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第322回臨時宗会 総長挨拶

宗会議員の方から総長辞任のあいさつ文を送っていただいたので、ここに共有します。

第三百二十二回臨時宗会 総長挨拶

 ここに第三百二十二回臨時会の開会に際し、宗会議員の皆様には公私ともにご多端のところ、お繰り合わせご出席いただきましたこと誠にありがたく、厚く御礼申しあげます。
 このたび、臨時緊急に招集申しあげました宗会は、ただ今報告のありました通り、総長の職を辞することを決意し、総局員一同総辞職いたしましたことについて、後任の総長のご選出を願うための宗会であります。
 三月二十九日よりご修行になりました親鸞聖人御誕生八百五十年立教開宗八百年慶讃法要は、五月二十一日のご満座をもちまして、五期三十日間の日程を終了いたしました。ご法要へは、国内外より、当初の予定通り七万五千名を超える多くの方々にご参拝賜ったことであります。ご参拝の方々へ実施いたしましたアンケート結果によれば、九割を超える方々より、法要に参拝し、心を打たれたとのお声を頂戴いたしました。尊いご勝縁が盛儀の内に円成と相成りましたこと、これも偏に、宗会議員の皆様をはじめ、各ご寺院のご住職、寺族、門信徒の方々等、多くの有縁の方々の尊いご懇念とご協賛の賜物と衷心より御礼申しあげます。
 ご門主様は、御満座の消息において、「このたびの慶讃法要を機縁として、あらためて「世のなか安穏、仏法ひろまれ」と願われた親鸞聖人のお言葉を深く心に刻み、これからもお念仏を喜び、阿弥陀如来の智慧と慈悲をあらゆる人々に伝えることで、自他ともに心豊かに生きることのできる社会の実現に向け、さらなる歩みを続けてまいりましょう」とお示しになられました。宗門の今後の歩むべき道をお示しいただいたものといただいております。このお心を深く受けとめ、宗門の将来に道を拓き、さらなる歩みを続けるためには、ご法要の円成を機に総長の職を辞し、人心一新を図る時と判断した次第であります。
 加えてこの決断に至りましたもう一つの理由は、私の体調面に関し、主治医より注意を促されたことであります。総長職を拝命して以来、万遺漏なきよう職務を全うするため、常に緊張感をもって健康管理についても留意してまいりました。然るところ、直近の定期検診において、主治医より、当面、安静療養が必要であるとの指導を受けました。不肖八十六歳の高齢、この九月には満八十七歳になります。無理のできない体とは申せ、任期を残しての辞任となりますこと、議員の皆様には、何卒ご容赦賜りますようお願い申しあげます。
 顧みれば、二〇一四(平成二十六年九月十一日、第三百七回臨時宗会において、皆様のご推挽により総長職を拝命してより、今日までの約八年九カ月、宗務の推進にあたってまいりました。この間、ご門主様をはじめとする大谷宗家のご教導と、労苦をともにしてまいりました歴代を含む局僚諸氏は申すに及ばず、議員の皆様をはじめ、中央・地方の宗務員のご尽力と、宗門内外の関係者各位のご支援とご協力により、今日までどうにか重責を全うすることができました。これも偏に皆様の尊いご教導ご高配のお蔭でありまして、身にあまる光栄であります。ここに衷心よ深く御礼申しあげる次第であります。
 在任期間の大要を振り返りますと、小職に課せられた重要宗務は、二〇一五(平成二十七年に策定された宗門総合振興計画の推進でありました。宗門至重のご法要であります伝灯奉告法要及びこのたびの慶讃法要のご修行をはじめ、信心をいただき、現場で信頼され、受け入れられる人材の養成、即ち僧侶・教師・布教等の育成システムの見直しと強化、さらには、平和問題の論点整理とそれにともなう貧困問題の取り組みなど、宗門総合振興計画に従い進めさせていただきました。また、宗門の将来基盤の立て直しを期した「新たにめざす持続可能な宗務組織を構築するための具体策」を取り纏め、今後の道標もつけさせていただいたと認識しております。
 永年の懸案事項でありました、あそかビハーラ病院につきましては、結果、経営譲渡という形にはなりましたが、ビハーラ活動の継続が担保され、その後、順調に推移しております由、皆様のご理解とご協力にあらためて御礼申しあげます。
 しかしながらその反面、宗門緊要の問題でありながら、十分な成果を得ることができず、自身の力不足を痛感している課題があります。私たちは今、二つの大きな困難に直面しております。
 一つは、寺院の存続に深く関連する過疎対策であります。宗門総合振興計画にも掲げられ、就任以来、様々な取り組みを進めてまいりました。過疎対応支援員を現在十七教区に配属し、寺院の現状把握を行うとともに、支援が行える体制を整えました。さらには、寺院・門徒・地域の活化促進のため、各寺院が置かれる現状の把握と自己診断を行い、その結果を基に専門的な支援をすることを目的とした寺院診断を宗勢基本調査と連携し実施もいたしました。しかしながら、都市化が進む社会の趨勢には逆らえず、いまだ十分な効果が見いだせず、結果、私の在任期間中寺院数が百四十カ寺減少いたしましたことは、自責の念に堪えません。
 もう一つの大きな困難は、ご法義の肝要がなかなか伝わらないという現実であります。
 昨年十二月に、十代から七十代の男女合計二千人を対象に実施した「布教伝道に関する現場調査」の分析報告が『宗報』四月号に掲載されております。四種類の布教動画を視聴いただき「知人に勧めたいと思いますか」という問いに答えていただきました。残念ながら、すべての動画において、半数以下の賛同しか得られなかったということです。伝道教団として、相手に伝わらない伝道、他者に広がらない伝道は致命的であります。
