見出し画像

3分でわかるデブリ除去ビジネスの法律問題

画像1

ロケットや人工衛星の打上げ増加に伴い、デブリ除去ビジネスが注目されています。
宇宙空間には、現在確認できる10㎝以上の物体だけでも約2万個、1cm以上は50~70万個、1mm以上は1億個を超えるとされています(JAXAウェブサイト「スペースデブリに関してよくある質問(FAQ)」)。

こうしたデブリは秒速約8キロで宇宙空間を漂っており、いつかは衝突の危険性が顕在化することが懸念されています。

国連スペースデブリガイドラインにはデブリを出さないための規定がありますし、日本の宇宙活動法にも打上げ許可の要件としてデブリを抑制することが含まれています。
これらは将来の発生を抑止する観点なので、現時点で存在するデブリについては除去するか危険性のないところに移動させることが必要です。
そのような課題に対し、いち早く取り組んでいるのがアストロスケールです。

デブリ除去ビジネスの法的課題

デブリ除去ビジネスには、法律・条約上どのような課題があるのでしょうか?未知の領域でもあり今後の技術によるところもありますが、いくつか取り上げてみました。

登録国の同意が得られるか?どのように得るか?
人工衛星やロケットなどの宇宙物体は、登録によってどこの国のものなのかが明らかにされます。

デブリとはいえ、機能しなくなっても登録された宇宙物体の一部ではあります。除去するには登録国の同意が必要です。

10cm以上のデブリは地球から検知が可能ですが、それ以下となると難しく、そもそもどこの国の登録がなされているか不明確となることも考えられます。問題の根本解決のためには10cm以下のデブリの除去は課題でしょう。

コスト負担者は誰か?インセンティブがあるか?
仮にデブリを除去できたとしても、そのコストは誰が負担すべきかという問題があります。
例えば自国のデブリを除去して欲しいと委託されて除去された場合であれば、委託者である国が負担すべきでしょう。
しかし、デブリを除去しないことによる法的制裁はなく、ガイドラインも拘束力はないことから、そのような申し出をするインセンティブは強くないものと考えられます。

除去に関する損害賠償ー誤って別の衛星に支障を来した場合?
宇宙損害責任条約では、軌道上で発生した損害は過失責任となります。
仮にデブリ除去の際に損害を発生させた場合(間違いなど)には、賠償を求める側が除去国(事業者)の過失を主張立証しなければなりません。

平和利用原則との関係
もし、デブリ除去手段として破壊する方法を採用したとなれば、宇宙の平和的利用原則との関係でどのように考えるべきかも問題となる可能性があります。
宇宙空間の平和利用に関し、宇宙条約は以下のように定めています。

①核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せない
②①の兵器を配置しない

デブリを除去する衛星は「核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体」とはいえないものの、態様によっては「平和的利用」そのものの存在意義との関係で問題となるかもしれません。

ルール作りが急務

いずれにしても、現在の法制度のもとでデブリ除去ビジネスを進めていけばルールの未整備がボトルネックとなってしまいかねません。技術的課題もさることながら、人命に関わる大きな事故が起きる前にルール作りを進めていく必要があり、現在も議論が進んでいます。

参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・慶應義塾大学宇宙法研究センター 第10回宇宙法シンポジウム 「先端的な軌道上活動に関する法的課題」研究会 石井由梨佳


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?