エッセイ : マイペース

久しぶりの更新。いつの間にか、季節は夏になろうとしている。
この数ヵ月間、私は人生で初めての受験勉強に挑んでいた。

とはいっても、普通の高校生の大学受験とは違う。

私は通っている学校のシステム上、大学への編入試験を受けるため、センター試験等を受けている方たちよりも幾分か好都合な点が多いのだ。

ただ、簡単に入れるものでもない。学校側は進学については全部学生に任せっきりだ。授業も進学する人のための…なんてものはごくわずか。

そんな環境に、どっかの大学に入れればいいなあくらいのボーッとした男がいたらどうなるだろうか。

それをご察しして頂いた上で、今回のメインに入ろうと思う。

ある日、私は完全に自堕落であった春休み(ほとんど勉強してなかった)を取り戻すために、必死で机に向かっていた。

部屋の机の上にある漫画、小説、その他もろもろを本棚にしまって、数式と向き合う。

問題の解き方を記憶し、類題を解き、定着させての繰り返し。

ふうと一息ついた時に、ドアからコンコンとノックの音が聞こえた。

同じく進学を考えた友人だ。彼とは付き合いが長い。結構互いに自身をさらけ出しており、わだかまりもない。
だが、あえて自分のことを棚にあげて言うならば少しくせ者である。

他愛もない話の最中、私はバンド繋がりで仲良くなった友人と焼き肉にいった話をした。

ただ、受験まで時間がないのは重々承知していたため、友人たちと食を交わしたのは夜の数時間である。すごくリフレッシュできた。

そんな話を彼にしたところ、彼は怪訝そうに口を開いた。

「お前にそんな時間あると思ってんの?」
さらに、彼は水を得た魚のように生き生きと口を動かす。
「その数時間でいったい何問問題が解けたの?」
やら、
「こんな時期に行くなんて受かりたくないの?」
やら、きつい口調で私に言ってきた。
私はその当時、自分への自信というか、自身の考える正しさのようなものが薄かったため、彼の言ったことをとても強く受け止めた。

それからは、何をするにもその言葉がちらついた。
何かを食べに行っても、散歩しに行っても、どうしてもリフレッシュすることができなくなってしまった。

彼が不真面目ならば、彼の言葉をそこまで気にもしないのだが、とにかく勉強の出来るやつだったので、それもできなかった。

孤独の戦いであった。
私は常に勉強していなければ大学に落ちてしまう。脳を酷使し、成長させ、少しでも多く数式を頭のなかにいれなければいけないと思った。
正直、いま思うとそれだけ思い込むほどに私は疲弊し、追い込まれていた。

だが、とある日、私の隣の部屋から彼の声が聞こえてきた。どでかい笑い声だ。
どうやら就職の決まったらしい別の友人とゲームを楽しんでるようだった。
彼の声は私が夕食を食べに行った時間よりも断然に多い期間で聞こえてきた。
その瞬間、私の頭は色々なものが巡り始めた。
まずは彼への怒りだった。
なぜ私にあそこまで言っておいて自分はバカ笑いして楽しんでいるんだ。自分が言ったことを覚えていないのか。etc

そして、次第に様々な思いが頭を巡り始める。彼への憎しみが主だったが、ただ、最後は自分への情けなさにたどり着いた。

何を気にしていたんだ。俺は。

それからは何を言われても自分のしたいことをした。勉強はもちろんやっていたが、その分だけ小説を読み、漫画を読み、心の平穏を取り戻していこうとした。

人は常に、周囲の目にさらされている。何かをする度に、周囲は自分勝手なことを言ったりする。あたかもあなたのためと言わんばかりに。
それに当てられる必要もない。
言葉を発した人は無責任だから。その言葉通りの行動をとって失敗しても責任をとってはくれない。結局は自分の正しさを信じるしかないのだ。

彼は私が何かをしたことを知った度にバカだなあと言ってきたりもしたが、全く気にしなかった(というか無視した)。

バカだなあと言われてもおかしくないのは、過去の私である。
人の言葉を受け止め、怯え、自分を見失う。
まるで、海に沈んでしまった人形だ。

波に流され、気がつけばどこかもわからない真っ暗な海の底。日を浴びることは出来ないまま、腐っていく。

自分で手を動かすことは操ってくれる人がいないとしてはいけないことから、ただただ、海に差す日差しを眺めて気分を紛らわすだけだ。それではいけない。

私はようやく、自らの腕を動かして、日を浴びることができた。

彼の言っていることは間違っていない。そのお陰で必死で勉強をしたし、春休みの分も取り返せたと思う。
間違っていたとしたら私の判断だったんだろうと思う。自分でもわかっているのだ。

だが、私の子供っぽい怒りは消えることはなかった。というかこの文を書いている今も、ちょっとイライラしている。
だから今度また同じようなことを言われたら彼に言ってやろうと思う。

「ゲームは1日一時間だよね。」

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