 浄土真宗教学研究所所長をされた大峯顕氏は、「聖教の言葉をそのままくり返すだけではなく、現代の人々の実感となる言葉の中に、生き返らせることが大切なのです。(中略)助からない煩悩の衆生を助ける弥陀の本願という永遠の真理が、いつもその時代の言葉によって新しく語りなおされて来たのです」と仰せになっています。
 端的に申せば、阿弥陀仏のお慈悲が、なぜ摂取不捨であり得るのか。我利我欲や自分中心の思いで生きている煩悩具足のこの私が、信心ひとつで、どうして「そのまま」救われるのか。問題の本質は、この仏智の不思議について、どう語り、いかにして伝わるものにしていくのかということでありましょう。圧倒的多数の現代人は、知的思考を是とする分別心で凝り固まっている人々なのです。
 真如法性・縁起・空・無相・自然などの言葉で解き明かされてきた、かたちを超えた究極の境地、即ち、なにごとも対象化し、執われてしまう日常の認識作用・分別知が働き出す以前の、存るがままの、そのままが本来のまま顕わになっている、言語表現のとどかないお覚りの境地と、人々にも正しく・わかりやすく届く救いの言葉、この両者の間の困難さをどう結び、克服していくのか、また克服し得るのか。このことが当面する最も重要な教学上・伝道上の難題だということであります。
 去る二月二日の第四十七回常務委員会において、浄土真宗本願寺派総合研究所規程の一部を変更する宗則案を議決いただきました。研究の成果をあげるため現代教学・課題研究室と伝わる伝道研究室の二室体制をとることといたしました。伝わる伝道研究室の所掌事項の一番目は、「現代に即応する真宗教学の再構築」となっております。最新の仏教学の成果をふまえ、受け手目線を忘れない、教学の現代化・強靭化を図らなければ、助かりようのない煩悩の衆生を「そのまま」助ける弥陀の本願というご法義の肝要を、現代人に伝えることは難しいのではないでしょうか。伝え方が伝統的な方法に合致していたとしても、現代人にとって理解が困難で、その心に届かなければ、はじまりません。これからの伝道としては意味をなさないでありましょう。現代に即応する真宗教学の再構築が求められている所以であります。
 釈尊によって覚られたブッダ・ダルマ、即ち仏法は、すべての存在に通底する真実、究極の境地であり、実践を基礎づけるものであります。ご法義の肝要が相手に正しく伝わってこそ、はじめて、この世のあるがままの実相、真実はこの地上のものとなるのです。人々の安心と生きる依りどころとなるのであります。伝わる伝道の研究に携わっておられるすべての方々のご尽力に心からの敬意と期待を申しあげます。我らが宗門の存亡は、これら研究者の双肩にかかっているからであります。
 最後に、ご心配をお掛けしておりますので、新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)に関し、主要な事実について、ご報告させていただくことをお許しください。
 ご高承の通り、二〇〇五(平成十七年を始期とする「親鸞聖人七百五十回大遠忌宗門長期振興計画」から現在の「宗門総合振興計画」に引き継がれた「現代版『領解文』を制定し、拝読する」につきましては、「現代版「領解文」制定方法検討委員会」の答申で示された制定方法に基づき、ご門主様より「新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)についての消息」を発布賜りました。
 ご門主様は、ご消息で「浄土真宗では蓮如上人の時代から、自身のご法義の受けとめを表出するために『領解文』が用いられてきました。そこには「信心正因・称名報恩」などご法義の肝要が、当時の一般の人々にも理解できるよう簡潔に、また平易な言葉で記されており、領解出言の果たす役割は、今日でも決して小さくありません。しかしながら、時代の推移とともに、『領解文』の理解における平易さという面が、徐々に希薄になってきたことも否めません。したがって、これから先、この『領解文』の精神を受け継ぎつつ、念仏者として領解すべきことを正しく、わかりやすい言葉で表現し、またこれを拝読、唱和することでご法義の肝要が正確に伝わるような、いわゆる現代版の「領解文」というべきものが必要になってきます。そこでこのたび、「浄土真宗のみ教え」に師徳への感謝の念を加え、ここに新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)として示します」と仰せになり、ご消息の結びでは、「この新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)を僧俗を問わず多くの方々に、さまざまな機会で拝読、唱和いただき、み教えの肝要が広く、また次の世代に確実に伝わることを切に願っております」とご教示になっております。
 さらに、親鸞聖人御誕生八百五十年・立教開宗八百年慶讃法要のご親教において、毎座、「新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)が従来の『領解文』の精神を受け継ぎ、智慧と慈悲という如来のお徳を慕いつつ、仏智に教え導かれて生きる念仏者の確かな指針となりますことを願っております」とお述べになられております。
 然るところ、このご消息の発布手続や新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)の内容について、一部の方が事実誤認の主張をされておりますことは、誠に残念なことであります。
ご消息は、内事部より回移されたご消息文案について、「宗門法規」の定めるところに従い、事前に勧学寮の同意を得たため、同意されたそのままの文案で申達し、ご発布賜ったのであります。総局としてその手続に瑕疵はございませんし、私が文案に関与した事実もございません。
