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マンガでわかる国連スペースデブリ低減ガイドラインから学ぶルールメイキング

スペースデブリとは?

ロケットの打上げをはじめとする様々な宇宙ビジネスが展開されている中、関心が向けられているのが宇宙空間を漂う大量の衛星の部品に関する問題、いわゆるスペースデブリ(宇宙ごみ)問題です。

ちなみに6月13日の国会で、アントニオ猪木議員が「元気ですかーー!(略)宇宙ゴミの対策は急務だと思う。我が国の人工衛星に宇宙ゴミが衝突したらどうするのか。」と質問し、スペースデブリが話題となっています。

また、スペースデブリ除去ビジネスを手がける企業もあります。

スペースデブリは、地球上から観測できる10cm以上のもので約2万個、1mm以下のものも含めると推定5兆8,000億個以上あると言われています。その速度は秒速7〜8kmで、回収も困難です。いくら小さいとはいえ、そのスピードからすれば衝突時の被害は計り知れません。ちなみにライフル銃の弾丸初速がだいたい秒速800mくらいですから、これと比較すれば、その速度がいかに桁違いなのかがわかります。

何が問題か

宇宙条約には、「条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染及び地球外物質の導入から生ずる地球の環境の悪化を避けるように月その他の天体を含む宇宙空間の研究及び探査を実施し、かつ、必要な場合には、このための適当な措置を執るものとする。」と規定されています。
要するに、「宇宙空間はきれいに使おう」ということですが、スペースデブリについて明言されているわけではありません。宇宙関連条約には、デブリの発生を禁止する明確な規定がないのです。

ないなら作れば良いではないかというと、そう簡単にはいきません。
拘束力のある条約を作るには、国連の全員一致が求められるためです。

そこで登場するのが、関係機関により作られたガイドラインです。
世界で最も権威があるといわれているのが国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)の「スペースデブリ低減ガイドライン」ですが、その制定経緯をみるとかなりの紆余曲折があり、国連における日本の立ち位置も興味深いものがありました。
今回は、その制定経緯と関係性を整理します。

NASA標準

スペースデブリに関するルールとして、まず作られたのが、1996年にNASAが作った安全基準「NSS1740.14:Guidelines and Assessment Procedures for Limiting Orbital」でした。
しかし、起草者がサイエンティストであり要求文書ではないこともあり、実行面で疑義が持たれました(スペースデブリ 加藤明p165)。

NASDA標準

翌年の1997年、NASDAは、「スペースデブリ発生標準」を作りました。NASA標準とほぼ同じ技術的要求が規定されていますが、検証できない細かい点までは立ち入っていません。
NASDAは、スペースデブリ問題に対する取り組みを世界共通のものとするため、元JAXAの加藤明氏が中心となり、国連にスペースデブリの規制に関する委員会を立ち上げることを提案します。
しかし、スペースデブリに間する規制が進めば宇宙活動の自由さが損なわれるのではないかという懸念や、それにより生じる影響も予測できなかったこと、費用対効果の問題が指摘され、結局、国連での賛成は得られませんでした。なお、国内では「スペースデブリの規制は途上国が将来の権益確保のために主張しているものだ」という声すらあったようです(スペースデブリ 加藤明p255)。

IADCへ

国連が賛成しないとなれば、国連以外のところに持ち込むほかありません。そこで、スペースデブリの研究を推進するための機関である世界機関間スペースデブリ調整委員会(Inter-Agency Space Debris Coordination Committee:IADC)にガイドライン制定の提案をします。
ロシアからの反発があったようですが、アメリカの説得もありプロジェクト化されました。国連では反対していたアメリカが、IADCでは味方となったのです。
そして3年後の2002年、「IADCスペースデブリ低減ガイドライン」が制定されるに至りました。

再び国連へ

IADCスペースデブリ低減ガイドラインの目処が立った頃、アメリカは、欧州諸国と共に、ガイドラインを認めるように国連に提案しました。その際の提案国に日本は入っていないようです。国連は委員会を設置し、2007年6月の国連総会で「国連スペースデブリ低減ガイドライン」が採択されました。
ちなみにこれは条約ではなく、法的拘束力のないソフトローというものになります。

