5箱。その他雑貨やこまものを入れたダンボールを加えた総量はミニバンの荷座席がいっぱいになるぐらいにまで膨れてしまった。
翌日夜勤後すぐに出発するため、その日のうちに全て積み込みを終えておかねばならず、18時近くまでかかった。この時間までくると、仮眠も中途半端で取りづらくなる。一度横にはなったが、やはり頭が冴え、寝に落ちることはできず、20時頃起きだして、手書きの物品リストを再度チェックし、パソコンを開く。エクセルでどこに何が入っているかわかる物品リストを作った。完璧である。


そして、翌日。夜勤が明けて、完徹のまま会場に向かう。

晴天。汗ばむほどの陽気。風が心地よい。

少し遅れて行ったため既に会場は他の出店者が大方設営を終える頃だった。

果物業者のようにバナダンとゼスプリを運び込み、その他大量の物品を並べて、ござを敷く。

さて、いよいよ設営準備となった時、どうも様子がおかしい。
設営といっても、初めから作り込まず、インスタレーションのように飾り付けを行うつもりだったので、そんなに大したことはないと思っていた。が、しかし、大量の物品を前にして、どうも調子が出ない。全く頭が働かないのである。物品リストを見比べながらバナダンを荷ほどきするも、何が何だかわからない。

これ、夜勤明け特有に起こる少しやばい状態。業界の間ではこれをよく「明け天」(明けのハイテンション)という。最近はめっきりなくなったが、若い頃はよくこれがあった。寝ていないせいで気分だけがハイテンションになる。一方、頭は全く機能しない状態。酔っ払っているのと近い。気分は良いが、時間だけが過ぎ、何をしているのかわからないままただ意味もなく動いてしまう。昔は勢いでそのまま遊びに行ったりしていたが、ある年齢からはめっきりそんなことはできなくなった。久しぶりに(明け天だ)と嬉しく味わいながらも、頭はやはり滅裂で当初の予定がすっかり飛んでいる。

そうこうしているうちに、日は高くなり、気温もぐんぐん上っていく。

たまに我に帰り呆然としながら、ダンボールとゴミが散乱したござの上で、何をやっているのかもわからないまま、飾り付けを行う。

結局、あれだけ苦労して集め詰め込んだバナダンの物品の半数はそのまま荷ほどきされることなく、肝心のワークショップもどこに何があるのやらさっぱりわからないまま、時間が過ぎていった。当初の、ゆっくりお茶を飲みながら、それぞれ素材を用いた個性的な作品について講評しあい、価値感やセンスの交換を行うという企画はどこへやら。、後半飛び込んできた子供たちにアクリル絵の具を惜しげもなくぶちまけられ、てんやわんやのまま終了したのである。

まあ、久しぶりにメーターを振り切るようなあの高揚感を味わえたので今回はこれでよしとしよう。

チャンチャン。

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