 ご消息の発布は、「宗法」第九条により、申達した総局が責任を負います。しかし、事前に勧学寮の同意がなければ、ご消息発布の申達をすることができないことは、「宗法」第十一条の規定上、明らかであります。即ち、「宗法」第十一条第二項には、「消息の発布は、あらかじめ勧学寮の同意を経なければならない」と明定されております。このたびも、この規定に基づき、勧学寮の同意があったからこそ、ご消息発布の申達手続ができたのであります。
 新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)に異議を唱え、取り下げ等を主張される一連の文書には、新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)についての消息に勧学寮が「同意」されている事実、及びご門主様が毎座、慶讃法要のご親教で「新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)が念仏者の確かな指針となることを願っております」とお述べになられている事実に言及がありません。のみならず、新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)の唱和を促されても「お念仏申されることをお勧めします」と、ご門主様のお心に全く相反する主張もされております。
 「宗法」第七十条には、「宗門の宗務機関は、その職務に属する事項を行うについて、互いに他の宗務機関に不当に干渉してはならない」と規定されております。このことから、総局は、勧学寮が同意されたご消息の内容に立入ることはできません。したがって、ご消息の取り下げや撤回等について、「宗法」上、総局は判断できる立場にはありません。
 私は、宗務を執行する総局の代表者として、事態を重く受けとめ、何とか宗門の秩序保持に努めたいとの思いから、総局会議の議を経て、去る五月十日に浅田勧学寮頭と面会いたし、その折、「新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)にかかる対応について(お願い)」と題する公文書を提出いたしました。その席上、浅田勧学寮頭と私において、次の二点を確認いたしました。
 一点目、内事部から回移されたご消息文案について勧学寮として同意された事実
 二点目、総局は、勧学寮として同意され同意書に別添されたご消息文案そのままでご門主様に申達し、これをご認証され、ご消息が発布になった事実
 この二点について確認し、間違いないとの認識を両者で共有いたしました。この点は極めて重要な事実であります。
 そのうえで、小職より、ご消息でお示しのお心を深く受けとめ、一日も早く宗門の秩序が回復されるよう、勧学寮頭が中心となられて、「勧学・司教有志の会」に名を連ねられる学階有階者の方々へご指導いただきたいこと、また本件は総局の立場と能力を超えた領域であり、勧学寮の職責に照らしてご尽力賜りたいことをお願い申しあげました。これに対し、淺田勧学寮頭は、ご理解の意を示されました。宗教専門紙の報道によれば、寮頭は「大変に大きな問題でこのままにしておくことはできない」と応答されております。現に種々、協議をはじめておられるようであります。
 今日まで、勧学寮頭よりご回答をいただけておりませんが、勧学・司教というお仲間同士でありますから、善処いただけることと信じ、速やかな対応を期待いたしております。
 六年前、二〇一七(平成二十九年の御正忌報恩講法要のご親教でご門主様は、「現代は、先のことを予測することが難しい、不確かな時代です。そして、嘘や偽りを含む多くの情報があふれています。昨年一年間で注目を集めた英単語として「Post-truth(ポストトゥルース)」、「ポスト真実」という言葉が選ばれたという新聞記事がありましたが、それは、客観的な事実や真実が重視されず、感情的な訴えが政治的に影響を与える状況を意味する形容詞だそうです。これを受けて後日の新聞には、アメリカ大統領選挙を具体例として、「ネット社会では脱真実情報が無料で拡散され、シェアされれば虚偽も真実に転化する」という記事が掲載されていました」とお述べになっておられます。正鵠を射たご指摘であります。まさに、ご消息の発布手続や新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)の内容について、SNS上に、事実誤認の主張を投稿されておりますことは、誠に残念なことであります。
 以上、新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)に関する主要な事実と要点についてご報告申しあげた次第であります。新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)を拝読唱和することで、「み教えの肝要が広く、また次の世代に確実に伝わる」ようにとのご門主様のご消息をいただき、そのお心にそうべく、一日も早く宗門の秩序が回復されますことを切に願っております。
 このたび、総長職を退くことになりましたが、皆様とともに本宗会の議席をお預かりする一員であることには変りはございません。引続き、ご法義の繁昌と、宗門の掲げる自他共に心豊かに生きることのできる社会の実現に貢献すべく微力を尽くす所存であります。何卒変らぬご厚情・ご教導を賜りますようお願い申しあげまして、退任のご挨拶と私の心からの御礼とさせていただきます。
 長い間、本当にありがとうございました。

以上


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