スペースデブリ規制の流れ

実は、国連スペースデブリ低減ガイドライン制定の裏側で、並行して自主規制が作成されていました。例えば欧州では欧州行動規範が作成されています(しかし、このルールは死文化しているのではという疑問が呈されています)。
このような自主規制の流れを受け、国際標準化機構でもISOスペースデブリ低減要求が作成され、スペースデブリ低減のための活動が浸透してきています。

ルールメイキングの難しさ

このように、スペースデブリをめぐるルールは、社会課題解決のために行動を起こした日本がいったん挫折を経験しながらも、IADCを通じ、徐々に関係者を巻き込みながら作り上げていったという歴史があります。
条約にせよ会社のルールにせよ、ルールメイキングの際には関係者間の調整が必要です。ルールは作った側がマウントを取れるわけですから、抵抗勢力も一定程度いるでしょう。
それでもなお国連スペースデブリ低減ガイドラインが制定できたのは、以下の背景事情があったと分析できます。

①日本が作成したルールがアメリカの基準と矛盾しないこと
②法的拘束力がないことを前提とし、各国の懸念を取り除いたこと
③IADCを通じて成果物としてガイドラインを作ったこと
④スペースデブリの低減、リスク回避という最終的に目指すべきビジョンは共通し利害が一致していたこと

対立構造が前提とされなければ(A案とB案どちらが優れているか?という選択を求める形とならなければ(①))、そもそも関係者の調整がしやすい土壌が整っているわけですから、関係者が持つ懸念の根本原因を取り除いてあげれば(②)コンセンサスは取りやすいでしょう。
関係者を巻き込み目に見える成果物を作っておくことで(③)、最初からプロジェクトに関わっていない人でも予測可能性を立てられます。

④で興味深いのは、国連で反対していたアメリカがIADCではロシアを説得していたという点です。フィールドが違えば立場も違うでしょうから、「昨日の敵は今日の友」もあり得ることです(逆もまた然り)。しかし、ビジョンが共通していれば、アプローチは違えど同じ方向を目指す「パートナー」といえます。

なお、アメリカと欧州諸国が国連にガイドラインを持ち込んだ際、功績国であるはずの日本が提案国とされなかったことについては、ルールメイキングのためにはある種の「寛容性」も必要であるともいえるでしょうか。

よく組織においては「根回しが重要」と耳にしますが、事前調整とか内諾というようにざっくりと捉えるのではなく、目的達成のために必要なタスクを分解し、その中身を分析してみると良いのかもしれません。A案とB案どちらかに決めるということであれば別段の考慮が必要でしょうし、関係者の懸念も共通しているとは限りません。

いずれにしても、ビジョンの共通性がなければそもそも組織は成り立ちませんから、ルールメイキングの前提として捉える必要があるでしょう。

おわりに

今後、小型ロケットや衛星の量産等などにより、軌道上により多くの「物」が存在していくことが想定されます。
ルールもさることながら、どのように衝突を防止するか、あるいは回収するかといった技術的側面にも注目です。

参考:
・JAXAホームページ スペースデブリ対策の研究
http://www.kenkai.jaxa.jp/research_fy27/mitou/mit-debris.html
・スペースデブリ 加藤明
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎ほか
・宇宙法ハンドブック 慶應義塾大学宇宙法センター
・スペースデブリ対策の取組について 内閣府宇宙開発戦略推進事務局
https://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-kiban/kiban-dai43/pdf/siryou1.pdf

マンガ:
昭和が生んだ天才美少女漫画家、あんじゅ先生が運営するオンラインサロン「あんマンサロン」に所属するG!onさんに作成いただきました。
ありがとうございます!

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ご覧いただきありがとうございます!!
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Ryosuke Hoshi(3分でわかる宇宙法)

外資系スタートアップの企業内弁護士 住居、地方創生をはじめ社会課題の解決に挑みつつ、宇宙に関するルールを研究、発信 技術と法律が交差するとき、私たちの暮らしはもっと良くなる
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