巣居けけ

実験小説家です。青い薔薇が食べれたら、幸せです。

巣居けけ

実験小説家です。青い薔薇が食べれたら、幸せです。

マガジン

  • けけちゃんの詩。

    詩ですん。

  • 山羊シリーズ。

    様々な山羊が蔓延る世界での、奇妙奇天烈な出来事を書くシリーズ。

  • 子宮色の母子手帳シリーズ。

    そこには四つの、素敵な短編があった。

  • 次の世界の道シリーズ。

    楽園へ行きたい存在たちのお話。

最近の記事

  • 固定された記事

消臭クラスとコカイン星人たち。

 来週。ぼくはいつでも廊下の隅で、学生服を汚しながら座ってしまっていて、ダニの死骸でべとべとな頭には、赤錠剤を取り出した後の、空になった瓶が降りかかっているんだ。東の校門へと続く紫色と黒色のゲートをくぐった時に見えた、光のような塊のゴールは誰かに取られちゃって、ぼくはもう、なにも見えなくなった眼球で、大好きな国語教師の眼底を妄想するんだ。  だからぼくは、例の、世界的に羞恥を晒している精神科医、ペンウィー・ドダー氏が作り出した『消臭クラス』という特殊学級の、無差別的で金髪ミュ

    • 梅昆布茶を飲んだことはあるかい?

       複数の飛び上がる青色の日時を完璧に間違えているリストアップされたハンギングロープ……。蛙の鳴き声を真似ている歩道の上の白い頭のカクテル……。ハエジゴクを食べようとしている昆虫学者。 「面目躍如といったところか」 「なにがだよ」  クズリの黒ずんだ死骸で一晩をやり過ごす男……。「なあお前、梅昆布茶を飲んだことはあるかい?」 「待ってくれ。飲んでいるとして、それならどうする?」 「このショットガンで撃つ」  すると奥の方から受付女がすました顔で近づいてきて、いつかの録音の日々に

      • 転生。

         晴れている海岸線を一人で歩いているとき、どうにも背筋が痒くなってきた。最初は無視をしていたが、いつまでも違和感は背筋を撫でていて相当に気持ちが悪かったので、着ていた白いワンピースを一心不乱に脱いだ。背中の肌と直接触れ合う布の部分を見てみると、そこは赤黒く腫れていた。手の平と同等の大きさで、円形。綺麗な丘のようになっていて、中心にいくほど赤色は濃くなっていた。臭いは無く、そっと触れてみると、質感はなぜかジャムのようで、指には何も付着しないが、触れた部分はしっかりと痒くなる。多

        • あの、結局あなたは誰なんですか。

          「いや、だからさ! コイツは誰なのかって聞いてんの。誰?」 「いや、あの……だから、局長で画家の、お医者様ですよ」 「そうです。私が山羊なのです」 「いやいや、おかしいでしょ。なんで自動販売機がそんなことを言うんですか。どこでどう判断したら、これが局長になるんですが?」 「違います! 局長で画家の、お医者様です」 「はい。山羊です」 「ああああっ! なんなんだよ! どうして自動販売機が言葉を発している? なんで山羊を名乗る? なんで? 画家とか医者ってのはどこからきたんだ? 

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        消臭クラスとコカイン星人たち。

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        • けけちゃんの詩。
          6本
        • 山羊シリーズ。
          14本
        • 子宮色の母子手帳シリーズ。
          4本
        • 次の世界の道シリーズ。
          4本

        記事

          優越感のタロット。

          「なあタロット。お前がどうしてもラジオ・ミーティングを受けたいのなら、さっさと私に気の利いた言葉を投げておく必要がある。下水道はいつでも待機しているわけではないからな」ロドは注文用のベルを連続で押し込んでいる。店員が走って来る様子はない。「雑誌の一番上になりたくないのなら、なおさらね」 「それはどういうこと?」  ロドはこの街の情勢に詳しくない。それは、彼自身がまだこの街に現れてひと月も立っていないからであり、タロットはそのことが何よりも気がかりだった。 「そういえばお前、あ

          優越感のタロット。

          伸縮自在のミスター・バブリー。

           教師の唱えるカタルシス効果と、医師の語る薬物治療方法は必ずしも相互関係にあるとは照明できない。科学者はいつでも探求を示し、夜は焼肉店で酒を浴びる。複雑な迷路のような街並みを一斉し、それが全て自身の物だと理解している偉人は少なかった。ミスター・バブリーはいつでも伸縮自在を誇りに思っている……。  粗悪品を売りつけた小児科医と、それを見過ごしていた中間管理職の友人が、海の見える自宅で缶の酒を蹴り上げた。七メートル先の交差点の目の前で、蛆虫で出来ているサッカーボールほどの球体を視

          伸縮自在のミスター・バブリー。

          マイネチャー・ヒルダンの愉快な外交。

          「不愉快だ! こんな食事会で、どうして口からブラックコーヒーを吐き出さないといけないんだ!」  茶髪の歌手は、口からゼリー状のブラックコーヒーをボドボドと吐き出しているスーツの警察官を怒鳴りつける。微弱な電撃が走ったような衝撃が長方形の室内に響き、そこに居る誰もが足の裏に痺れを感じていた。 「私はもう、失礼するっ!」  歌手は隣に座っている護衛に素早い敬礼をし、それから出来の悪いロボットのようなぎこちない歩行で退室をした。 「ああ、彼女は何者なんだね? 軍曹?」警察官の右隣り

