あいから 4章 〜大好きな彼女が多重人格だった〜

2004年当時、解離性同一性障害は世間に認知されておらず偏見があり「どうせ演技だろう。つらいことから逃げ出したいだけだ」と思われがちだった。

彼女は毎週通院をしていて医療費がかかる。過食嘔吐でも食費がかかり経済的に苦しくなったきた。

障害者手帳があれば医療費が免除されると聞き申請をしたが、疑われているのか驚くほど質問をされ手続きのたびに疲弊してしまう。

りょう達とはコミュニケーションが取れるが、自分らの前に出てこない人格もいるのでカウンセリングは必須だった。

りょうが「名前を名乗らない人格がいるんだよ『ナナシ』と呼ぶことにしよう」

「短絡的なネーミングだな…どんな人格なの?」

「非常にいいにくいけど性的に歪んでいる…」

「事実だから受け止めるしかない…気にするな」

「ナナシもリストカットや過食嘔吐するけど、あいつはそれを楽しんでいる…要するに変態だな」

「悪口をいったらコミュニケーション取れないだろ」

「ナナシは亮介のところには来ないよ。そんな性的に歪んだ奴をゆきや清香、しのぶにも近づけるわけにはいかないから、俺がにらみを効かせてる」

「そしたらナナシと誰がコミュニケーション取るんだよ」

「そのためのカウンセリングだよ」

「先生には話をするの?」

「そうだよ。最近のカウンセリングはほとんどナナシ」

「そっか」

「あいつを守るために性的な被害にあっただろうから安易に責められないけどな」

「そりゃ責められないよ。危害を加える人格も元々『悪』じゃないしな…」

「まぁな。りゅうは相変わらず『私なんか消えればいい』『汚い私』って取り乱してリストカットしたり、過食嘔吐するけど『悪』ではないからな…」

「9歳の子は?」

「俺には全く近寄ってこない。俺は12歳のあいつが俺なのに…」

「よくよく考えるとそうだな。なんか複雑だな…近寄らないのは尋常なく目つきが悪いからじゃね?」

「うるさいな…それゆきにもいわれたよ『おやぶんはめがこわいからちかづいてこないよ』って、ゆきにいわれるとさすがに凹む」

「それも事実だから仕方ないよ」

「笑なうなよ…9歳の子は清香担当。ゆきも赤ちゃん…うわっ…すげー怒ってる…」

「ゆきちゃんって赤ちゃん扱いすると怒るよね…まぁ、コミュニケーションが取れているってことね」

「俺や清香が見ているから、他人に危害を加えるようなことはしていないから安心しな」

「不安がっているのはあいつだよ。自分よりも俺や他人のこと心配するから」

彼女が記憶をなくしている時、ゆきちゃんやりょうや清香が出ていたことを伝えると不安が和らぐようだ。

知らない買い物袋があっても「食材買ってきてくれたのは清香ちゃんかな」

欲しかった化粧品があっても「しのぶちゃんかなおみさんが買ってきてくれたのかな」と、前向きに捉えらるようになった。

「そういや、他に人格っているの?」

「もやもや4人組」

「コメントしにくい」

「人格として形成されていない奴らだよ」

「どういうこと?」

「意思や意識が明確になれば人格になるけど、そいつらはそこまで明確じゃなくてさ。言葉が通じないし」

「なるほどな…『真っ黒』は?」

「隙あらば『真っ黒の世界』に引き込もうとするよ」

「真っ黒の世界?」

「ブラックホールみたいで…俺ですら怖いよ」

「引きずり込まれる感じか」

「イサキさんも真っ黒に備えろって」

「真っ黒とは話はできないよな」

「真っ黒にあるのは破滅衝動、本体を殺したら自分自身も消えるって知っているのに死のうとするからな。自分すら破滅させたいみたいだ。諸悪の根源だよ」

「そいつをどうにかしたいよな。どうすりゃいいんだ」

「亮介といると存在が薄くなる」

「消せればいいけど」

「まぁな…あともう一人『あおば』って奴がいる」

「先生から聞いた」

「そいつは『自分は不要な存在だ。自ら自分の存在を消そうとして何が悪い』とかいっててさ、怒りや悲しみの感情が強すぎて話にならなかったんだけど」

「自己嫌悪が深そうだな」

「新婚旅行から帰ってきたころから雰囲気が違うんだよね。なんか亮介と話をしたそうだぞ」

「おうよ。俺はいつでもウェルカムだ」

「こういうことはやたら強いよな。タンスに小指ぶつけたら大騒ぎするくせに」

「うるさいな」

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