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推しのミュージカルを心眼で観てきた

記憶が色褪せないうちに記しておいた、ものをやっと公開。


実は、父が入院して手術していた。

ミュージカルのチケットが取れたのは確か8月とかそのあたり。まだ父の手術の日程も決まっていない頃。

やっと取れた渾身の(?)一枚だった。

どうしても行きたかった。

手術の日程は、ミュージカルの一週間ほど前。

予定では4日くらいで退院してくるはずだった。

ミュージカルの日は退院から3日後の予定だった。

うん、なんとかなるだろう。

しかし、父は術後熱が出てしまい、退院が延びた。

いつ退院と言われるのか、今日か明日か。

ミュージカルの日に退院と言われたらどうしよう。

この日だけはどうしても迎えに行けないから、この日退院ですと言われても「娘が迎えに来れないから別の日にしてください」と言ってね、と父に念を押す。

しかし、忘れっぽい父のこと。

私が言ったことも忘れてしまうのではないか、とハラハラした。

でももし父が忘れていたら、私が直接病院に電話をして「その日はどうしても迎えに行けないので別の日にしてください」と言えばいい。

そう思いながらも当日を迎えるまで内心はドキドキだった。

兄からは「この日だけは絶対ダメだと思う日に限って大体の人は体調が悪くなる」などと不穏なことを言われたりして、ミュージカルの日の朝に病院から急変の連絡が入ったらどうしよう…などとまたしても心配になる。そうなったらもう諦めるしかないか。

しかし、父の熱は下がらず当日を迎える。

よし(?)、退院は回避した。あとは父の容態が急変しないことを祈るばかり。

ほぼ5年ぶりくらいの東京、初めて行く場所。朝が弱いから起きられるか、下痢して電車を逃したりしないか。

これら全部ドキドキ要因。

どこで乗り換えて駅からどうやって行くのか、めっちゃ調べた。

ちゃんと起きることができて、下痢にも見舞われず予定通りの電車に乗れて、事前に調べて何回も写真で見ていたまんまの階段が見えた時にはうれしかった。

人の波に乗って会場に到着。

トイレも済ませ、席についた段階でもう感動して涙が出そうだった。

父の手術、退院日程の延期、容態の急変、病院からの連絡、寝坊、下痢等々を無事回避してやっとここまで辿り着けた…あーもう満足かも…感無量…そう思っている時に段々照明が暗くなり、ドーンと音楽が鳴り始め、そこでやっと「ここで終わりじゃない、これから始まるんだ!」と覚醒。

始まったミュージカルはそれはそれはもう素晴らしかった。

推し目当てでチケットを取ったけど、出演者の方たち全員素晴らしくて、一糸みだれぬパフォーマンスに「プロってすごいなあ~…」と感動しきり。

たくさんの出演者が並ぶ中で一番キレのあるダンスを見せてくれて一番輝いていた推しの姿に、何度も涙ぐんだ。

すごい!すごい!それしか思わなかった。

内容もとてもおもしろくて、また勉強になることも多かった。

席は、真ん中よりはやや後ろのほうだったので、見えるかどうかも心配で、オペラグラスを探したけど無くて、もうこのままメガネ頼りで観るしかない、と心を決めていたのだが、なんと推しの顔が見える!表情が分かる!なーんだ後方でもこんなに見えるんだー!と喜んでいたのだが、何故か推し以外の出演者の方の顔は全然見えない。推し以外全員のっぺらぼうに見える。

これはどういうことか。

これはアレだ、私、目で見てるんじゃない、これは…脳が補正している!!

私の脳内に莫大に貯まっている推しの表情データ。それを元に脳が補正して「見えている」と錯覚しているだけなのだ!

でもそれでもいい!!これはもはや心眼だ!!!

私、心眼でミュージカル観てきました。

でも本当に見えたんです。脳の補正半端無いですよ。

緑内障の人は自覚症状がないまま病気が進んでいって、本当は少しずつ視野が狭くなっているのに脳が補正して見えてるように錯覚してしまうため、かなり病状が進んでからじゃないと気づかない、という話を聞いた時は「脳ってバカだな~何してくれてんの?」と思っていた。でもバカにしてごめん。脳の補正、すごかった。ありがとう脳。

韓国ドラマ『初対面だけど愛してます』でもそんな話が出てきた。

とある事故に巻き込まれたとある会社の部長が、相貌失認になってしまったが、なぜか秘書の顔だけは見える。医者にその話をすると「それはお前の脳が見せているんだ」と言われる。「目で見てるんじゃない、脳が過去のデータを元にこんな表情をしているはずだ、という顔を見せている。つまりお前が見ているのは今の本当の表情ではないんだ」と…

すると私が見ていた推しの表情も、本当の表情ではなかったのか…?

いや、私には見えていた。心眼で見たのだから間違いない。それは間違いない。

今でもはっきり思い出せる。推しの笑顔、表情。私は確実に「観た」と断言できる。

ただ一つ、心眼でもどうにもならなかったものがあった。

それは前の席の人のアホ毛。

ぴょんぴょん飛び出たアホ毛だけは視界に入り、推しの顔を遮った。

ミュージカルや舞台や映画を鑑賞に行かれる皆さん、どうか後ろの席の人のために、アホ毛だけはどうにか処理をしてから行かれたし。

その後、父も無事に退院してきました。

父の入院も東京でのミュージカル観劇も、ワクチン打っておいて良かったな~と思った。

事前にあれこれ心配して不安になっていたけど、万事うまくいった。

心配事の9割は起こらないって本当かもしれない。

久しぶりの東京は活気があってとても良かった。

またちょくちょく行きたいな。

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