          マイネチャー・ヒルダンの愉快な外交。

          ジャンキーのプール。

          「まだこの時間帯だと、空は明るく青色だな」男は晴天という現在の天気に、雨粒のような憂いを感じている。冷水を頭から被ったような感情を蓄えている男の心臓は、すでにマッチポンプが行われた後の縮小を始めている。  男は咥え煙草を右の親指と人差し指でつまみ上げ、歩道を歩いているウエイトレスの受け皿に投げ入れた。そして一度だけ鼻から空気を吐き出すと、隣町の工場で受け取った黒コートに付いている茶色いシミを見つめてから空を見る。外の冷たい空気を喉の遠し、炭酸での潤いが簡単に乾燥していくのを感

          ジャンキーのプール。

          所詮は山羊だから。

           部屋から出たとしても、その先は同様の素材で出来ていた。  豆腐のような白濁に囲まれた廊下が左右に広がっている。山羊はそれに、躊躇なく足を踏み入れた。  廊下の山羊が縦に並べば、六匹ほどは入れるほどの幅がある廊下。その床は部屋のそれよりもひんやりとしていた。突き刺すようなものではなく、染み込んでくるような冷たさだった。一定の間隔で棒状の蛍光灯が設置されている天井はそれなりに高い位置にあり、山羊のジャンプではまず届かない。また廊下はどちらにも長く、山羊の目でも先は見えなかった。

          所詮は山羊だから。

          最高の医療チーム。

           おれは前から甚だ疑問だったんだ。どうして入院中の奴らは皆、枝のような萎れて細っこい、不気味な手足で四足歩行をして、清潔な廊下を這いずり回っているのか……。どうして太陽の見えるガラス張りの天井を見上げると、白いはずの太陽が黄緑色をしているのか……。  自分にとっての一番の色を取り入れた看護師衣服を着ている看護師たちは、おれたち患者には何もしない。おれたちは薬を飲む時にだけ行儀を良くして、まるで四足歩行のペットがエサをねだるように看護師の両足に縋りついている……。  おれは新し

          最高の医療チーム。

          側撃雷。

           まず、例の暴行事件の二人目の主役であったあの執筆家は、首謀者が世間から干されている間に行方をくらます。唐突に消えたので、当時の世間は神隠しにでも遭ったのではないかと大々的に疑ったが、そんな馬鹿げた話が現実にあるわけがないという他の著名な作家たちの意見によって目を覚まし、正当な失踪として扱われた。執筆家は様々な分野で文字を書く人間だったので、それなりに知名があり、故に徹底的且つ長期的な捜索が行われた。しかし何日、何か月にも続いた捜索の結果は散々たるもので、本人どころか手掛かり

          側撃雷。

          棘と執筆家。

           一人の書斎で頭を抱える執筆家は、「今日ほど書けなかった日は無い……」と机を睨んで悩みを吐き出す。しかし、ちょうど二十四時間前も同様の言葉を発しており、三日前に取り出した原稿用紙には何も書かれていなかった。そして二秒後には、机の隅に放置された氷とウイスキーが入ったグラスの、溶け始めた氷が奏でるカランという音に驚いてしまう。 「ああ驚いた……」  執筆家のそれは、いわゆるトリップと呼ぶことができるものだった。体にかかっているはずの重力が消え、体内がじっとりと熱くなる。まるで自分

          棘と執筆家。

          医師のペンウィー。

          「これ、あげるよ」  ピンク色のワンピースを着ている少女はそう言って、少年の目の前に飴玉を突き出した。 「ありがと……」枯れている声の少年は不器用な笑みを少女に向けて、眼前の赤い球体に二本指を伸ばした。しかし、少年のシミのような斑点が多い指が飴玉に触れるその瞬間、少女は飴玉をひょいと引っ込め、そのまま自分の口の中に入れ、少年に見せつけるように、とてもわざとらしく、ごりごりぼりぼりと音を立てて豪快に噛み砕き、ごくんと飲み込んでしまった。 「んへへ、嘘だよ」  少女の目には嘲笑が

          医師のペンウィー。

          D・B・サモは何者だ。

           D・B・サモは何者だ。それをこの場でやっても良いのだろうかという問いに対する答えを、私はまだ所有してはいない。結局のところ、私はこれをしっかりとした意識の中で書くことはできないので、今日も例外なく液体を体に流し込む。するとどこからか静止の声が聞こえてくるが、どうせ幻聴だろうと思い込んで無視をする。めまいの多い生活なので、地震が発生しても気づかない。危機感は苦味と共に昇華され、ついに私は自身の中に居るらしいD・B・サモについての思考を巡らせる。 ■観測者。 「彼の好奇心を削

          D・B・サモは何者だ。

          マインドコントロールは東に位置するのか。

          『最低限の入れ知恵と、新鮮なトマトだけを、どうにか西に……』  悪名高い黒い人間の、ただ一つの錠剤まみれな言葉がローデンの頭の中で反響する。ローデンはそれに嫌気がさして、自慢の椅子の背もたれに体を預ける。鼻をひくひくとさせると血の臭いを感じることができ、それで正気を保つ。まるで貧乏な中毒者のやり方だったが、ローデンはそんなやり方にとても満足をしている。瞳を閉じると、どこにでも波が目立っている過去が見える。穏やかでも良い物でもないが、退屈ではなかった過去。出来事をたどって笑みが

          マインドコントロールは東に位置するのか。

          あの病院を真似て。

           流れ作業の受付を済ませた男は、早速適当な入院室に入り込み、そこでベッドの上で療養生活を送っている患者に話しかける。「なあ、いずれはみんなで円を創ろうな?」まるで友人のような態度で接すれば、向こうもそういう雰囲気の中で言葉を返してくれる。 「ああ、そういうのもアリかもしれないな。美味しそうだ」とろけた頭を持っている人型実態が男に答えを出した。すると男はすぐさま賛同して、「いい兄弟を持った」と言い、口角を吊り上げて白い歯列を見せる。鏡のような輝かしさを存分に見せつけると、売店を

          あの病院を真似て。